2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト胚性幹細胞・誘導多能性幹細胞のステロイド産生細胞への分化機構の解明
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23791053
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
園山 拓洋 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (70582112)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 再生医療 / ヒト胚性幹細胞 / ヒト誘導多能性幹細胞 / 副腎皮質 / 性腺 |
Research Abstract |
まず胚様体(embryoid body; EB)を介した方法を試みた。ヒトES細胞ライン(H9およびKhES1)とヒトiPS細胞ライン(201B7)を、14日間浮遊培養を行ってEB形成を行い、その後さらに接着培養で培養して分化させて、各々の過程でRT-PCR、メディウム中のステロイドホルモン測定を行った。14日間のEB形成を行った後に評価したところ、StAR、CYP11A1、HSD3Bなどの一部のステロイド合成酵素の発現を認め、培養液中には微量ながらプロゲステロンを検出することができた。EB形成後、更に10日間接着培養で培養した後の評価では、StAR、CYP11A1、HSD3Bの発現は更に上昇を認め、培養液中のプロゲステロンもEB形成直後より上昇していた。しかしながら、EB形成を介して得られた細胞にはACTH受容体やLH受容体の発現は認めず、ACTHやLHを培養液中に添加して培養してもステロイド合成酵素の遺伝子発現や培養液中のプロゲステロンは変化を認めなかった。さらに、EB形成を介して得られた細胞は同時に胎盤特異的ホルモンであるhCGをも産生しており、副腎皮質・性腺系の細胞ではなく、胎盤のtrophoblastに近い細胞であると考えられた。副腎皮質・性腺系の細胞を得るため、次に、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞を中胚葉系の細胞に分化させ、そこに更にステロイド産生細胞に分化させうる遺伝子を導入する方法を試みた。ヒトES細胞とヒトiPS細胞を剥離して小塊にしたのち接着培養下でGSK3β阻害薬を添加して培養したところ、FLK-1やPDGFRαを発現する中胚葉系の細胞に分化した。さらに、これらの細胞は、中間中胚葉のマーカーであるOsr1も発現していた。現在、これらの中胚葉系の細胞を純化し、さらにステロイド産生細胞に分化誘導する実験を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胚様体(embryoid body; EB)を介した方法で得られたヒトES細胞、ヒトiPS細胞由来のステロイド産生細胞は、結果として胎盤のtrophoblastに近い細胞であると考えられたが、この実験過程において、細胞のステロイド産生細胞への分化を評価するための、RT-PCR、real time RT-PCR、免疫染色、および培養液中のステロイドホルモンの測定などの実験系を確立することができた。現在行っている中胚葉系への分化を介したステロイド産生細胞への分化誘導実験においても、これらの実験系は応用することができる。また、現在までにヒトES細胞、ヒトiPS細胞からGSK-3β阻害薬を用いた中胚葉系細胞への分化誘導方法を確立することができたが、他のグループの検討により、ヒト間葉系幹細胞にステロイド産生細胞分化のmaster regulatorであるSF-1を遺伝子導入することにより、副腎皮質・性腺に近いステロイド産生細胞に分化することが報告されている。この方法をヒトES細胞、ヒトiPS細胞由来の中胚葉系細胞に応用することにより、当初計画していた通り、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞を副腎皮質・性腺に近いステロイド産生細胞に分化誘導することができると考えている。従って、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞にGSK-3β阻害薬を添加することで得られる中胚葉系細胞を純化したうえで遺伝子導入を行って副腎・性腺に近いステロイド産生細胞に分化させる実験を行っている。ステロイド産生細胞分化のmaster regulatorであるSF-1を導入する予定であるが、SF-1を発現させるためのベクターの構築はすでに完了している。中胚葉系細胞の純化は、flow cytometryを用いて未分化マーカー陽性の細胞を除去することを予定している。また、遺伝子導入に当たっては、発現ベクターをlipofection法、もしくはelectroporation法にて行う予定としている。遺伝子導入後の細胞の評価には、RT-PCR法によるステロイド合成酵素の遺伝子発現の確認、免疫染色またはWestern blot法によるステロイド合成酵素のタンパクレベルでの発現の検討、および培養液中のステロイドホルモンの測定を行う。副腎皮質・性腺に近いステロイド産生細胞が得られることが確認できれば、これらの細胞のACTH受容体、LH受容体などの発現を検討し、さらにACTH、LHなどを培養液中に添加してステロイド合成酵素の上昇がみられないか検討を行う。また、ACTH受容体、LH受容体を含めた細胞表面マーカーを利用して、flow cytometryによってステロイド産生細胞の純化・選別を行うことも予定する。さらに、十分量のステロイド産生細胞が得られれば、これらを動物に移植することで、in vivoにおけるヒトES細胞、ヒトiPS細胞由来のステロイド産生細胞の生存、生着、ならびに効果を検討することができる。この移植実験の際には、拒絶反応を回避しつつ細胞の機能を温存する目的で、高分子加工カプセルなどに細胞を封入することも考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Flow cytometry装置、real time RT-PCR装置などの本研究に必要な大型装置はすでに保有しており、また、ヒトES細胞専用取り扱いスペースについてもすでに存在する。このような状況のなかで、研究費は主に細胞培養関連試薬、フローサイトメトリー関連試薬、免疫染色関連試薬、分子生物学関連試薬などの実験消耗品ならびに実験動物費に充当する予定である。特に、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞の培養には、培地なども含めて高価な試薬が多く、細胞培養関連試薬の費用を多めに計上している。また、研究成果に関して国内外の他施設の研究者と議論し、研究成果を国内外に広く発信してゆくため、国内、および海外の学会に出張して学会発表を行う予定としているが、これらの出張費に関しても、本研究費から一部充当する予定である。また、フローサイトメトリー装置(FACSAria)は故障が多く修理点検に費用がかかり、また京都大学の動物実験施設は使用料がかかるため、それらの費用に関しても本研究費から充当する必要がある。
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