2011 Fiscal Year Research-status Report
上皮間葉移行(EMT)に着目した多発性嚢胞腎の病態特異的治療の開発
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23791190
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
戸川 寛子 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (30445093)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 遺伝性腎疾患 / 多発性嚢胞腎 / 上皮間葉移行(EMT) / CPKマウス / TGF-β/Smad3 / 疾患特異的治療 |
Research Abstract |
多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease、PKD)は、腎の異形性を伴わない両側びまん性嚢胞形成を特徴とする遺伝子疾患群で、わが国で最も頻度が高い遺伝性疾患の1つである。PKDでは、嚢胞形成に伴い線維化が進行し末期腎不全に至る。近年、PKDの病態に上皮間葉移行(EMT)が関与することが明らかになった。腎線維化・EMTにおいて、TGF-β/Smad3経路が非常に重要であり、腎線維化モデルで、TGF-βおよびSmad3の亢進が認められている。またSmad3ノックアウトマウスではEMTが抑制されることが報告されている。本研究の目的は、PKDにおけるEMTにかかわるシグナル伝達系について明らかにするとともに、現在のところ確立した治療法はないPKDに対して、TGF-β/Smadシグナル伝達系をターゲットとした病態特異的治療戦略の可能性を検討することである。 本研究で用いているCPKマウスは、ARPKDモデルで、世界で最も解析されているPKDモデルである。尿細管上皮細胞における極性異常を示す。起源は自然発症モデルであるが、近年原因遺伝子がクローニングされ、PCRにより遺伝子型の決定が可能である。研究には、生後1日、7日、14日、21日のCPKマウスおよび同日齢の同腹のマウス(対照)を用いている。 これまでにCPKマウスにおけるEMTおよびTGF-β・Smad3の亢進を確認し、そのシグナル伝達系について検討している。さらに、Smad3ノックアウトマウスとCPKマウスのダブルミュータントの作製を開始し、Smad3の操作による疾患表現型の修飾について検討している。これらの知見により、疾患特異的治療開発のための基礎データを収集する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の通り、研究が着実に進行している。 CPKマウスを用いて、腎線維化の程度とEMTの関連について確認するために、E-cardherin、Vimentin、α-SMA、type I collagen、fibronectinの発現を検討した。またTGF-β/Smad系シグナル伝達系については、TGF-β、Smad3などの発現を検討した。cpkマウスでは嚢胞性上皮細胞においてLとC両部位のリン酸化が著明であり、pSmad3L/C発現増強が病態に関与していることが示唆された。これらの所見を受けて、Smad3ノックアウトマウスとCPKマウスのダブルミュータントの作製を開始し、Smad3の操作による疾患表現型の修飾について検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
Smad3ノックアウトマウスとCPKマウスのダブルミュータントにより、Smad3の操作による疾患表現型の修飾について確認し、疾患特異的治療の開発のための基礎的データを収集する。また、抗TGF-β抑制薬の効果につき検討する。 具体的に述べると、Smad3ノックアウトマウスではTGF-βの影響を受けずEMTが抑制されることが予想され、Smad3ノックアウトマウスとCPKマウスを交配し、嚢胞形成の程度に変化がみられるか、またTGF-β/Smadシグナル伝達系および腎線維化・EMTが抑制されるのかを検討する。嚢胞形成および腎線維化・EMTが抑制されれば、TGF-β/Smad系をターゲットとした疾患治療の可能性が示唆される。さらにCPKマウスにおける治療研究として、CPKマウスに抗TGF-β抑制作用のあるtranilastを投与する。Tranilastは、抗アレルギー剤で臨床でも使用されている薬剤である。その結果、腎組織におるTGF-βやSmad3などの発現が減少するかどうかを評価する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、腎組織におけるタンパク発現と遺伝子発現の解析が主要な部分となる。タンパク発現検討に不可欠な組織切片の作成にマイクロトームを使用する予定で、その経費が発生する。また、微量な蛋白の発現を微細構造の中で詳細に検討するために、プラスチックに組織を包埋する予定であり、その薄切用に特殊なガラスナイフをマイクロトームにセッティングする必要がある。電気泳動、免疫組織学的染色、各種ブロッティングなどの実験機器・器具が必要である。動物モデルにおける腎機能の測定が必要で、その費用が発生する。種々の高価な抗体等が必要であり、また、分子生物学的実験試薬の種類も多く、その費用が発生する。本研究の成果は画像により示される部分が多く、その作製のための費用が必要である。 本研究分野の成果は日進月歩であり、国内外において積極的に最新の知見を収集することにより、本研究の軌道を調節する必要があり、旅費が発生する。また、積極的に国内外の学会発表や英文誌への投稿を目指すため、その旅費や英文校正の費用が必要である。
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[Presentation] cpkマウスARPKDモデルにおける上皮間葉移行(EMT)2011
Author(s)
向山弘展,中西浩一,戸川寛子,濵武継,島友子,宮嶋正康,吉原大輔,長尾枝澄香,高橋久英,飯島一誠,吉川徳茂
Organizer
第52回日本腎臓学会学術総会
Place of Presentation
横浜
Year and Date
2011.6.15-17
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[Presentation] Acceleration of Smad3 phosphorylation at linker regions via c-Jun NH2-terminal kinase (JNK) in cyst-lining epithelial cells in cpk mouse, a model of ARPKD2011
Author(s)
Mukaiyama H, Nakanishi K, Hama T, Togawa H, Shima Y, Miyajima M, Takahashi H, Nagao S, Iijima K, Yoshikawa N
Organizer
The 44th Annual Meeting of the American Society of Nephrology
Place of Presentation
Philadelphia
Year and Date
2011.11.8-13
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