2011 Fiscal Year Research-status Report
血液細胞のHes-1発現様式及びその破綻が自己複製・分化に与える影響の解明
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23791070
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
横山 泰久 筑波大学, 医学医療系, 講師 (70512820)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | Hes1 / oscillation / hematopoiesis |
Research Abstract |
Hes1プロモーターの下流にルシフェラーゼをコードする遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウス(Hes1-Ub-Lucマウス)が京都大学ウイルス研究所の影山龍一郎先生の研究室で樹立されている。このマウスではHes-1プロモーターからの転写がオンになる状況下でルシフェラーゼが発現するため,Hes-1の転写がオンの時にルシフェリン/ルシフェラーゼ反応による発光を単一細胞レベルで顕微鏡下にとらえることができる。この方法で観察される発光のパターンは,内在性のHes-1タンパクの発現とよく相関することが報告されている(PNAS 103:1313-1318, 2006)。これを血液細胞に応用し,血液細胞におけるHes1発現のパターンを検証した。Hes1 mRNAの定量PCRなどの結果から、血液細胞におけるHes1発現はKSL細胞(cKit陽性・Sca1陽性・分化マーカー陰性細胞)分画において強く発現していることが明らかになった。これを受け、Hes1-Ub-Lucマウスの胎生14日の胎仔肝からKSL細胞を分取することとした。KSL細胞の分取にはセルソーターを用いる方法や磁気ビーズ法などがあるが、FACSAriaを用いて分取する方法が最も安定してHes1発現を示す発光を捉えられることが分かった。当初は発光はほとんど捉えられなかったが、Hes-1の上流シグナルであるNotchシステムをリガンドであるDelta1で刺激することにより、発光を捉える確率を上昇させることができた。Delta1刺激としてDelta1タンパクをディッシュにコーティング方法では、発光確率は上昇するものの各細胞での発光は1回のみであったが、KSL細胞をDelta1を発現したOP9細胞上におくことで、神経前駆細胞でみられるようなHes1発現レベルの短時間での上下(発現振動)を観察することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の研究計画では、神経前駆細胞でみられるようなHes1の発現振動を、血液細胞において証明することを最大の目標とした。我々はHes1-Ub-LucマウスからFACSAriaによってKSL細胞を分取し、Delta1を発現したOP9細胞上でこれを観察する系を確立し、血液細胞におけるHes1発現振動を証明した。この点で、23年度の目標は達成されており、研究は順調に進展している。23年度の計画の発展として,(1)他の白血病遺伝子をレトロウィルスで血液前駆細胞に導入して不死化させた場合に,Hes1の発現パターンが保たれているか否かを解析し,白血病遺伝子による癌化とHes1発現パターンの関連を解明すること、および(2)Azami greenとKusabira orangeの2色の蛍光を用いて細胞分裂周期を可視化する技術(fucci)が報告されており、Hes1-ルシフェラーゼマウスとfucciマウスを交配させて得られるマウスのKSL細胞を観察することで、Hes1発現パターンと細胞分裂との関連を明らかにすること、を挙げた。(2)には着手できていないが、(1)については、Hes1遺伝子を欠失させたノックアウトマウス由来の血液前駆細胞にMLL-AF9遺伝子を導入することで、MLL-AF9による血液細胞の腫瘍化におけるHes1の役割の解析を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
MLL-AF9遺伝子を導入した血液前駆細胞は腫瘍化し、白血病を引き起こすことが知られている。Hes1ノックアウトマウス由来の血液前駆細胞にMLL-AF9遺伝子を導入し、野生型由来の細胞に導入した場合と比較することで、MLL-AF9による腫瘍化に、Hes1が果たす役割を解析する。また、Hes1遺伝子領域に蛍光タンパクであるVenusを挿入し、Hes1-Venus融合タンパクを作るノックインマウスを入手しており、このマウスから分取したKSL細胞を用いて、ルシフェラーゼシステムによって同定された発現振動を、蛍光で同定する系を確立する。ルシフェラーゼシステムと異なり、蛍光の系では蛍光レベルに応じて細胞をFACSで分取することが可能である。Hes1発現の高い細胞・低い細胞をそれぞれ分取し、分化アッセイや遺伝子導入による腫瘍化を行うことによって、Hes1発現振動が分化・腫瘍化に与える影響を解析する。HesファミリータンパクであるHes7も発現振動が知られているが、この発現振動を消失させると、胎生期における体節形成不全が引き起こされる(Nat Genetics 7:750-754, 2004)。これを参考に、Hes1の発現振動を血液細胞において消失させることで、発現振動が分化・腫瘍化に果たす役割を解析する。具体的には、Hesタンパクの発現振動はユビキチン化システムによるタンパク分解によって行われているため、ユビキチン化ターゲットとなるリシンをアルギニンに変えることで、発現振動を消失させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マウスの維持(Hes1ノックアウトマウス、Hes1-Venusノックインマウス等)Hes1発現振動消失マウスの作製分化アッセイ、遺伝子導入による腫瘍化などにおける、培地や遺伝子導入キットなどの試薬類、あるいはプラスチックウェア等、主として物品費として使用予定である。
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