2011 Fiscal Year Research-status Report
乳がん間質相互作用における線維芽細胞のER活性化に着目した新規治療標的の探索
Project/Area Number |
23791510
|
Research Institution | Research Institute for Clinical Oncology, Saitama Cancer Center |
Principal Investigator |
須田 哲司 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), その他部局等, 研究員 (40423347)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 癌間質線維芽細胞 / 乳癌 / 微少環境 |
Research Abstract |
腫瘍細胞の増殖や転移は、癌間質線維芽細胞(CAF)との相互作用に起因する。しかし、その作用機序は複合的で、多くが不明のままである。本研究は、CAFのエストロゲン受容体(ER)活性化能を指標として、症例毎の間質細胞の性質を明らかにし、腫瘍細胞の増殖に関わる因子の同定を目的としている。CAFの性質の異なる原因として、geneticおよびgenomicな異常の可能性がある。乳癌のCAFでは癌抑制遺伝子TP53とPTENの変異が高頻度に報告されている。さらに、RB1欠損腫瘍細胞がCAFのTP53変異を誘導することも報告されている。このことから、ERの活性化や増殖因子の産生にCAF自体の不安定化の関与が考えられる。しかし、CAFの遺伝子異常はごく希な現象という報告もあり、大きな課題となっている。そこで、乳癌患者組織からCAFのみを選択培養し、癌抑制遺伝子の遺伝子変異の有無とLOHの有無を解析し、ER活性化および臨床病理学的所見との関連性を検討した。種々のER活性化能を示す20検体のCAFについてTP53およびPTEN遺伝子変異の有無をPCRダイレクトシークエンスにより解析した。LOHの有無は定量PCRを利用したCopy Number Assaysにより解析したが、全てのCAFで遺伝子異常は認められなかった。さらに、組織型や閉経の有無等、臨床病理学的因子との関連性も解析したが、優位な差は認められなかった。これらの結果、これまでの報告とは異なり、癌間質相互作用にCAFの癌抑制遺伝子の不活化が関与する頻度は低く、ER活性化能はこれらの遺伝子とは独立して機能することが明らかとなった。これらの結果はERシグナル経路を標的とする治療薬の開発や乳癌患者の個別化医療を促進するために必要なCAFによるERの活性化について有用な情報となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の実施を計画したCAFのGeneticおよびGenomicな異常の解析については、既に十分な結果が得られ、解析を終了した。解析結果については現在投稿中であり、一定の評価が出来ると思われる。CAFによるエストロゲン受容体活性化能の測定については、多くの検体において活性化能を明らかにし、既に次年度の計画を前倒して進行している。しかし、CAFの中には細胞の増殖が遅いものもあり、提供頂いた腫瘍組織から単離したCAF全てで測定が完了しているわけではない。エストロゲン活性化能を含むCAFの性質の違いと腫瘍形成能との関連性の解析については、既にマウス皮下移植のための予備的検討を終了した。現在、ER活性化能が明らかとなり、移植に必要な細胞数に達したCAFから順次マウスへの移植実験を行っているが、腫瘍形成能の違い等統計的に必要な母数には達しておらず、必達事項である。
|
Strategy for Future Research Activity |
癌細胞のER活性化の違いは、CAFが産生するエストロゲンを含む液性因子によると考えられるが、その詳細は明らかになっていない。そこで、ER活性化能の異なるCAFが産生する液性因子を、サイトカイン・増殖因子アレイ解析により同定する。これによりエストロゲン依存的・非依存的な増殖刺激が明らかとなり、現在進行中のマウス皮下移植腫瘍における解析の候補とする。癌細胞と患者由来CAFとの相互作用に関わる因子を明らかにするため、乳癌細胞株とER活性化能の異なるCAFとを混合した状態でマウスに移植し、xenograftを作成している。得られた組織切片を用いて免疫組織化学染色を行い、各種増殖因子の発現強度と局在の検討を行う。これにより、エストロゲンを介する増殖刺激とエストロゲン非依存的なその他のパスウェイを介する増殖刺激とを明らかにし、そのシグナルカスケードに対する阻害効果について検討する。これらの解析から、腫瘍の増殖に関与しているシグナルカスケードを明らかにし、診断補助となり得るマーカー候補と治療標的となり得る分子を絞り込む。RB1欠損マウスの報告で示された、間質のTP53変異に続いて腫瘍細胞の変異が生じる現象は、間質細胞による上皮間葉移行/間葉上皮移行(EMT/MET)の誘導の可能性がある。CAFに生じる遺伝子変異が、腫瘍細胞のEMTによる可能性を検討する計画については、CAFに遺伝子異常が認められず、変更が必要となる。乳癌細胞の浸潤や遊走には間質細胞のTGF-betaによる誘導が中心的に作用していると考えられている。そこで、CAFにおけるTGF-betaについて、マウス皮下腫瘍の免疫組織学的解析およびCAFにおけるTGF-beta強制発現による腫瘍細胞の間葉化の誘導等、関連性の解析を計画している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の使用を予定していた旅費、動物実験消耗品、分子生物学試薬の一部を研究機関研究費から支出した。更に、CAFの性質の解析と動物実験は当初の計画より若干遅れ、年度内に解析を終了出来なかったため、次年度使用研究費が生じた。23年度の研究結果については現在投稿しており、新たに印刷費研究成果投稿料が必要となる。パラフィン切片を用いた免疫組織化学染色の抗原賦活用にPascal抗原賦活用プレッシャーチャンバーの購入を計画しているが、凍結切片を用いた組織染色において良好な結果が得られた場合、プレッシャーチャンバーの購入を中止し、凍結切片の染色に適した抗体の購入へと変更することを検討している。現在継続中のCAFの性質の解析と動物実験の解析に、引き続き分子生物学試薬および動物実験消耗品を購入する。CAFが産生する液性因子の解析にサイトカインアレイ等分子生物学試薬・消耗品のほか細胞培養に必要な消耗品等の購入を計画している。また、その液性因子によって活性化される癌細胞のシグナル経路の解析にも分子生物学試薬・消耗品のほか細胞培養に必要な消耗品等が必要になる。
|
Research Products
(1 results)