2011 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症発症予防に関わる母乳由来母子間伝達物質の同定
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23791363
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
前川 素子 独立行政法人理化学研究所, 分子精神科学研究チーム, 研究員 (50435731)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 統合失調症 / 母乳 / 母子間伝達物質 / FABP7 / B6マウス / C3マウス / 栄養 / 環境要因 |
Research Abstract |
本研究では、統合失調症の予防に有効な「たとえ微量であっても生理活性が高く脳の発達および統合失調症脆弱性形成に影響を与える物質(母子間伝達物質)」を見出すことを目的とする。スクリーニングによって既知または未知の物質を見つけ出し、更にその分子基盤を明らかにすることが出来れば、科学的なインパクトが大きいと考えられる。また、これらの知見を生かした栄養指導、あるいは全く新しい概念に基づく予防薬の開発などにより統合失調症の発症率を抑えることが出来れば、社会的意義が非常に大きいと考える。また、物質に関連する遺伝子を感受性遺伝子として同定することや、作用メカニズムの理解を深めることが出来れば、統合失調症の病因に対して全く新しい提案につながる可能性を孕んでいる。本申請研究では、1) B6マウス(健常者モデル)母乳にはプレパルス抑制を高める作用のある栄養物質(特に脂質)が含まれる、2) C3マウス(統合失調症モデル)の母乳にはプレパルス抑制を低める栄養物質が含まれるもしくはプレパルス抑制を高める栄養物質が少ない、という二つの可能性を考えた。上記の2系統のマウスを用いて、母仔交換実験を行い、母乳の成分・母仔交換後の仔の行動・仔の脳の成分を比較解析することによりプレパルス抑制をはじめとする精神疾患関連行動を制御する要因としてどのような物質の寄与があるのかを検討する。また、発達期のマウスに対して候補物質の経口投与を行い、候補物質がプレパルス抑制に対して効果があるかどうかを実際に検証する。さらに候補物質の代謝に関係する遺伝子についてヒトサンプルを用いて遺伝学的解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、統合失調症の予防に有効な「たとえ微量であっても生理活性が高く脳の発達および統合失調症脆弱性形成に影響を与える物質(母子間伝達物質)」を見出すことを目的とする。1、母から仔へ伝達される母子間伝達物質の有無を検討するために、B6マウスとC3マウスの母と仔を入れ替えて飼育し仔の行動を観察した。その結果、B6母マウス(健常者モデル)にC3マウス(統合失調症モデル)の仔を育てさせるとC3仔マウスのプレパルス抑制がやや改善する、C3母マウスにB6マウスの仔を育てさせると記憶に関連する行動に変化が見られる、という結果を得た。2、B6マウスとC3マウスの母乳の成分比較を行ったところ、葉酸、脂質、ビタミンB6などの量に差が有ることを見いだした。現在、さらに未知の物質の同定を進めている。3、母乳の成分比較において差が認められた物質に関連する遺伝子について、統合失調症、自閉症などの発症脆弱性遺伝子である可能性を遺伝統計学的に検討した。上記のように、申請書に記載した平成23年度の計画をほぼ実行し、結果を得たことから、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。1、平成23年度のB6マウスとC3マウスの母乳成分比較で絞り込んだ精神疾患関連行動に影響を与える可能性のある物質を、B6マウスまたはC3マウスの仔に投与し、仔の行動に変化がみられるかどうかを観察する。2、1で絞り込んだ精神疾患関連行動に影響を与える候補物質の作用メカニズムの解析を行う。具体的には、候補物質を投与したマウスの脳を用いて網羅的遺伝子発現解析、組織学的解析、候補物質の体内動態追跡実験、を行う。3、平成23年度から引き続き、母乳の成分比較において差が認められた物質に関連する遺伝子について、統合失調症、自閉症などの発症脆弱性遺伝子である可能性を遺伝統計学的に検討する。これらの実験を行うことにより、母子間伝達する統合失調症予防に有効な脂質を見つけることが出来れば、予防薬や新規治療方法の開発研究をめざした産業界の活動に波及すると考えられる
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画は以下の通りである。1、精神疾患関連行動に影響を与える候補物質の作用メカニズムの解析を行うため、マウスを購入して候補物質を経口投与する。2、精神疾患関連行動に影響を与える候補物質の作用メカニズムの解析を行うために、網羅的遺伝子発現解析、組織学的解析、候補物質の体内動態追跡実験、を行う。これらの実験に必要な、免疫組織科学用抗体、分子生物学用試薬、遺伝子発現解析関連試薬を購入する。3、母乳の成分比較において差が認められた物質に関連する遺伝子について、統合失調症、自閉症などの発症脆弱性遺伝子である可能性を遺伝統計学的に検討するために、遺伝子タイピング試薬を購入する。
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