2011 Fiscal Year Research-status Report
高病原性を示す肺炎桿菌臨床分離株の遺伝学的特徴と病原因子に関する研究
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23791143
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
原田 壮平 東邦大学, 医学部, 助教 (30591630)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 肺炎桿菌 / 莢膜血清型 / 病原因子 / MLST / パルスフィールドゲル電気泳動 / rep-PCR |
Research Abstract |
本研究の第一の目的は本邦の肺炎桿菌臨床分離株における高病原性株、特に莢膜血清型K1株, K2株)の疫学を調査することである。今回、解析対象とした肺炎桿菌株の同定は各医療機関の自動機器に依存していたため、すべての収集株について、遺伝学的手法(16S-23S ITSのPCR)と生化学反応(マロン酸試験とVP試験)を施行し、正確な肺炎桿菌の同定を図った。結果、収集された294株のうち真に肺炎桿菌と同定されたのは259株であった。収集株のうち14株がK1株であったが、これらの相同性解析としてパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)、DiversiLabシステムを用いたrep-PCR(DL)を行った。PFGEでは14株のうち12株は70%以上の相同性を示し、DLでは14株のうち11株が95%以上の相同性を示し、14株すべてが90%以上の相同性を示した。よってK1株は全国各地から分離されていたにもかかわらず、遺伝学的相同性が高いことが示唆された。収集株のうち16株がK2株であったが、これらを対象にPFGE、DL、MLSTによる相同性解析を行った。これらの株は1株を除いてMLSTにおいてST14, ST65, ST86の3つのグループのいずれかに分類され、PFGEやDLによるタイピング結果もMLSTによるタイピング結果と概ね良い相関を示した。K2株全体としての相同性はK1株と比較すると明らかに低かった。また、K2株について肺炎桿菌の主要病原因子の保有の有無をPCRで確認し、ST typeごとに系統的な病原因子保有パターンを有していることが示された。K1株およびK2株のPFGE結果とDL結果を合わせ、両手法の肺炎桿菌における遺伝学的タイピング能を比較し、70%以上の相同性をカットオフとしたPFGEと95%以上の相同性をカットオフとしたDLのタイピング結果の相関が高いことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在の達成度は当初の予定よりはやや遅れている。その理由としては研究計画時点で施行を予定していなかった複数の解析を追加したことがある。第一に肺炎桿菌株の正確な同定を意図して、すべての収集株に対する遺伝学的手法(16S-23S ITSのPCR)と生化学反応(マロン酸試験とVP試験)による同定菌名の確認を追加した。本研究の本年度実施内容は本邦における肺炎桿菌臨床分離株の疫学的解析であり、K1株、K2株の頻度を算出するうえでその分母である肺炎桿菌分離株数を正確に算出することは肝要であると考え、この解析を追加した。第2にDiversiLabシステムを用いたrep-PCR(DL)を追加した。同手法は近年、臨床現場におけるアウトブレイク解析の標準的手法であるパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)に代わりうる、より簡便で、短時間で結果が得られる手法として注目されている。DLによる遺伝学的タイピング能は菌種ごとに大きく異なることが示唆されており、今回収集されたK1株、K2株においてDLおよびPFGEによる遺伝学的タイピング結果を比較することは意義が大きいと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析により遺伝学的特徴づけがなされた肺炎桿菌臨床分離K1株、K2株を用いて、これらの菌株間の病原性の差異およびその差異を生み出す因子についてマウス感染モデルを用いて検証する。今回収集されたK1株は遺伝学的相同性が高く、各株の病原因子保有パターンも共通性が高かったが、病原因子rmpAに関しては保有株、非保有株が存在していた。rmpAは過去の研究においても肺炎桿菌の病原性に対する貢献が示唆されているので、保有株、非保有株でマウス感染時の致死率を比較することで両者の病原性を比較する。両群に差がみられた場合は非保有株にrmpAをクローン化したプラスミドを導入した株を作成し、病原性の変化がみられるかを検証する。K2株についてはST14, ST65, ST86のそれぞれのグループの代表株を用いてマウス感染実験を行う。これにより各群間の病原性の差異の有無を確認する。群間の差異がみられた場合はK1株の場合と同様に群間で差がみられたrmpA, kfuなどの病原因子をクローン化したプラスミドを導入した株を作成しこれらの病原因子の貢献について検討する。マウス感染モデルによる実験に加えて、必要に応じて各菌株のRAW-264.7細胞を用いた貪食抵抗性の評価の実施も検討する。また、これとは別に、侵襲性感染症の起因菌として分離された肺炎桿菌臨床分離株を新たに収集し今年度と同様の分子疫学的解析を施行し、感染臓器や患者背景などの臨床情報との比較を行うことも検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度においては当初同年度で実施予定であったマウス感染モデル実験が実験計画の変更により施行できなかったために使用しなかった研究費が生じた。これは平成24年度においてマウス感染モデル実験を施行するのでここで使用する予定である。具体的にはマウス購入、マウス飼育、感染実験に用いる菌株の接種菌量や感染菌量の定量および病原遺伝子導入株の作成のための培地、クローニング用プラスミド、PCR関連試薬、PCR増幅産物精製試薬等の費用が必要となる。実験結果によっては比較対象とするための肺炎桿菌標準株の購入や貪食抵抗性の評価のための細胞の購入も必要となる。新たな臨床分離株の取集と分子疫学的解析を施行する場合にはこれらの菌株の収集費用、DNA抽出試薬、PCR関連試薬、PCR増幅産物精製試薬、シーケンサー関連試薬、パルスフィールドゲル電気泳動関連試薬が必要となる。
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