2011 Fiscal Year Research-status Report
ATL既感染者に生じた菌状息肉症と、皮膚型ATLの鑑別アルゴリズムの開発
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23791282
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
平良 清人 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90404566)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 成人T細胞白血病 / 菌状息肉腫 / 白血化 / 病理鑑別 |
Research Abstract |
成人T細胞白血病ウイルスの感染者は、全世界・日本全国に広く存在し、その感染者中より毎年、少数の割合ではあるが急性白血病、リンパ腫、慢性型、くすぶり型、あるいは皮膚型の成人T細胞リンパ腫の各型として発症する。 日本全国に散らばるこの成人T細胞白血病ウイルス感染者であるが、沖縄・八重山地方では、特にその感染頻度が高く、沖縄県内の特定地域出身の健常な中高齢者では、その感染率、即ち、抗HTLV-1抗体陽性者は、30%以上にも達する。 この成人T細胞リンパ腫は、しばしば皮膚型のATLとしての症状を呈する。 一方、皮膚リンパ腫の中には、菌状息肉症とよばれる、非常に経過の長い慢性型の皮膚リンパ腫が存在する。 勿論、この菌状息肉症の発症には成人T細胞白血病ウイルスの関与はなく、HTLV-1感染の有無を問わず、一定の割合で罹患し、その発症は全世界にわたり地域性は見られない。 これら皮膚型ATLとHTLV-1の関与のない菌状息肉症は、非常に類似した病理的な形態を呈する。 しかしそれらの臨床的予後、治療への感受性は非常に大きく異なる。近年は、皮膚リンパ腫の確定診断の一助として、T細胞受容体の単クローン性の遺伝子組換えの有無の確認と、ATLとしての証明に末梢血中の抗HTLV-1 抗体の有無と、HTLV-1プロウイルスの単クローン性の組み込みを、サザンブロット法にて確認する。 サザン法により単クローン性の組換えが確認されると、腫瘍性のT細胞の増殖であると判断する。HTLV-1ウイルスの高感染地域以外では、現実的な問題として、この手法を菌状息肉症と皮膚型ATLの鑑別手法として問題は少ないが、沖縄諸島の健常な中高齢者の中で、HTLV-1既感染者が30%にも及ぶとされる高率な感染率を勘案すると、臨床的にも必ずしも完全に満足できる手法ではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
沖縄・八重山地方は、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)への感染率が非常に高い地域である。 これら高感染地域では、従来のCD4陽性T細胞へのHTLV-1プロウイルスのモノクローナルな組み込みにより、皮膚型の成人T細胞リンパ腫(ATL)であると臨床診断する手法はほぼ無効である。HTLV-1既感染者のCD4陽性T細胞が菌状息肉症の機序により腫瘍化したのであれ、いずれにせよ血清中のHTLV-1への抗体価は陽性でありT細胞受容体の遺伝子組換えとHTLV-1プロウイルスの組み込みは単クローン性の腫瘍としてサザンブロット法にて確認され、HTLV-1既感染者は全て菌状息肉症であっても、皮膚型のATLであると判断されてしまう。 本課題分野の第一目的は、成人T細胞白血病ウイルス既感染者(HTLV-1キャリアー)に生じた皮膚リンパ腫を、古典的な菌状息肉症であるのか、あるいはHTLV-1の発癌機序に依存性の皮膚型ATLであるのか、臨床現場における簡便な鑑別手法を開発することである。今年度は、先ずはこれまでのT細胞分化の系譜である、CD25, OX40, FoxP3、さらにATLが長期の感染期間の後に腫瘍化することより慢性炎症により誘導される後天的な遺伝子改変酵素であるAIDを始めAPOBEC酵素群の蛋白発現を皮膚型ATLと菌状息肉症の病理切片において行った。しかしながら、CD25, FoxP3に関しては、大部分の両者に陽性に発現し、 OX40は菌状息肉症には発現は乏しいが、皮膚型ATLで半数以下の症例では陰性と臨床上鑑別には不十分であり、現在AID, POBEC蛋白群の発現解析を進めている。しかしながら現時点ではこれらmRNA,および遺伝子改変酵素の発現も両者間に特異的とまでは言い難い結果となっており、厳密な差別化の必要な臨床鑑別のアルゴリズムとしては使用が難しいかとの印象を受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
