2011 Fiscal Year Research-status Report
孤発性筋萎縮性側索硬化症の剖検脳脊髄組織におけるRNA編集酵素活性異常の解析
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23790978
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日出山 拓人 東京大学, 保健・健康推進本部, 助教 (30511456)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 筋萎縮性側索硬化症 / RNA編集 / AMPA受容体 / GluA2 / 孤発性 |
Research Abstract |
孤発性筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALS)では,グルタミン酸受容体サブユニットであるGluA2 (GluR2) のRNA編集異常が,少数例の孤発性ALS例と疾患対照,正常対照例の剖検組織の検討から疾患特異的に生じていることが,先行研究で明らかにされていた. この結果をふまえ,GluA2 Q/R部位の編集異常はRNA編集酵素であるADAR2活性低下によるものかどうか,を検討した.方法は,単一運動ニューロン組織でGluA2 Q/R 部位のRNA編集に特異的に関わるADAR2活性低下の有無を検討するために,ADAR2 mRNA発現量,GluA2 Q/R部位以外のADAR2 基質の編集率を正常対照,孤発性ALS,疾患対照(多系統萎縮症)で測定した.約30人の様々な症状を示した,年齢も経過も様々の孤発性ALS剖検凍結組織由来の脊髄運動ニューロンを調べた. その結果,正常及び疾患対照群において,検索した全ての運動ニューロンにおいてGluA2 Q/R部位のRNA編集率は例外なく100%であり,その一方でALS群の全例で,未編集型GluA2を発現する運動ニューロンが検出された.ALSの運動ニューロンでは,ADAR2の活性が落ちており, ADAR2 mRNAの発現も低下していた.興味深いことに,孤発性ALSの編集型GluA2 のみを発現する一見正常な運動ニューロンにおいても有意な発現低下がみられ,さらに未編集型を発現する運動ニューロンでは,著減していることが分かった. 以上から,ALSの細胞死の原因が,運動ニューロンにおけるGluA2 Q/R部位を触媒するADAR2活性低下によることがADAR2の特異基質におけるRNA編集率の低下とADAR2 mRNA発現量の低下から明らかにすることが出来た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,運動ニューロンのレーザーダイセクターによる回収が可能で,RNA量も先行実験のさいに検討した運動ニューロン数のプールでRT-PCR,PCR,Real-time PCRで十分再現性の高い増幅率を得ることが出来た.そのため,震災後の節電などによる実験計画の遅れも一時期あったが,冬には成果の一部を2011年北米神経科学大会,2011年ALS/MND国際シンポジウム(シドニー)で報告することが出来,実験結果の一部を,Hideyama T, et al:Profound downregulation of the RNA editing enzyme ADAR2 in ALS spinal motor neurons.Neurobiol Dis. 2012,45(3):1121-8. に発表することが出来た.
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Strategy for Future Research Activity |
少数例のALS脊髄前角組織,単一脊髄運動ニューロンでの検討でAMPA受容体サブユニット GluR2 Q/R部位のRNA編集率が低下していることをふまえて,昨年度は,GluR2 Q/R部位の編集異常はRNA編集酵素であるADAR2活性低下によるものか,を知るために,生化学に検討を進めた. さらに,今後は,生化学的検討に加えて,免疫組織化学的に検討する研究計画を立てている.ADAR2の活性低下を免疫組織化学的に検討するため,ヒト脊髄,脳剖検組織において,抗ADAR2抗体による免疫組織化学にて,正常対照と孤発性ALSの運動ニューロン間の変化,について実験を行いたい. まず,条件検討と脊髄前角運動ニューロンの活性低下の検討を進める.ヒト脊髄剖検組織において,抗ADAR2抗体による免疫組織化学にて正常対照と孤発性ALSの運動ニューロン間の検討,孤発性ALSにおいて神経細胞死を起こしているもの,封入体の見られるもの,所見のないニューロン間での違いがあるか検討する.抗体については,抗ADAR2抗体により,ADAR2コンディショナルノックアウトマウスではノックアウトした運動ニューロンでは免疫組織化学的に抗ADAR2抗体の染色性が無いこと,からADAR2活性の変化の検出が可能であることが分かった. 先行研究のマウスについては,灌流固定後,スクロース置換法により,凍結切片を作製後,ABC法を用いた免疫組織化学で抗ADAR2抗体による適切な染色条件が検討されており,少数例であるが,ヒト剖検組織においても凍結切片及びパラフィンについて,先行研究で検討している.マウスを用いて加齢の変化などADAR2の特性も併せて検討する.凍結状態,パラフィン切片における保存状態の程度に染色性が症例毎に異なる可能性があり,DAB法以外にも蛍光抗体染色などより定量性,再現性が得られる条件検討を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の実験計画の生化学的検討の継続及び免疫染色を中心に実験し,画像及び統計学的解析,定量的なデータ処理を多角的に進める.蛍光染色による多重染色を検討しており,画像処理に必要なPC,PC関連の入出力デバイスを整備し,十分な解析が可能な状態を維持する.また,昨年度の成果を,国内学会及び国際学会で報告し成果を発信するようにする.また,研究成果を論文にまとめる.
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Research Products
(13 results)