2011 Fiscal Year Research-status Report
リウマチ関連タンパク質PAD4の骨髄造血細胞における役割
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23791107
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 克彦 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90528035)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | PADI4 / シトルリン化 / 造血幹細胞 |
Research Abstract |
近年、Peptidylarginine deiminase 4 (PAD4)によるクロマチンのシトルリン化は、エストロジェンレセプターやp53を介する転写を抑制することが報告され、その重要性が明らかになりつつある。しかしながら、PAD4によるクロマチン修飾の生理学的意義はまだよく分かっていない。我々の研究結果から、PAD4は骨髄中の造血幹細胞や多能性前駆細胞に強く発現しており、増殖制御に関わることが示唆されていた。本年度では、その機能の詳細を解析した。1、造血幹細胞及び多能性前駆細胞(LSK細胞)では強い発現が認められたが、骨髄球系前駆細胞では約5倍程度の発現低下がみられた。また、成熟好中球では再度発現が上昇しそのレベルは多能性前駆細胞と同程度になっていた。このように、骨髄造血細胞において、PAD4の発現はダイナミックに変動していることが明らかとなった。2、BrdUを用いた細胞増殖解析から、PAD4欠損マウスではLSK細胞におけるBrdUの取り込みが上昇しており、増殖能が上昇していることが示された。また、骨髄移植を用いた実験から、PAD4欠損マウスでは、骨髄環境に影響はなく、LSK細胞における細胞内因子の異常が引き起こされ、細胞増殖が盛んに行われていることが示された。3、免疫沈降及びクロマチン免疫沈降の結果から、LSK細胞ではPAD4がLEF1やHDAC1と複合体を形成し、c-myc遺伝子の上流に結合することが示された。また、結合領域では、ヒストンのシトルリン化がみられ、c-mycの転写を制御することが示唆された。以上より、PAD4ががん遺伝子であるc-mycの発現を制御しLSK細胞の増殖をコントロールしていることが示された。これは、PAD4ががん抑制因子として機能することを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、開始当初までに明らかにしたPAD4の機能について、その分子機構等をより詳細に解析することを目的とした。研究実績の概要に記載した通りの研究成果を得ており、ほぼ順調に進展していると考えている。特に、PAD4の複合体として、c-mycを制御する転写因子であるLEF1を同定できたことは非常に興味深い。LEF1は、Wntシグナルの下流で機能する転写因子であり、Wntシグナルは、個体発生や細胞増殖・分化など多岐にわたって重要な役割を担っている。これは、PAD4がそれらイベントに関与することを示唆しており、今後の研究の発展に大いに期待が持たれる。また、がん抑制因子として機能することが示唆され、発がんとの関連についても興味深い。以上の通り、本年度の研究成果は当初の目的をほぼ達成しており、今後のPAD4に関する研究に大きな発展が見込まれるものであった。これらのことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1、これまでの研究成果を論文としてまとめ、投稿し公表したいと考えており、現在執筆中である。まとめるにあたり、これまでの成果に関して補強となるデータを取りながら進めていく。2、これまでの結果は、PAD4ががん抑制因子として機能することが示唆している。今後、この可能性を追求したいと考えている。すでに、マウス骨髄球細胞株M1にPAD4およびその変異体を安定発現させた細胞を樹立した。これを用いて細胞増殖や分化に与える影響を調べる。3、白血病のモデルマウスやヒトで骨髄球におけるPAD4の発現低下が報告されている。しかしながら、現在のところPAD4欠損マウスでは白血病などの病態は観察されていない。なんらかの刺激を加えることによりPAD4欠損マウスに白血病様の病態が発症するかどうか調べる。4、PAD4はリウマチ関連タンパク質であるが、その発症に関わるのはPAD4だけでなくPAD2も同様である。そのため、現在PAD2欠損マウスも作製中であり、ダブルノックアウトマウスを用いてリウマチ発症への関与を調べていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
下記に研究費の使用目的を示す。1、論文出版関連:次年度の初頭に論文を投稿する予定であり、ほぼ書き終えている。2、細胞培養、マウスなどの維持:多くの細胞培養やマウスを維持するため。3、抗体など研究用試薬:抗体等高価な試薬等が必要である。4、学会等における研究発表に必要な旅費等:次年度中に国内外で本研究の成果を発表する予定である。
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