2011 Fiscal Year Research-status Report
ω‐3多価不飽和脂肪酸による核内受容体を介した多発性硬化症の新たな病態制御
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23791005
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
土居 芳充 大阪医科大学, 医学部, 助教 (20597174)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 自己免疫疾患 / 多発性硬化症 / 核内受容体 / サイトカイン / 不飽和脂肪酸 |
Research Abstract |
EPAは本邦発の大規模臨床試験 (JELIS) において、抗脂血症患者の心血管イベントを抑制した事で知られている。その作用機序は、動脈硬化病変において、 EPAが核内受容体PPARsを誘導し、抗炎症作用を発揮した為と考えられている。そこで我々は、多発性硬化症に対して、EPAがその抗炎症作用を発揮し、新規治療薬となる可能性について検討した。 魚粉抜きの飼料を与えたマウスに、多発性硬化症の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎 (experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE) をマウスに誘導した場合、EPA投与群でEAEの重症度が有意に抑制された。またEAE誘導後の中枢神経浸潤CD4T細胞を採取したところ、EPA投与群ではIL-17, IFN-g の炎症性サイトカイン産生が低下し、PPARa/b/g 全ての発現が高い事が分かった。驚いた事に、末梢の脾臓細胞ではPPARg が弱く誘導されるものの、むしろIFN-g の発現が高くTh1反応が誘導される事が分かった。 以上の結果は、EPAが中枢神経でCD4T細胞にPPARsを誘導し、EAEに対しても抗炎症作用を示したと考えて矛盾しない。末梢ではPPARg のみの弱い誘導しか示さなかった事は、EPAの移行性と親和性によると考えられる。すなわち、中枢神経ではCD4T細胞はpostcapillary venuleの血管周囲腔で一旦刺激を受けて活性化される事、またEPAはPPARa/b/g の中で最もPPARg に親和性が高い事である。 以上より、動脈硬化病変以外にも中枢神経系において、EPAがPPARsを誘導し抗炎症作用を示す事を明らかにした。よってfish oil 由来の既存の国産薬であるEPAが、難治性自己免疫疾患である多発性硬化症に対し、新規治療薬となる可能性を示す事が出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成度は、おおむね順調に進展していると考えられる。 現在、EPAが多発性硬化症の新規治療薬となる可能性について検討する為に実験を行ってきた。そこでH23年度は、(1)EPAが多発性硬化症の動物モデル (experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE) を改善する事が出来るかどうか、(2)その作用機序がPPARsを介した抗炎症作用によるかどうか、という2点を明らかにする事を目標においていた。(1)に関しては、魚粉抜き飼料を与えたマウスにEAEを誘導した場合に、EPAを投与することで有意にEAEが改善する事が確認出来た。(2)に関して、EPAを投与することで、EPA発症後の中枢神経浸潤CD4T細胞にPPARsが誘導され、炎症性サイトカインの産生が抑制される事を確認した。 以上の2点より、H23年度の目標達成度はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの時点で、EPAを投与することでEAEが抑制され、中枢神経浸潤CD4 T細胞でPPARsが誘導され炎症性サイトカインの産生も抑制される事を明らかにした。よって今後の実験として、(1)in vitroでも再現出来るかという点を明らかにする必要があり、可能であれば、(2)PPARsを介した作用によってEAEを改善する、もしくは(3)他の作用機序があるかどうかという点を検討する事が今後の研究方針になると考えられる。 よって、(1)無血清培地を用いて、EPAの存在下でCD4 T を刺激して、コントロールに比較してPPARsが誘導され炎症性サイトカインの産生が抑制されるかどうかを検討していく。 次に、(2)PPARsを介した作用機序でEAEが改善するのであれば、PPARsのノックアウトマウスではその差は認められない事になる。よってノックアウトマウスにEAEを誘導し、EPAを投与しても抑制されなくなる事を確認する。 さらに、(3)他の作用機序があるかどうかを検討する。すでに他の作用機序として、同じ核内受容体の甲状腺ホルモン受容体がEAEの早期に中枢神経浸潤CD4 T細胞に誘導される事をReal-Time PCRにて確認した。甲状腺ホルモン受容体は、核内でPPARsとheterodimer を形成するRXRとheterodimer を形成する事が知られている。また、PPARsと甲状腺ホルモン受容体は、共に脂質異常症を改善することでも知られている。さらに近年EPAを含む多価不飽和脂肪酸によって肝細胞で甲状腺ホルモン受容体が誘導される事が報告された。よってこれらの 免疫系における作用を明らかにすることは、EPAの新たな作用機序の解明に繋がると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額の60,185円は、予定していた物品(ノックアウトマウス)を購入するのに額が足りないと考え、持ち越して次年度の予算を合わせて購入する予定にしていました。 当初の予定通り、引き続き動物実験と学会発表の旅費に予算を使用する予定です。また、EPAがPPARsを誘導し抗炎症作用を発揮する事をin vitro でも再現出来るかどうかを確認する為に、ELISA, FACS, RT-PCR用の試薬を購入する予定です。 予定では次年度研究費は上記の使用用途のみでした。しかし、今までの実験結果から、EPAの免疫系における作用を解明する上で、甲状腺ホルモン受容体の作用を明らかにする事が重要である事が分かってきました。そこで、甲状腺ホルモン受容体のT細胞における働きを、分子生物学的な手法を用いて明らかにする為に、一部の費用を裂く予定です。 動物実験300,000円、ELISA, FACS, RT-PCR 150,000円、その他の分子生物学的実験 310,185円、旅費 100,000円の以上です。
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