2012 Fiscal Year Research-status Report
ATL既感染者に生じた菌状息肉症と、皮膚型ATLの鑑別アルゴリズムの開発
Project/Area Number |
23791282
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
平良 清人 琉球大学, 医学部附属病院, 講師 (90404566)
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Keywords | 成人T細胞白血病 / 菌状息肉症 / 白血化 / 病理鑑別 |
Research Abstract |
沖縄・八重山地方は、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)への感染率が非常に高い地域である。これら高感染地域では、従来のCD4陽性T細胞へのHTLV-1プロウイルスのモノクローナルな組み込みにより、皮膚型の成人T細胞リンパ腫(ATL)であると臨床診断する手法はほぼ無効である。HTLV-1既感染者のCD4陽性T細胞が菌状息肉症の機序により腫瘍化したのであれ、血清中のHTLV-1への抗体価は陽性でありT細胞受容体の遺伝子組換えとHTLV-1プロウイルスの組み込みは単クローン性の腫瘍としてサザンブロット法にて確認され、HTLV-1既感染者は全て菌状息肉症であっても、皮膚型のATLであると判断されてしまう。 成人T細胞白血病ウイルス既感染者(HTLV-1キャリアー)に生じた皮膚リンパ腫を、古典的な菌状息肉症であるのか、あるいはHTLV-1の発癌機序に依存性の皮膚型ATLであるのか、臨床現場における簡便な鑑別手法を開発することを目標とした。昨年度は、T細胞分化の系譜である、CD25, OX40, FoxP3、さらにATLが長期の感染期間の後に腫瘍化することより慢性炎症により誘導される遺伝子改変酵素であるAIDを始め、APOBEC酵素群の蛋白発現を皮膚型ATLと菌状息肉症の病理切片において行った。CD25, FoxP3に関しては、大部分の両者に陽性に発現し、OX40は菌状息肉症には発現は乏しいが、皮膚型ATLで半数以下の症例では陰性と臨床上鑑別には不十分であり、さらにAID, POBEC蛋白群の発現解析を進めた。しかしながら、これらのmRNAおよび遺伝子改変酵素の発現も両皮膚リンパ腫間に特異的とまでは言い難い結果となり、厳密な差別化の必要な臨床鑑別のアルゴリズムとしては使用が難しいかとの印象を受け、次にマイクロRNAの発現による鑑別の可能性を考え候補遺伝子の選定行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずFoxP3に代表される制御性T細胞マーカー蛋白、AID蛋白、APOBEC1-4蛋白群などmRNA編集酵素群、CXCR4等ケモカイン受容体群や、ATLウイルス由来の転写因子であるHBZを指標に、免疫組織学的な解析を行った。 しかし皮膚型ATLあるいは菌状息肉症の患者間、病期間の違いによる、脱分化や蛋白発現脱落により、これらの蛋白発現が一定せず、特定の蛋白発現を選択しての鑑別は困難であると感じた。また感染細胞と腫瘍細胞の染色強度の違いに、臨床現場で使用可能なほどの強弱は得られなかった。従来のCD膜抗原、腫瘍マーカーによる免疫組織学的なカンバ悦では限界があると最終的には判断した。 そこで、各リンパ腫瘍の形成・維持において必須の特異的マイクロRNAを文献上、網羅的に拾い上げ、その下流に制御される蛋白群の発現をも解析することで、初期病変における両皮膚リンパ腫の病理学的な鑑別アルゴリズムの確立を目指した。 皮膚型ATLにはmicroRNA-146b-5p, -451を、菌状息肉症にはmicro RNA- 20a, 29a, 30b, 31, 181a, 222, 320aを選別した。これらマイクロRNAのin situ ハイブリをプローベ毎に条件設定し、その発現プロファイルの決定を進めている。特異的なマイクロRNAの組み合わせを決定し、その下流に支配され、皮膚型ATLと菌状息肉症とでは違った発現調節を受けるT細胞での発現蛋白の探索を続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
発癌機序に直接関係のない蛋白群の発現では、患者間の差異や経時的変化あるいは病期による腫瘍細胞の変貌・脱分化により、その発現プロファイルが一定せず、特定の蛋白発現を選択しての鑑別は困難であると考えた。 そこで、T細胞の腫瘍化の機序に根ざし、悪性腫瘍として増殖する限り、その発現を欠くことの出来ない因子を、鑑別マーカーとして使用しなければ、完全な鑑別手法として成立しえないと考えるに至り、マイクロRNAを利用したプロファイル化を目指している。 ここ数年、白血病やリンパ腫を含めヒトの腫瘍においても、マイクロRNAによるメッセンジャーRNAの発現調節さらには蛋白発現の調整が、その癌化プロセス・腫瘍形質の維持に大きく関与していると理解されてきた。 そこで今後の研究課題においては、皮膚型ATLと菌状息肉症患者の皮膚病理組織において、研究計画に述べる進行期のリンパ腫において発現の指摘された数種のマイクロRNAの発現パターンを、早期皮疹部で詳細に比較し決定する。 HTLV-1既感染者であっても、皮膚型ATLと菌状息肉症との鑑別が可能となる腫瘍化機序に直結する鍵となる疾患特異的なマイクロRNAを決定すると共に、その鍵となるマイクロRNAの下流に支配される蛋白の発現を決定することで、病理学的には鑑別の困難な初期病変における両皮膚リンパ腫の鑑別アルゴリズムを確立したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
探索すべきマイクロRNAの候補として、現在既に、皮膚型ATLには、microRNA-146b-5p, -451を、菌状息肉症にはmaicroRNA-20a, 29a, 30b, 31, 181a, 222, 320aを選別した。プローベ毎に条件設定を継続している。 25年度はこれらのマイクロRNAの局所ハイブリを継続し、そのプロファイルの違いより、両疾患に特異的なマイクロRNAの存在を決定する。前年に引き続き、両者の鑑別の可能性があると考えられるマイクロRNAに関しては、局所ハイブリ法での鑑別を完了する。 次にこの局所ハイブリ法による結果より、各疾患に特異的なマイクロRNAの組み合わせを選択し、ウエブ上でのマイクロRNAの機能支配プログラムを利用して、この特異的マイクロRNAの組み合わせにより、皮膚型ATLと菌状息肉症とでは違った発現調節を受け、かつT細胞で発現する蛋白を選別する。 コンピューターの確率計算より選択した上記の蛋白群の発現を、実際の皮膚型ATLと菌状息肉症の病理切片での免疫染色、あるいはRT-PCR法により比較しその差異を確認する。 また疾患コントロールとしての接触過敏症などの炎症疾患においても、これら蛋白発現を検討することで、初期病変における両皮膚リンパ腫の病理学的な鑑別アルゴリズムの確立を目指した。
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