2011 Fiscal Year Research-status Report
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23791442
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
井上 勉 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30406475)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 慢性腎臓病 / 虚血 / MRI / BOLD |
Research Abstract |
研究計画に則り、慢性腎臓病患者の腎MRIデータ、臨床データの収集に努めた。これまでに100症例を超えるデータを収集出来ている。予想通り、DW(diffusion weighted) MRIにおけるADC(apparent diffusion coefficient)値は推定糸球体濾過量:eGFR(estimated glomerular filtration rate)に有意に相関する事が統計学的にも証明された。一方、BOLD(blood oxgenation level dependent) MRIのT2*値は、症例数を増やしてもeGFRとの相関が弱いままであった。患者背景に原因を求めるために、腎機能に影響を及ぼす検査値の他に、原疾患やこれまでBOLD MRIの計測値に影響を及ぼすことが報告されている各種因子にも注目して解析をすすめた。その結果、我々の予備実験でもBOLD MRIのT2*値の変動に有意に影響を及ぼす可能性が示唆されていた糖尿歴の有無が、最終的にもT2*の計測値に大きく関与している事が判明した。その他、腎血管性高血圧症、高度蛋白尿を示すネフローゼ症候群、急速進行性糸球体腎炎の発症初期、急性腎障害など、各種原疾患によってBOLD MRIのT2*値は統計学的に有意な影響を受けていた。原疾患を日本における慢性腎障害の3大疾患である糖尿病腎症、慢性腎炎症候群、腎硬化症に限定すると更にMRIの各種測定値と臨床パラメータの相関が明らかになった。最終的には急性腎障害、ネフローゼ症候群、腎血管性疾患ではBOLD MRIのT2*値がeGFRと乖離することが明らかとなった。DW MRIのADC値に関しては、腎線維化程度と相関しているという我々の予想を検証するために、予定していた腎生検の組織学的検索の中でも、間質線維化マーカーの検証をまず進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在稼働中のMRIを用いた撮像法の確率、画像解析手法の検討はほぼ確立し、日々の臨床の中で腎臓のMRIは実際に有用な画像検査として稼働している。研究報告目的での臨床データの収集はほぼ予定通り進んでおり、当初予定していた症例数の目標は達成した。他科との連携も良好である。組織学的検討も平行してい進めているが、DW MRIのADC値が腎線維化程度と有意に相関するという仮説を証明するために、まずは腎生検の特殊染色を行い線維化領域の定量法を確立した。複数の腎臓内科医、病理医との連携で日常で用いているスコアリングと有意に相関する事を確認している。同計測法を用いて、DW MRIのADC値と腎線維化程度が統計学的に有意に相関する事を確認した。前述のBOLD MRIの結果、原疾患との相関を含め、DW MRIのADC値と線維化の関連、さらにDWI MRIとBOLD MRIの関連に関して原疾患別に考察した結果は正式な原著論文にまとめてアメリカ腎臓学会雑誌に報告した。研究の達成度に関して、MRI撮像法の確立については予定よりも早く進んでおり、組織学的検討に関しては免疫染色法の50%程度、特殊染色法とその後の計測法に関しては100%、尿検体での検討は未施行の状況である。全体としては予定よりも早めに進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのデータを解析した結果、臨床検査値の変動とMRIにおける計測値の変動はほぼ一致しているが、MRI検査値の方が変動が大きく、我々が予想していたよりも感度・特異性が劣る可能性が考えられた。研究計画では、尿中あるいは腎生検標本を用いた線維化・炎症マーカーとMRI測定値の相関を検討する予定であったが、MRI値の変動が予想よりも大きかったため、計画通りでは十分な精度の検討が困難である可能性が高い。腎生検を用いた検討は、条件設定も含めて準備を進めておくことが必要だと考えられるため、各種抗体の条件設定や実際の検討を進めている。炎症のマーカーであるマクロファージマーカー、線維細胞のマーカー、特殊染色による線維化領域の定量に関しては、これまで動物実験で積み重ねた方法論の応用であり、今後も順調に進展すると予想しているが、MRI値の相関を検討するという計画に関しては変更が必要かもしれない。計画書にある代替案「実験動物モデルを用いた検討」に加えて、平成24年度から当院でも稼働が予定されている3テスラMRIを用いて、腎MRIの撮像条件を再検討し、従来の1.5テスラMRIとの各計測値の比較を行う予定である。しかし、動物実験用の高磁場MRIが稼働している研究施設が国内でも限られており交渉が難航しいること、当院の3テスラMRIが未だ未稼働である事から、次年度は若干研究の遅れが懸念される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
BOLD MRI、DWI MRIの撮像条件に関しては、3.0Tの新型機を用いた予備実験を予定している。これまでと同様のプロトコルで種々の条件設定を試みる組織染色に関しては、各抗体の条件設定、増感法、検鏡、データ収集の各課程とも極めて良好に機能しており問題ない。残りの抗体染色の条件設定をすすめていく。尿検体の解析にも着手する予定である。また放射線科との連携も密に進んでおり、研究を進める体制としては更に充実してきている。結論として、腎MRIの撮像技術そのもの、腎生検を用いた炎症・線維化の評価法それ自体は順調に進んでいるが、両者を併せて検討するという部分が計画書通りでは十分では無い可能性があり、現在、複数の代替案を平行して模索している最中である。研究費は昨年度通り、(1)画像診断に必要な機材、ソフトウエアの購入・更新、(2)免疫染色法に必要な消耗薬品類の購入、切片の準備費用、(3)ELISAキットの購入に当てていく予定である。
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