2012 Fiscal Year Research-status Report
新生仔低酸素脳症の治療法としての大気圧プラズマの有用性
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23791237
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
近藤 朱音 東海大学, 医学部, 講師 (00384884)
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Keywords | 大気圧プラズマ / 虚血後脳症 / NO |
Research Abstract |
これまでの我々の研究では「プラズマ吸入が血管新生を促進すること」については明らかにしていたが、その機能評価についても検討してきた。ラットの脳虚血モデルをもとに、プラズマ吸入の治療効果について病理学的な判定と共に機能的な評価を試みた。またプラズマ吸入時の循環動態の変化についても着目した。 <研究の方法>①虚血モデルは出生後1-2日に右総頚動脈を結紮して行った。②虚血後は経時的に脳切片を作成し、虚血辺縁部の血管数を測定した。③機能血管数を計測するためトマトレクチンを心腔内投与して識別した。組織観察は蛍光抗体法を用い、共焦点レーザー顕微鏡下に行った。治療群では虚血後24時間後より大気圧プラズマ吸入を連日行い(印加電圧:5KV、周波数:3kHz、Heガス流量:1L/min)、未治療群と比較検討した。 ④大気圧プラズマ吸入時のラット血中NO値を血管内センサーを留置することで経時的に測定することが可能となり、その変化について循環動態と共に検討した。 <結果>①虚血後に大気圧プラズマを吸入した群において有意に血管新生が促進されていることが再現された。しかし神経細胞の治療による変化については今後も検討が必要であると思われる。②ラット脳虚血モデルでは歩行障害を認めたが、血管新生、神経細胞の増殖よりも前にその機能は代償されていた。③大気圧プラズマ吸入により血中NO値が上昇し、吸入をやめるとNO値は低下したがNO吸入とプラズマ吸入ではその血中濃度の変化が異なっていた。 <考察>脳虚血マウスの治療後の脳機能の機能評価については代償機能のため、歩行障害のみでの検討は困難であると考えた。これまで明らかになっていなかったプラズマ吸入の作用としてNOが血管内皮細胞で産生されている可能性が示唆された。NOは既に血管新生に働くことが明らかとなっており、本研究の臨床応用を考慮すると大変有意義な結果が得られたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の成果として明らかになったのは大気圧プラズマの吸入がラットの循環器系に与える影響である。23年度にはマウス脳虚血モデルを用いて、プラズマ吸入が血管新生に影響していることが明らかになったが、その治療後の評価として運動機能を主として観察していたところ、発症時には麻痺を認めるものの脳虚血部の機能は比較的速やかに代償されてしまうことがヒトとは異なっていたためすぐに結論を導きだすことは困難であった。そのため病理学的な検討を継続している。そこで、プラズマ吸入の際に観察していた血中NO濃度の経時的変化に加え、血圧の変化などの循環動態について検討した。プラズマ吸入後約30秒にて血中NOの増加を認め、数十秒後に血圧は5-7%の低下を認めた。この変化はプラズマ吸入とNO吸入時で異なっており、プラズマが血管内皮細胞に影響を及ぼしている可能性を示唆するものであると考える。また当初NO血中濃度の測定にあたってはプラズマ発生時のノイズのコントロールが困難であったが距離や機器同士の遮蔽の工夫などで安定して測定することが可能となった。これは今後NO以外の物質の測定にも応用できるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
大気圧プラズマの発生時には様々な物質が発生するが、周囲気体や物体などの影響を受けて組成が変化するため、現象にどのように作用しているのか明らかでない点が数多く存在する。そのため近年大気圧プラズマの質量分析を行い、組成を明らかにする試みがなされているが収量が十分でない場合もありまだ研究段階である。大気圧プラズマ発生時にNOも含まれていることは明らかになっているものの、NO吸入時とプラズマ吸入時の血中濃度の推移は異なっていることから、プラズマに含まれる何等かの成分が血管内皮細胞に働きかけることによってNOの産生を促していることも想定される。 また、通常の細胞においてプラズマ照射が細胞増殖を促すことがあきらかになっているため、妊娠大動物において臍帯血を採取し、臍帯血中に含まれるごく少量の幹細胞を増やすための大気圧プラズマの照射条件などについて検討する。ここから得られる増殖した臍帯血幹細胞はさらに次の段階として虚血の治療につなげていきたいと考える。 昨年度より行っている脳組織の評価の点においては現在機能血管数の増加の確認と共に、神経細胞の増殖の確認を試みているところであり、こちらも継続していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
NOやその他の微量物質の血中濃度を測定するためのセンサーが高額であるため、センサーの購入が主となる。その他は主に試薬やデータ処理や記録などに必要となる消耗品に使用することとなる。また今年度も引き続き学会発表などにも参加し、プラズマ医学・プラズマ工学の研修会などへの参加についても検討している。
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