2011 Fiscal Year Research-status Report
TFF1をターゲットとした胃癌腹膜播種の分子標的治療に向けた基礎的研究
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23791548
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
中村 淳 佐賀大学, 医学部, 助教 (60404175)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | TFF1 / 胃癌 / 低酸素 / DNAメチル化 |
Research Abstract |
研究代表者は、低酸素環境において胃癌腹膜播種に関わる遺伝子群を抽出すべく、HIF-1α欠失胃癌細胞を用いて、HIF-1α依存的に低酸素誘導を受ける遺伝子を複数抽出した。その中で特にTFF1に着目し、胃癌におけるTFF1の発現意義を検討した。 胃癌切除標本185例を用い、TFF1の免疫組織学的発現と臨床病理学的因子・生存期間との関係について解析した。研究開始当初、TFF1は胃癌の予後不良因子であることを予想していたが、結果はその逆で、TFF1低発現例で有意に生存期間が短く、また病理学的深達度(T因子)も深いことが明らかとなった。 過去の文献によると、TFF1ノックアウトマウスは胃腫瘍を発生することから、TFF1の癌抑制遺伝子としての機能が推測されているが、その後、これを支持する研究は進んでいない。上記の結果は、この基礎研究を支持する非常に重要な結果であると考える。 そこで、代表者が次に着目したのは、TFF1の発現調節機序である。癌抑制遺伝子の多くはDNAメチル化によりサイレンシングを受けており、TFF1のプロモーター領域にも複数のCpG配列が存在しているが、メチル化による制御は明らかにされていない。まず、胃癌細胞株6種を用いてバイサルファイトシーケンス法により、プロモーター領域のメチル化状況を解析したところ、メチル化の程度はmRNAの発現と逆相関していることが判明した。続いて、切除標本でも同様の解析を行なったところ、細胞株とほぼ同様の結果が得られ、とくに低酸素応答領域(HRE)におけるCpGメチル化が発現と強く関係していた。この結果は、TFF1が低酸素とDNAメチル化の双方により制御されていることを示唆するものである。 低酸素によって制御される遺伝子が、癌の進展に対して抑制的に働いているという結果は、これまでに報告のない新知見であり、非常に価値が高いと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予想とは結果が異なっており、それに伴って方向性も変更せざるを得なかったが、研究の進捗状況としては、概ね順調と考えている。 平成23年度の目標に掲げていた、「TFF1の胃癌における発現意義の究明」、さらに「臨床病理学的因子・患者予後との関連についての検討」については、ほぼ達成されたと考えており、さらにその発現調節にまで研究を進めることができた。しかしながら、結果が予想と反していたため、平成24年度の目標に挙げている、「TFF1を標的とした分子標的治療の開発」と「腹水中TFF1測定による腹膜播種再発の予想」については、現時点では達成困難と考えている。 従って、平成24年度については、予定を変更して追加実験を行い、その結果を加えて論文を作成する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究結果で、TFF1低発現例は、胃癌の深達度(T因子)が深く、予後不良であることが明らかとなった。今後の方針としては、当初の予定とは異なるが、まずは、TFF1ノックダウン細胞(すでに実験系は23年度に確立済)を用いて、in vitroでの浸潤能および増殖能について検討を行い、免疫染色での結果を確認したいと考えている。さらに、同細胞をヌードマウスの胃に同所性移植を行い(本実験系も23年度に確立済)、マウスの生存期間を比較検討したいと考えている。 ここまでで、「胃癌におけるTFF1発現意義と発現調節機構」という内容で論文作成の予定である。 さらに、同じ実験系で結腸直腸癌での検討を行いたいと考えている。平成23年度のうちに予備実験は開始しており、これまでに50例の結腸直腸癌でTFF1のmRNA発現と生存期間についての解析を終了し、胃癌と同様の結果を得ている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
胃癌については、TFF1のノックダウンのための、siRNAのデザインおよび作成費、さらにin vitroでの浸潤能・増殖能の実験に、マトリゲル、MTT assay用のdyeの購入が必要である。また、ヌードマウスの実験におけるマウスの購入費用などが必要である。加えて、研究成果の報告のための学会参加費用、論文作成費用などに研究費を当てたいと、考えている。 結腸直腸癌についても同様の実験を開始しているので、細胞培養のための液体培地やFBS、real time RT-PCRのキット、TFF1の抗体、免疫組織染色のキットなども、本研究費のなかから購入を考えている。
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Research Products
(4 results)