2012 Fiscal Year Research-status Report
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23791442
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
井上 勉 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (30406475)
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Keywords | 慢性腎臓病 / 虚血 / MRI / BOLD / 低酸素 / 線維化 |
Research Abstract |
・研究計画提出時に進行していた「1.5テスラMRI(magnetic resonance image)を用いた慢性腎臓病を対象とする機能的MRI法の確立」に関しては、研究助成を得たことで進行が加速し、第一報は予定よりも早く論文としてアメリカ腎臓学会誌に発表することができた。同機能的MRI(DWI: diffusion-weighted image、およびBOLD MRI: blood oxygenation level-dependent MRI)は、当院では臨床検査として電子カルテからオーダー可能になっており、超音波検査やX線CT(computed tomography)と同様に腎疾患診療に利用可能となった。以前は超音波M-modeやX線CTで腎表面、実質厚、サイズをみて慢性/急性の判断をしていたが、MRIでは更に内部構造(皮髄境界)や各種計測値から多角的に判断する事が出来る。 ・24年度に設置された3テスラMRIを用いた腎機能的MRIのシークエンスを確立する為に、放射線科と協力してボランティアを被験者とした予備実験を重ねた。高磁場である事を生かして新たな撮像法としてDTI(diffusion tensor imaging)とASL(arterial spin labeling)を一連のシークエンスに加えた。Conventionalな腎MRIで形態・内部構造を評価するのに加えて、機能的MRIとしてDWI(線維化)、BOLD(酸素分圧)、DTI(尿細管・細血管微細構造)、ASL(血流・灌流評価)の4軸で腎を評価するシークエンスを確立しつつある。介入や群分けを伴わない横断研究に関しては、既に院内IRBに申請書類を提出し、平成25年1月に許可を得た。学会、研究会や論文としての発表に支障なくデータの収集が出来る状態となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【予定通り進行した内容】・1.5テスラMRIを用いた機能的MRIは既に当院で稼働しており、実臨床への研究成果の還元は順調。学会、講演会、総説などでも研究内容を世間に広く公表している。 ・MRIの各種計測値と腎生検や臨床検査値との相関を検討し、定量的な評価法として意味付けをする計画に関して、研究初年度から染色法や組織学的計測法の確立を試みていた。繰り返しが必要な条件検討は主にマウスモデルを用いて行い、染色条件等はヒト腎生検標本を用いて検討し、再現性のある評価系は確立されたと考える。実際に、他の基礎系研究課題遂行の為に既に応用している。各種抗原賦活法の比較検討や、市販の電気毛布を用いて抗原・抗体反応用の恒温槽を自作するなど、実験手法の改善には大きな進歩があった。 【遅れている、あるいは計画の変更が必要であった内容】・繰り返し撮像できた症例を含め150例以上の既存のデータの中には、本研究費交付以前にエントリーした症例まで遡れば、4年以上の臨床経過を追える例も発生してきた。そこで、組織学的検討以前に、臨床検査の経過とMRIの計測値の相関を検討したが、症例数が少ない影響もあるが、今のところ意味のある相関は得られていない。臨床検査値との相関が不明瞭な段階で、腎生検を用いた組織学的検討に意味があるのか、多額の研究費が必要になる計画内容であり、現在、慎重に検討している。 ・マウス慢性腎臓病モデルとその組織学的評価法は確立できたが、実験動物用高磁場MRIを用いた共同研究先の選定に難渋しており、未だ見通しが暗い。 【上記を受けて、代替計画として遂行した内容】・当初の予定通り稼働しはじめた3テスラの高磁場MRIを用いて、ヒトを対象にした機能的MRIの撮像計画を大幅に前倒しし、平成24年度半ばからボランティアを用いた撮像条件の検討を開始した。また、結果の公表の為に病院IRBへの計画書の提出を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、DWIのADC(apparent diffusion coefficient)値、BOLD MRIのT2*値が線維化と虚血の指標である事から、①低酸素、②線維化、③炎症それぞれの組織学的マーカーとの相関を重回帰分析で検討する事で、生検無しに腎臓の状態を評価する試みであった。また、多くの既報では、これらの組織学的指標は腎予後に関連するとされており、MRIのADC値、T2*値も腎機能予後に関連する可能性が高いと予想していた。しかし、現在までのところ双方には有意な相関が認められない。また、MRI計測値の意味づけを動物実験で行う試みも、動物用MRIの使用の目処が立たず頓挫している。 確かに、組織学的な評価や蛋白尿などの臨床検査値も、腎機能予後の良・不良との相関は有意であるとしても、定量的な評価(腎機能悪化の速度の算出など)は困難であるので、MRIがその時点での腎虚血や線維化を正確に評価できても、それだけでは腎機能予後の定量的評価は困難である可能性がある。しかし、この問題点を解決しなければ創薬への応用は望めず、従来の腎生検や蛋白尿を指標とした予後予測との比較に於いて、機能的MRIの優位性が確立出来ない。そこで2つの方策を立てた。 ・一定期間で2回以上のMRIを撮像し計測値の差違(ΔADC、ΔT2*)で検討する。 ・3テスラMRIを用いて計測値を増やす。具体的には皮質髄質コントラスト、DWIのADC値、BOLD MRIのT2*値に加えて、DTIのFA(fractional anisotropy)値、ASLで計測される血液灌流量の計5種類のパラメータで評価する。FA値は異方性拡散の指標であり、尿細管や細血管の微細構造に関連すると考えられており、ASLは単位体積あたりの血液灌流量を評価すると考えられている。 組織学的検討に加え、MRIに関しても上記の方針で更なる評価を試みる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・取り扱うデータの増加に対応するためにDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)データ処理の為のコンピュータ、画像計測ソフト、統計処理ソフトの刷新 ・組織学的検討は引き続き必要な為、各種消耗品の継続的な購入(薄切費用、1・2次抗体、抗原賦活剤、発色基質、封入剤やピペット、チューブ、バッファーに至るディスポーザブル機材等含む) ・当初、尿検体のELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)や定量的PCR( polymerase chain reaction)に研究費を充てる予定であったが、同実験に関しては必要性に関して慎重に再検討を行う ・成果の発表に際して、英文校正等
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