2011 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリアSIRT5タンパクの機能と肝臓・骨格筋における代謝機能連関
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23791026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 靖彦 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10375256)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / 細胞 / 老化 |
Research Abstract |
げっ歯類においてカロリー制限により寿命が延長することが1930年代より知られていたが)、昨年になり霊長類においてもカロリー制限が、耐糖能障害、悪性新生物、心血管障害、脳委縮症など加齢に伴う疾患の発症リスクを低下させ、これらの疾患による死亡率を低下させるという報告がなされた。カロリー制限による寿命延長の哺乳類におけるメカニズムは未だ不明であるが、SIRTファミリーに注目が集まっている。SIRTファミリーは SIR2同様、NAD依存性のタンパク脱アセチル化酵素活性を持ち、摂取エネルギーの低下をNAD/NADH比の上昇として感知することで、代謝センサーとして働いている。 ミトコンドリアはクエン酸回路、β酸化や酸化的リン酸化といったエネルギー生合成に関わる重要な代謝が行われる細胞内小器官であることから、申請者はミトコンドリアに局在するSIRT5に注目し、これまでにSIRT5過剰発現マウスを作製し、これを用いSIRT5の基質タンパクとしてcarbamoy1 phosphate synthetase 1を同定、その機能を解明し、発表した。これに加え、SIRT5基質タンパクとして今回新たにプリン代謝経路の酵素の1つであるurate oxidase(UOX)を同定した。このことから絶食時に骨格筋から放出されたアミノ酸やプリンヌクレオチドが肝臓において異化、分解されていることが示唆され、UOXの機能を明らかにすることは肝臓におけるSIRT5の機能を解明する上で不可欠である。また、上記に加え、骨格筋においてSIRT5は絶食時に発現量が上昇することから、肝臓・骨格筋におけるSIRT5を介した強い機能連関が存在することも推察でき、これにより絶食時、カロリー制限時におけるマウス個体レベルにおける代謝調節機構を解明することが本研究における目的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者はSIRT5過剰発現マウスを作製し、肝ミトコンドリアタンパクを用いた二次元電気泳動によりUOXがSIRT5の基質タンパクであることを申請者はすでに同定した。UOXはこれまでにミトコンドリアとペルオキシソームに局在することが報告されていることから申請者らは密度勾配遠心により、ミトコンドリアとペルオキシソームを分離し、ミトコンドリアとペルオキシソーム双方にUOXが存在することを明らかにした。SIRT5はミトコンドリアに局在することから、ミトコンドリアに存在するUOXの機能を調節していると考えられた。申請者は野生型マウスとSIRT5過剰発現マウスを用い、ミトコンドリアにおけるUOX活性を調べたところ、有意にSIRT5過剰発現マウスにおいてUOX活性が上昇していた。これにより絶食や食事制限により発生した過剰なプリン体を肝ミトコンドリアにおいて分解することが明らかになったと共に、尿酸は活性酸素スカベンジャーであることから、活性酸素に依存した細胞毒性の減弱、防御機構にも関わっていることが期待される。また、UOXはミトコンドリアにおいて栄養状態に依存したアセチル化、脱アセチル化サイクルが存在することも明らかにした。このサイクルが存在することを発見したことは、ミトコンドリアSIRTによって脱アセチル化されるタンパクとしては初めてのことである。また、申請者は骨格筋において、肝臓と同様に絶食時にSIRT5の発現量が上昇することを明らかにしていることから、骨格筋においてもSIRT5の基質となるタンパクを肝臓における場合と同様に二次元電気泳動を用い、SIRT5によって脱アセチル化されたタンパクを同定を行っているところである。今後、同定されたタンパクの絶食時における機能を解明することで、肝臓・骨格筋間の機能連関を明らかにする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き二次元電気泳動を用いたプロテオーム解析により、肝臓、骨格筋を中心にSIRT5の標的タンパクの同定を行い、これまでに同定されたCPS1やUOXとの機能連関を明らかにする。次に、肝臓、骨格筋初代培養細胞を用いin vitroにおけるエネルギー状態に応じたSIRT5基質タンパクの役割を解析する。また、同定した肝臓、骨格筋におけるSIRT5基質タンパクの機能を、野生型マウスにおける普通食摂取時、絶食時間での変化を観察することにより、肝臓、骨格筋組織または臓器レベルで明らかにする。絶食時にSIRT5の発現量は肝臓と骨格筋でのみ増加するため、SIRT5の肝臓と骨格筋での機能が連関している可能性が示唆される。このことから、プロテオーム解析で同定されたSIRT5に依存して生じる骨格筋における代謝、機能等の変化と、これまでに同定されている肝臓におけるSIRT5の基質タンパクであるCPS1やUOXの機能についての関連性について個体レベルで解析する。最後に、これまでにSIR2の哺乳類におけるホモログファミリーであるSIRTファミリーの寿命への関与は報告されていない。SIRT5 Tg マウスはUOXを活性化することにより活性酸素種のスカベンジャーである尿酸の量を調節することが考えられることから、寿命への影響も期待できる。このことより、現在SIRT5 Tg マウスと野生型マウスを長期にわたり飼育し、寿命の変化を調査している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、短期におけるSIRT5の機能を二次元電気泳動、マススペクトロメトリーを用いたプロテオミクス解析で明らかにすると共に、野生型マウスおよびトランスジェニックマウスの経時的変化を長期にわたり観察する研究を行うことや、SIRTの過剰発現に依存した寿命の変化を明らかにする研究を伴っているため、相当数のマウスを飼育し、常に維持する必要がある。また、プロテオミクス解析で同定された肝臓、骨格筋それぞれにおける多岐にわたるSIRT5の機能を解析するために、リアルタイムPCRやウエスタンブロット等により様々なSIRT5標的タンパクの種類に応じた代謝酵素の発現量、活性の測定を行い、またLC-MSを用いてSIRT5標的タンパクによって生成した代謝物質量や内分泌物質を肝臓、骨格筋、血液において測定を行うことで肝臓、骨格筋の機能連関を明らかにする予定にしている。これらの研究を遂行するために研究費を用いる。
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Research Products
(3 results)