2011 Fiscal Year Research-status Report
ファージ提示法を基礎技術とした天疱瘡における自己抗体の解析
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23791291
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山上 淳 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80327618)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 天疱瘡 / 自己免疫疾患 / 自己抗体 / 自己反応性B細胞 |
Research Abstract |
天疱瘡は、皮膚の角化細胞同士の接着分子であるデスモグレイン(Dsg)に対する自己抗体により生じる自己免疫疾患である。本研究の目的の一つは、天疱瘡以外の人にも見られるDsg前駆体(preDsg)に対する自己抗体の解析である。 落葉状天疱瘡(pemphigus foliaceus; PF)が風土病であるチュニジアの一部では、しばしば健常人からDsg1に対する抗体がELISAで検出される。蛍光抗体法で表皮細胞間の染色を示さないことから、チュニジアの健常人は細胞内のpreDsg1に対する抗体を持つと予測された。本研究では、PF発症前に見られる抗Dsg1抗体を解析するため、CHO細胞で作成したDsg1の前駆体(preDsg1)と成熟タンパク(matDsg1)を用いて、チュニジアの健常人および風土病型PF患者、日本人の通常型PF患者血清の反応性を免疫沈降法で評価した。チュニジア健常人の血清は、preDsg1のみに反応するか、preDsg1に対してmatDsg1よりも強い結合性を示した。一方で、チュニジア人および日本人のPF血清は、preDsg1とmatDsg1に同等の反応もしくはmatDsg1により強い反応性を示した。またチュニジア健常人における抗Dsg1抗体のエピトープは、Dsg1のC末端に近いEC3からEC5が中心であったが、チュニジア人のPFでは細胞外ドメイン全体に広がっており、発症時にはN末端のEC1とEC2にも反応性が拡大していた点は、PFの発症機序を考える上で興味深かった。 本研究の結果は、近年の研究で示唆されてきた健常人におけるpreDsg特異的B細胞の存在を支持するとともに、状況によりpreDsgに対する自己抗体も産生されうることを示した点で意義深く、天疱瘡研究の新たな局面を切り開いたと言える。 上記の成果をまとめた論文はすでに投稿され査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、本研究の目的の一つであるDsg前駆体に対する自己抗体の検討は順調に進んでいる。今まで行ってきた免疫沈降法に加えて、CHO細胞で発現させた前駆体と成熟体それぞれのみを含む組替えタンパクを用いたELISAプレートの調整ができた。これにより、平成24年度以降にDsgの前駆体と成熟体それぞれに対する自己抗体の定量的解析を行う環境が整った。 一方で、天疱瘡における「病原性決定領域(hot spot)」の同定が、もう一つの本研究の目的であり、ファージ提示法を用いて天疱瘡患者および健常人からのDsgに対するモノクローナル抗体の単離を試みている。こちらは、現在まだ実験系を安定させている段階である。 平成23年度は、チュニジア健常人の血清を解析中にDsg前駆体に対する抗体を検出できたため、その成果を論文にまとめて発信することを優先させた。結果として、ファージ提示法の実験に多くの時間をかけることができなかったが、平成24年度は重点的に進めるようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
Dsgの前駆体と成熟体のELISAによる定量的解析が可能になるので、天疱瘡患者の臨床症状や病勢の経過とDsgの前駆体および成熟体に対する抗体の関係が検討できる。治療後もDsgに対する自己抗体が検出され続ける天疱瘡患者が少なからずいるが、その中で前駆体に対する抗体(確実に病原性がない)の含まれる割合などを解析すれば、臨床現場にも直接還元しやすいトランスレーショナルリサーチとしての要素を前面に押し出せると考えられる。 同時に、ファージ提示法による健常人および天疱瘡患者からのDsgに対するモノクローナル抗体の単離を推進していく。ファージ提示法は、複数の検体を扱うと遺伝子汚染を起こしやすくなるため、RNAの抽出、cDNAの保存、PCRの手技などを注意深く行わなければならない。限られた労力と時間を有効に活用するため、より多くの抗体ライブラリーを構築して将来の研究に役立てることも検討しつつ、細部にわたる解析は症例をしぼって行う判断も必要になると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように、血清解析で得た成果をなるべく早く発表する方針としたため、平成23年度の後半は、研究活動におけるデータ検証と論文作成の比重が大きくなった。その結果、予算として計上していたファージ提示法の実験に用いる消耗品を購入しないまま平成24年度を迎えることとなった。以上に加えて、効率的な物品調達を心がけたため、予想を上回る未使用額が発生した。研究実績の発信のタイミングが早まって、比較的コストの低い論文作成などを1年目に行えたことが最大の理由で、研究の進捗状況は概して順調なので、研究費を能率よく使用できている状況である。 平成24年度は、ファージ提示法を行う実験量が増えるので、RNA抽出、RT-PCR、プラスミドの増幅、大腸菌の大量培養などに必要な試薬を相当量購入する予定であり、平成23年度の未使用額を有効に活用したいと考えている。また国内外の学会において、本研究の成果を発表することも重要であり、旅費も増加が見込まれる。
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