2011 Fiscal Year Research-status Report
血球細胞における転写因子KLF5の機能解析と臨床応用へむけた基礎的分子機構の解明
Project/Area Number |
23791072
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松村 貴由 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (80436485)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 血液内科学 / KLF5 |
Research Abstract |
本研究は、転写因子KLF5の機能解析を通し、血球細胞全般の分化制御機構・機能発現機構を明らかにし、臨床応用へむけた基礎的分子機構の解明をめざすものである。その性格上、研究内容は多岐にわたるが、その中で昨年度の成果の一つは巨核球分化におけるKLF5の機能解析である。 申請者は、造血幹細胞から巨核球の分化、血小板の放出過程でKLF5が一過性に発現すること、さらにKLF5欠失マウスでは血小板の機能が障害されていることを見出した。具体的には、血小板凝集に重要な蛋白の一部が発現減弱しており、その結果、生体内での血小板凝集能が低下している。予備検討の結果はKLF5が巨核球からの血小板放出過程に影響を及ぼす可能性を示唆している。これまで、造血幹細胞から巨核球への分化・成熟に関わる転写因子はいくつか同定されている一方で、巨核球からの血小板放出過程の制御機構はほとんどわかっていない。本研究はこの未知の領域に重要な知見を与える可能性がある。また、この研究は臨床応用の観点からも大きな意味を持つ。現在、iPS細胞からの血小板作成は実用化へ向けた研究が進んでいるが、単に血小板を作成するのみでなく、正常な凝集能を長時間保持した血小板をいかに作成するか、が大きな課題となっている。KLF5遺伝子の操作が正常な機能を持つ血小板の効率的な作成に役立つ可能性も探求している。 その他、T細胞の末梢での分化、特にCD4陽性T細胞の分化についても、KLF5が関与する可能性が示唆された。Th1/Th2バランス、Th17/Treg細胞は各種疾患において基軸的役割を果たしていることが知られており、この領域におけるKLF5の機能解析も臨床応用への基盤となる研究と考えている。顆粒球系細胞でもKLF5は強発現しており、遺伝子操作によるKLF5欠失が、顆粒球機能(走化能、貪食能、殺菌能)に影響を与えるかについても解析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の平成23年度の計画に挙げた3項目、(1)血球の各系統の増殖・分化・刺激応答の過程におけるKLF5の発現変化を観察する、(2)薬剤誘導性にKLF5発現を血球系細胞全般で抑制できるMx-Creコンディショナルノックアウトマウスを使い、KLF5の後天的欠失が血球系細胞に与える影響を解析する、(3)各血球系統特異的にKLF5発現が欠失された遺伝子改変マウスを用い、各血球系固有のKLF5の役割を解明する、については上述のように順調に進行し、すでに有意義な結果が得られている。 (1)については、各血球分化におけるKLF5発現の経時的変化については、ほぼ解析が終わった。しかし、KLF5の発現量と、その各段階でKLF5を欠失させたときの影響の重大性は、必ずしも相関していない、つまり、KLF5の発現量が少ない場合でも、それを欠失させることの影響は非常に大きい例もあり、KLF5の発現変化はもちろん重要ではあるが、それにとらわれずに各方面の解析を進めている。 (2)(3)については、上述の通り、特に巨核球とT細胞において有用な結果が得られている。顆粒球系及びB細胞系についても検討が始まっており、来年度にむけて引き続き検討を続けていく。薬剤誘導性のMx-Creコンディショナルノックアウトマウスについても、各種細胞特異的Creノックアウトマウス作成ののちも、解析結果の普遍性の確認という意味で重要な役割を果たしており、引き続き解析に用いている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の平成24年度の計画に挙げた通り、(3)引き続き、各血球系統特異的にKLF5発現が欠失された遺伝子改変マウスを用い、各血球系固有のKLF5の役割を解明する、(4)in vivoの実験結果をもとに、主に血球細胞の培養系において、KLF5の機能の分子生物学的機序を解析する、(5)血液疾患における臨床応用に向けた基礎的分子機構の解明、新規治療法の標的発見をめざす、以上のことを進める。 (3)については、特に、巨核球特異的KLF5ノックアウトマウス (PF4-Cre; KLF5 flox/floxマウス)、T細胞特異的ノックアウトマウス (Lck-Cre; KLF5 flox/floxマウス)を用いた解析を進める。なお、当初計画では必要に応じ、新たに目的の細胞種に応じたCreマウスを購入あるいは学内外の研究者より譲渡いただき、KLF5 floxマウスと交配させる、としたが、現状で手元にあるマウスのみで十分な解析ができると考えられるため、新たなマウス種の作成は行わない予定である。(4)については、特に、in vitroにおける巨核球から血小板放出の実験系の確立を行い、解析を行う。末梢CD4陽性T細胞の各サブタイプへのin vitroでの分化の実験系については、すでに確立された系があるため、引き続きこの系を用いた解析を続ける。(5)については、上述のとおり、iPS細胞から血小板を作成する系にKLF5の遺伝子操作を加えることにより、正常な凝集能を保持した血小板が効率よく作成される可能性があり、その可能性を追求する。T細胞については、T細胞の機能変化によって影響をうける可能性のある動物モデルをいくつか検討し、臨床応用への基盤となる分子機構の解明をめざす。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画通り、動物実験関連(遺伝子改変マウス維持・繁殖、餌、手術器具等)、試薬一式(一般試薬・細胞用試薬・培地・酵素等)、プラスチック製品の購入などに使用予定。
|