免疫組織学的にHTLV-1既感染者の皮膚型ATLと菌状息肉症の鑑別を可能とするプロトコールの完成を目指していた。上記のように、FoxP3、AID、APOBEC蛋白などの蛋白発現を指標に、免疫学的な解析を継続してきたが、皮膚型ATLあるいは菌状息肉症の患者間、病期間の違いによる脱分化や蛋白発現脱落により、その発現プロファイルが一定せず、特定の蛋白発現を選択しての鑑別は困難であると感じた。発癌機序に直接の関係のない蛋白群の発現では、患者間の差異や経時的変化あるいは病期による腫瘍細胞の変貌・脱分化により、その発現プロファイルが一定せず、特定の蛋白発現を選択しての鑑別は困難であると感じている。 そこで、T細胞の腫瘍化の機序に根ざし、悪性腫瘍として増殖する限り、その発現を欠くことの出来ない因子を、鑑別マーカーとして使用しなければ、完全な鑑別手法として成立しえないと考えるに至り、マイクロRNAを利用したプロファイル化を指向した。 ここ数年、白血病やリンパ腫を含めヒトの腫瘍においても、マイクロRNAによるメッセンジャーRNAの発現調節さらには蛋白発現の調整が、その癌化プロセス・腫瘍形質の維持に大きく関与していると理解されてきた。 そこで今後の研究課題においては、皮膚型ATLと菌状息肉症患者の皮膚病理組織において、研究計画に述べる進行期のリンパ腫において発現の指摘された数種のマイクロRNAの発現パターンを、早期皮疹部で詳細に比較し決定する。 HTLV-1既感染者であっても、皮膚型ATLと菌状息肉症との鑑別が可能となる腫瘍化機序に直結する鍵となる疾患特異的なマイクロRNAを決定すると共に、その鍵となるマイクロRNAの下流に支配される蛋白の発現を決定することで、病理学的には鑑別の困難な初期病変における両皮膚リンパ腫の鑑別アルゴリズムを確立したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ヒトゲノムの全容解明後、極短鎖の制御性RNAである数百種類のマイクロRNAの存在と、その腫瘍化過程における役割が明らかにされてきている。 白血化し単クローン性の腫瘍となった白血期のATL、セザリー症候群でも、検討数は限られてはいるがその発現プロファイルが報告されている。 これらのデータを元に、より病初期の段階である皮膚型のATLと菌状息肉症における、各疾患に特異的なマイクロRNAを、患者病理組織上での in situ ハイブリ法により決定する。探索すべきマイクロRNAの候補として、現在既に、皮膚型ATLには、microRNA-146b-5p, -451を、菌状息肉症にはmaicroRNA-20a, 29a, 30b, 31, 181a, 222, 320aを選別した。24年度はこれらのマイクロRNAの局所ハイブリを完了し、そのプロファイルの違いより、両疾患に特異的な、マイクロRNAを決定する。 そのために、先ずは前年に引き続き、これまでにT細胞リンパ腫において報告のあるマイクロRNAより、両者の鑑別の可能性があると考えられるマイクロRNAに関しては、局所ハイブリ法での鑑別を完了する。 次にこの局所ハイブリ法による結果より、各疾患に特異的なマイクロRNAの組み合わせを選択し、ウエブ上でのマイクロRNAの機能支配プログラムを利用して、この特異的マイクロRNAの組み合わせにより、皮膚型ATLと菌状息肉症とでは違った発現調節を受け、かつT細胞で発現する蛋白を選別する。 コンピューターの確率計算より選択した上記の蛋白群の発現を、実際の皮膚型ATLと菌状息肉症の病理切片での免疫染色、あるいはRT-PCR法により比較しその差異を確認する。 また疾患コントロールとしての接触過敏症などの炎症疾患においても、これら蛋白発現を検討する。
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