2011 Fiscal Year Research-status Report
フローサイトメトリーによる細胞純化を用いたヒト多能性幹細胞からの膵β細胞作製
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23791025
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
豊田 太郎 京都大学, iPS細胞研究所, 助教 (60593530)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | PDX1 / 膵臓 / β細胞 / インスリン / 糖尿病 / iPS細胞 |
Research Abstract |
糖尿病は世界規模の医学的・経済的問題であり、膵β細胞の供給源と補充療法の開発は急務である。本研究の目的は、膵β細胞の分化・機能発揮の要所を担う転写因子PDX1に着目し、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来のPDX1陽性細胞を単離・純化して膵β細胞へと高効率に分化させることである。(1)高効率なPDX1陽性細胞への分化誘導法の確立 当研究所にて樹立されたヒトiPS細胞(201B6株, 201B7株)を用いて、当研究室では約30%の効率までPDX1陽性細胞へと誘導することができた。しかしながらこの誘導効率は、単離したPDX1陽性細胞を用いた検討を行うには不十分であった。そこで、既報をもとにより効果的な増殖因子や化合物の組み合わせを検討し、約75%までの誘導効率を達成した。(2)PDX1陽性細胞を生存させたまま単離する方法の確立 PDX1は核内に存在する転写因子であるため、固定した後に免疫染色をしなければPDX1陽性細胞を同定できない。よって、生存させたままPDX1陽性細胞を単離するためPDX1の発現と相関して緑色蛍光を発するレポーターGFPを導入したトランスジェニック ヒトiPS細胞株の樹立を試みた。ヒトPDX1遺伝子の上流4.6 kbpまでには、PDX1の発現を制御する領域(プロモーター)がある。このPDX1プロモーターで制御されたGFP遺伝子配列を導入したトランスジェニック細胞株を樹立した。しかしながら、この方法ではPDX1の発現とGFPの発現が一致する株を得られなかった。 そこで、ゲノム中のPDX1遺伝子の後部にIRES配列とtdTomato遺伝子をノックインすることで、既知および未知のPDX1遺伝子発現を制御する機構下で赤色蛍光を発する細胞株を樹立することにした。発現ベクターの作製を完了し、レポーター株を樹立中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一つ目の目標である、高効率なPDX1陽性細胞への分化誘導法の確立に関して、当初の誘導効率である約30%から、約75%へと飛躍的な作製効率の改善ができた。これによって、他の研究目標に必要とされる細胞を十分な数だけ作製することができるようになった。 一方で、二つ目の目標であるPDX1陽性細胞を生存させたまま単離する方法の確立は当初の予定よりもやや遅れている。PDX1の発現と一致して緑色蛍光を発するレポーターGFPを導入したトランスジェニック ヒトiPS細胞株の樹立を試みた。レポーター遺伝子が導入された細胞株は得られたが、PDX1の発現に相関する細胞株が得られなかった。このため、代替案としてゲノム中のPDX1遺伝子の後部にIRES配列とtdTomato遺伝子をノックインする細胞株の樹立を行うことにした。既に発現ベクターの作製を完了しており、レポーター株を樹立中であるが、現時点では有用な細胞株は樹立できていない。 以上のことから平成23年度の達成度は、やや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)PDX1陽性細胞を生存させたまま単離する方法の確立 ゲノム中のPDX1遺伝子の後部にIRES配列とtdTomato遺伝子をノックインすることで、既知および未知のPDX1遺伝子発現を制御する機構下で赤色蛍光を発する細胞株の樹立を完了する。(2)単離したPDX1陽性細胞の膵β細胞へのin vitro分化と機能試験 検討(1)で得られたレポーター細胞株を分化させ、フローサイトメトリーにてPDX1陽性細胞を単離する。単離したPDX1陽性細胞を増殖因子や既知のシグナル伝達をもとにした化合物の組み合わせを用いてin vitroで分化させ、自然発生で得られる膵β細胞と同等の機能を有するものが得られるかを検討する。また、当研究室にある化合物ライブラリー(5万種)を用いて、新規の分化シグナル伝達経路を介したより効率的な膵β細胞への分化方法も検討する。(3)In vitroで作製した膵β細胞の生体での機能試験 In vitroで作製した膵β細胞を生体へと移植して、移植後も形態・発現タンパク質を維持できるか組織化学的な解析にて追跡する。また、空腹時および糖負荷時の血中ヒトインスリン量、ヒトC-ペプチド分泌量をELISAにて測定することで機能評価する。移植対象には免疫拒絶反応のない免疫不全マウスを用い、腎被膜下あるいは門脈経由で肝臓へと移植する。長期的な(3、6、9ヶ月)観察を行って、作製した細胞が生体で長期間生存するかも評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、ヒトiPS細胞から試験管内で膵β細胞を分化誘導する。レポーター細胞株の樹立にあたっては、大腸菌取り扱い試薬、遺伝子取り扱い試薬、そして多くの細胞を培養する必要がある。また、臨床応用を目指す性質上、マウスではなくヒトのiPS細胞を用いるため、細胞培養培地は非常に高額(500 mlで20,000円程度)となる。よって本研究経費では消耗品費の占める割合が高く、その内訳として、細胞培養に用いるプラスティック製品、細胞培養培地および添加する増殖因子・化合物が多くの割合を占め、この他、細胞の単離に必要なフローサイトメトリーの消耗品もある。組織化学的な解析には多種類の抗体を使用する。特に、平成24年度は、免疫不全マウスへの移植実験を行って、生体内での分化過程を追跡したり生理的機能を評価したりするため、多くの実験動物や生理機能評価のための測定試薬類(ELISAキット、グルコメーターなど)が必要となる。
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