2011 Fiscal Year Research-status Report
レプチンにより誘導される新規遺伝子の肥満・レプチン抵抗性に対する役割の検討
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23791042
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
小森 忠祐 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (90433359)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | レプチン / 視床下部 / 摂食調節 / 肥満 / 糖尿病 |
Research Abstract |
1.野生型マウスの組織(視床下部、肝臓、膵臓)におけるLIT2の発現を、リアルタイムPCR法を用いて検討した。LIT2は、肝臓において非常に強く発現しており、視床下部においては弱いながらもその発現を認めたが、膵臓ではほとんど発現が認められなかった。次に、LIT2に対する抗体を作製し、ウエスタンブロット法を用いてLIT2の発現を検討したところ、肝臓と視床下部において29kDaの位置にLIT2のバンドを認め、それらのバンドはLIT2遺伝子欠損マウスでは認められなかった。また、免疫染色法により肝臓と視床下部におけるLIT2の発現を検討したところ、肝臓では肝細胞に、視床下部では弓状核の神経細胞に、LIT2の発現を認め、それらの染色像はLIT2遺伝子欠損マウスでは認められなかった。また、 LIT2遺伝子欠損マウスの脳における発生学的異常を肉眼的およびヘマトキシリン・エオジン染色により組織学的に検討したところ、異常は認められなかった。2. 普通食給餌の野生型マウスとLIT2遺伝子欠損マウスにおいて、体重と摂食量を比較した。20週齢におけるLIT2遺伝子欠損マウスは、野生型マウスと比較し、体重が有意に減少していた。また、LIT2遺伝子欠損マウスは、皮下脂肪や内蔵脂肪(精巣上体脂肪)の重量が減少していたことより、LIT2遺伝子欠損マウスの体重減少は「痩せ」によるものであることが明らかとなった。さらに、1日あたりの摂食量がLIT2遺伝子欠損マウスでは、野生型マウスと比較し減少していたことより、LIT2遺伝子欠損マウスの「痩せ」の原因は、摂食量の低下による可能性が示唆された。3. LIT2遺伝子欠損マウスにおける糖代謝異常の有無を検討するため、腹腔内糖負荷試験とインスリン負荷試験を行ったところ、LIT2遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較し、耐糖能やインスリン感受性が増加していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LIT2遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較して「痩せ」を呈し、その原因の1つは摂食量の低下によるものであるという結果を得た。また、LIT2遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較し、耐糖能やインスリン感受性が増加していた。本年度の研究実施計画中では脂質代謝異常の検討が残っており、来年度に遂行する予定である。一方、次年度の実施計画である「レプチンの作用に対するLIT2の役割の検討」について、LIT2が視床下部の中でも弓状核の神経細胞に発現しているという結果や、ob/obマウスにレプチンを投与すると視床下部においてLIT2の発現誘導が認められるという結果を既に得ている。以上のことより、本年度の研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
LIT2は、視床下部においてレプチンにより誘導される遺伝子として単離されたが、本年度の結果より、視床下部以外にも肝臓において強く発現していることが明らかとなった。また、LIT2遺伝子欠損マウスは「痩せ」と「インスリン感受性増加」という表現系を示した。LIT2遺伝子欠損マウスにおける摂食量の低下がそれらの表現系の原因である可能性が考えられるが、肝臓は糖代謝、脂質代謝において生体内で重要な作用を担っており、LIT2遺伝子欠損マウスの表現系の原因を解析する上で重要である。今後は、次年度の実施計画である「レプチンの作用に対するLIT2の役割の検討」を遂行するとともに、肝臓や、糖代謝・脂質代謝に関わるその他の臓器(骨格筋、脂肪組織、腎臓)におけるLIT2の作用にも焦点を当て、LIT2の発現やその役割について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1. LIT2遺伝子欠損マウスの「痩せ」、「インスリン感受性増加」の原因の検討 摂食促進ニューロペプチド(NPY、AgRPなど)や、摂食抑制ニューロペプチド(POMC、CARTなど)の発現量を、LIT2遺伝子欠損マウスの視床下部において検討する。また、血中や肝臓における中性脂肪や遊離脂肪酸の値を測定するとともに、脂質代謝に関連する遺伝子(脂質合成酵素など)や肝臓における脂質代謝に関わる転写因子(PGC-1αやPPARαなど)の発現量をLIT2遺伝子欠損マウスにおいて検討する。さらに、組織特異的なインスリン抵抗性の有無を明らかにするために、骨格筋、脂肪、肝臓におけるインスリン投与時の細胞内シグナルの活性化(インスリン受容体やAktのリン酸化など)を検討する。2. レプチンの作用に対するLIT2の役割の検討 レプチンの摂食抑制に対するLIT2の役割を検討するために、普通食給餌の野生型マウスとLIT2遺伝子欠損マウスにレプチンを投与し、摂食量を測定する。また、視床下部におけるレプチンの細胞内シグナル伝達分子(STAT3、MAPK、PI3K、AMPKなど)の活性化を、野生型マウスとLIT2遺伝子欠損マウスで比較する。次に、摂食調節に関わるニューロペプチドの発現量を測定する。さらには、レプチン投与による血糖値や血清インスリン濃度、血中脂質の変動を野生型マウスとLIT2遺伝子欠損マウスで比較する。 普通食給餌と高脂肪食給餌の野生型マウスの視床下部におけるLIT2の発現量を比較する。また、高脂肪食給餌の野生型マウスとLIT2遺伝子欠損マウスにレプチンを投与し、野生型マウスで起こるレプチン抵抗性がLIT2遺伝子欠損マウスでも起こるのかを検討する。
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