2012 Fiscal Year Research-status Report
二分脊椎症モデルSIP1ノックアウトマウスを用いた神経管閉鎖メカニズムの解析
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23791215
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Research Institution | Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center |
Principal Investigator |
西崎 有利子 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 周生期学部, リサーチレジデント (90378901)
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Keywords | 神経管閉鎖 / 神経管閉鎖 / SIP1 / Wnt-PCPパスウェー / BMP / 細胞極性 |
Research Abstract |
本研究では、神経管閉鎖障害を示すSIP1ノックアウト(KO)マウスを、二分脊椎症のモデル動物として解析し、神経管閉鎖障害のメカニズムを解析することを目的としている。本年度は、神経管閉鎖過程関への関与が推測される様々な観点から、SIP1-KOマウスの解析を行った。まず、細胞極性の異常については、既に昨年度までに、F-actinのapical側(将来の閉鎖腔側)への局在がSIP1-KO胚において乏しいことが明らかになっていたため、apical側の細胞収縮を担うリン酸化ミオシン軽鎖(pMLC)について、神経管閉鎖期の胎生8.5日目胚で神経管内の分布を解析した。その結果、SIP1-KO胚では、神経板のapical側に沿って形成されるべき索状のpMLCが、形成不全で寸断化していることが明らかになった。また、神経管内の細胞増殖については、リン酸化ヒストンH3抗体を用いて異常が見られるかどうかを調べたところ、SIP1-KO胚と正常胚の間で大きな違いは見られなかった。一方、SIP1は、BMPシグナルの伝達を担うSmadと相互作用する分子であるため、BMPシグナル伝達の指標となるSmad5のリン酸化についても解析を行った。その結果、正常胚で見られる神経管の背側の局所的なSmad5のリン酸化が、SIP1-KO胚では見られないことが明らかになった。これらの結果から、SIP1-KO胚では、神経管の閉鎖が起こるべき背側領域で、BMPシグナルが正常に入力されていないこと、及び、神経管の閉鎖腔側の極性が正常に形成されず、閉鎖腔側のアクチン-ミオシンによる細胞収縮が障害されていることが明らかになった。本年度の研究により、これまで解明されていなかった神経管閉鎖の分子機構とSIP1との関係が明らかになってきた。これまで知られていない二分脊椎症の発症原因の特定につながる成果が得られたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の結果から、SIP1-KO胚では、神経管の閉鎖が起こるべき背側領域でBMPシグナルが正常に入力されていないこと、及び、神経管の閉鎖腔側の極性が正常に形成されず、閉鎖腔側のアクチン-ミオシンによる細胞収縮が障害されていることが明らかになった。特に、SIP1がBMPシグナルングの伝達分子であるSmadのリン酸化を制御している可能性が示唆された点については、神経管閉鎖の現象のみならず、BMPシグナルの制御についての新たな知見につながる可能性を与えるものである。本年度の研究では、神経管閉鎖障害に関わる分子的要素を一つ一つSIP1-KO胚で解析することによって、このような方略でしか解明できない神経管閉鎖の分子機構とSIP1との関係が明らかになってきた。二分脊椎症の発症原因の中でも、これまで明らかにされていなかった部分に関しての新たな知見であり、将来的に、この疾患の予防や治療に貢献できるような成果につながるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度の解析で明らかになったBMPシグナリングと細胞極性・細胞収縮について、この2つの現象とSIP1のつながり、及び、SIP1によるBMPシグナリングの制御機構について特に注力し解析を進展させる。 まず、SIP1-KO胚でSmad5のリン酸化に異常がみられたことから、SIP1によるSmadのリン酸化制御機構について、培養細胞を用いた解析を行う。野生型及びSIP1-KOのES細胞あるいは胚由来繊維芽細胞を用いて、BMPリガンド添加時のSmadリン酸化の変化、及びSIP1の核-細胞質局在の変化を、免疫染色等で解析する。 また、今年度に神経管閉鎖に関与が予測されるWnt-PCPパスウェーの解析を行うにあたり、平成24年度中に、ニワトリ胚の神経管閉鎖過程におけるDaam1やPDZ-RhoGEFの役割が報告されたため、この情報をもとにSIP1との関係についても解析する必要があると判断し、解析を行った。しかし現在のところ、SIP1-KO胚でこれらの分子の分布等には大きな異常は認められていない。そこでさらに、これらの分子と共に作用すると報告されているRhoAについても、現在解析を進めているところである。RhoAは、細胞運動の制御を担う分子としても知られており、SIP1と細胞極性・細胞運動及びWnt-PCPパスウェーを結ぶ結果につながると期待される。 また、神経管閉鎖障害の表現型を示すloop tailミュータントマウスが、今回、国内の研究機関から入手可能となったことから、このマウスとSIP1-KOマウスの交配と解析を行い、神経管閉鎖障害の表現型の重篤化を指標に遺伝的相互作用の有無を判定する予定である。 これらの解析により、神経管閉鎖におけるSIP1固有の役割と、既知の分子機構の中でのSIP1の機能の位置づけが明らかになる重要な知見が得られると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画においては、今年度にて研究期間を終了する予定であったが、予想外の研究結果が得られたことにより、計画を変更・延長し、その結果を発展させる。また、さらに有力な既知分子との相互作用を明らかにするために、loop tailミュータントマウスとの遺伝子相互作用を解析することとし、このミュータントマウスの移送、飼育、繁殖、解析に費用が必要となった。このマウスの解析の準備を整えるために時間を要したことから、解析を次年度に行うように、計画を変更・延長した。 昨年度の未使用額1350千円を、次年度の使用見込額にあてる。次年度使用見込額1350千円の内訳は、マウスの移送・飼育等の費用として350千円、分子生物学用試薬・細胞培養用消耗品に400千円、免疫染色用試薬・抗体等に300千円、学会発表・論文投稿費用に300千円を予定している。
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Research Products
(2 results)