2011 Fiscal Year Research-status Report
皮膚癌の形成、浸潤や転移におけるデスモソーム構成分子の役割についての研究
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23791300
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
TEYE KWESI 久留米大学, 医学部, 研究員 (30599303)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 皮膚腫瘍学 / 基底細胞癌 / 有棘細胞癌 / 悪性黒色腫 / デスモゾーム / デスモグレイン / デスモコリン / 皮膚癌治療 |
Research Abstract |
これまでにデスモゾームタンパクの消失により癌の浸潤・転移が促進されることがわかっているが、実際の皮膚癌においてはデスモゾームタンパクが増加するという報告もあり、デスモゾーム発現や機能の変化がどのように起こっているかについてはまだほとんど解明されていない。平成23年度は有棘細胞癌と基底細胞癌についてデスモコリン1, 2, 3を用いて免疫組織化学によりその有無、局在について検討した。まず、比較対象のコントロールとして表皮におけるデスモコリン1, 2, 3の発現を調べたところ、いずれも発現していることが確認できた。次に、腫瘍での染色性を表皮の染色性と比較し相対的に評価した。有棘細胞癌ではデスモコリン1は消失しており、デスモコリン2, 3は高分化の腫瘍で表皮と同程度に染色されたが、低分化の腫瘍では弱く染色されただけだった。有棘細胞癌は低分化になるほど悪性度が高くなり、再発したり転移する確率が高まるということが知られている。低分化の有棘細胞癌でデスモコリン2, 3の染色性が減弱していることは、デスモコリン2, 3が腫瘍の再発・転移の機序に関与している可能性が高いことを示唆していると考えられた。基底細胞癌ではデスモコリン1は正常表皮と比べ非常に弱く染色され、デスモコリン2, 3は正常表皮細胞と同じ程度に陽性に染色された。有棘細胞癌に比べ基底細胞癌は再発・転移が生じにくい腫瘍であるため、デスモコリン2, 3の染色性が正常皮膚とほぼ同じであったことは、その転移しにくさを反映していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、皮膚癌の形成、浸潤や転移におけるデスモソーム構成分子の役割について調べるための前段階として、正常皮膚でのデスモソームタンパクの局在を調べることから始めた。これらのデスモソームタンパクの局在は一部のものはわかっているが、デスモグレイン2やデスモコリン1, 2, 3については調べられていない。まずデスモコリン1, 2, 3について表皮での発現を免疫組織化学で調べた。その結果いずれも表皮で発現していることがわかったが、そのパターンは異なっていた。表皮は、今回研究対象としている3つの皮膚癌の中の1つである有棘細胞癌の良性カウンターパートに該当するため、今回の研究を有棘細胞癌から開始することとした。有棘細胞癌では低分化になるほど再発・転移が多くなることが知られている。そのため、高分化、中分化、低分化の有棘細胞癌を集める必要があり、それに十分な時間をかけた。現在、デスモグレインの免疫組織化学の準備中であり、安定した結果を出すための調整を慎重に行っている。これと並行してデスモグレイン1, 2, 3とデスモコリン1, 2, 3のウエスタンブロットとELISAの準備を進めている。ウエスタンブロットに関しては市販されているデスモグレイン1, 2, 3とデスモコリン1, 2, 3に対する抗体の中から最も適した抗体の選定を終えた。ELISAについてはすでに自己免疫性水疱症の診断のために当科でデスモグレイン1と3のELISAの臨床応用を行っているが、そのほかのデスモゾームタンパクに関しても、今回リコンビナントタンパクを用いて、計測する系を作成した。デスモグレイン1と3に関しては、これまでに当科で正常人の血清を用いた検討で、カットオフ値がすでに決定している。デスモコリン1,2,3についても正常人血清を用いカットオフ値を決定する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、デスモグレイン1, 2, 3についてパラフィン切片を用いた免疫組織化学を行い、デスモコリン1, 2, 3の結果とともに臨床データと比較解析する。その際に腫瘍の分化度によるデスモゾームタンパクの発現量に違いがあるかどうかも合わせて検討する。その後、凍結皮膚癌組織からRNA、タンパクを抽出する。RNAは健常人標本と担癌標本について定量的RT-PCR法により解析する。同様に、タンパクは健常人標本と担癌標本について各種の商品化された抗体を用いて免疫ブロット法により解析する。デスモゾームタンパクは正常表皮でも発現し、有棘細胞癌でも発現していることが本年度の結果からわかったので、免疫ブロットの結果は定量的にも解析する。さらに皮膚癌についての自己抗体の検索を詳細に進めるために、担癌患者の血清を用いて、本年度に確立した免疫ブロット法とELISA法を用い、自己抗体の有無について検討する。デスモグレイン1, 3を除きカットオフ値は決まっていないが、今回新たに作成したELISAを用いて正常血清のデータを解析することでカットオフ値を決定し、担癌患者のデータの解析に役立てることができる。その後、皮膚癌でのデスモゾーム関連タンパク発現のプロモーターレベルでの調節機構を解析し、各々の皮膚癌特有のデスモゾームタンパク発現がどのように調節されているかを調べる。DNAシークエンスおよび制限酵素断片長多型(RFLP)による変異解析を行い、DNAメチル化の状態についても、定量的RT-PCR後にRFLPを行うことにより解析する。プロモーター活性についてはリポーターアッセイにより解析する。また、エクソン領域の遺伝子異常についてもいくつかのデスモゾームタンパクについて解析する。最終的にはデスモゾーム関連タンパク分子のRNAi後にマイクロアレイ解析を行うことにより、様々な遺伝子発現の変化を一度に解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は物品費110万円、旅費40万円、間接経費45万円の予算を予定している。物品費110万円のうち30万円についてはデスモグレイン1, 2, 3とデスモコリン1, 2, 3の抗体購入費に充てる。これらの抗体は免疫組織化学に使うものとウエスタンブロット、ELISAで使用するものが一部異なるため、それぞれの目的に適した抗体を購入する必要がある。また、RT-PCRのキット購入に30万円を充て、DNAシークエンスに必要なプライマーの購入に5万円を充てる。リポーターアッセイ用の96ウェルプレートやウェスタンブロットのゲル、マイクロアレイ解析の基板などの購入にも30万円を充てる。15万円はエッペンドルフチューブなどの消耗品の購入代金とする。旅費40万円については国際学会の参加費・旅費に充当させる。間接経費45万円については画像解析に必要なスキャナ、データ解析に必要な各種ソフト、実験室の備品、学会発表に必要な画像処理ソフト、わかりやすいプレゼンテーションに必要な市販のグラフィックス、データの整理、管理を行う秘書の経費などに使用する。
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