2011 Fiscal Year Research-status Report
次世代シークエンサーによるグリオーマLOH領域の網羅的解析
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23791608
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
秦 暢宏 九州大学, 大学病院, 助教 (10596034)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | glioma / IDH1 / LOH / chromosome 10 / 1p/19q LOH |
Research Abstract |
2002年から現在までに、当院で手術を施行したグリオーマ患者の腫瘍検体からDNAを抽出した。内訳は、diffuse astrocytoma 23例(再発例7例を含む)、anaplastic astrocytoma 25例(再発例6例を含む)、oligodendroglioma 17例(再発例5例を含む)、anaplastic oligodendroglioma 29例(再発例15例を含む) 、oligoastrocytoma 4例、anaplastic oligoastrocytoma 5例(再発例2例を含む) 、primary glioblastoma 88例(再発例11例を含む)、secondary glioblastoma 19例、gliosarcoma 4例である。各々のDNAに対して、LOH解析およびIDH1,2などの遺伝子変異をシークエンス解析した。LOH解析においては、glioblastomaの多数例で10番染色体のLOHが認められる一方で、low grade gliomaでは頻度が低く、oligodendroglioma系では主に1p/19q LOHが認められた。IDH1/2の変異は、逆にprimary glioblastomaでは3例のみに認められる一方で、low grade gliomaでは60-80%程度と高頻度に認められた。これらの結果から、抽出したDNAは次世代シークエンサーによる解析に用いることが可能なクオリティーを有すると判断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、解析対象として腫瘍組織からのDNAが即利用可能な症例が200例以上得られている。これらの各症例では臨床所見、画像所見、および経過、また病理所見をデータベース化しているため、多変量解析を行うことが可能な状態となっている。また、上記のように各症例でLOH解析やIDHなどの主要な既知遺伝子異常の解析を進めており、またRNAの抽出を並行して行うことで、グリオーマと関連が深い遺伝子群に対してmRNAやmicro RNAの発現解析のデータも並行して蓄積してきている。これらの所見と、次世代シークエンス解析の結果を照らし合わせることで、より有意義な発見に繋がることが期待できると考えている。また、いくつかの症例については、cell line化が達成されたものもあるため、これらの症例ではcell lineからのDNAを対象とすることで、より正確なシークエンス解析を得られると考えている。グリオーマのアニマルモデルの確立においては、現在汎用されているグリオーマ培養細胞(U87など)を利用したモデルの確立は達成しており、前述したcell line化した腫瘍でもモデル確立が可能かどうかを模索しており、これらのモデルによる実験も可能となる前段階に到達している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、現時点で200例を超えるグリオーマ症例からの腫瘍組織DNAを抽出済みであり、次世代シークエンサー解析に用いることが可能な状態となっている。ただし、次世代シークエンサー解析は非常にコストが高いため、対象症例を限定して解析を行う必要があると考えている。また、実験計画時である2010年以降に、グリオーマに対する次世代シークエンサーによる網羅的な解析の報告が相次いでおり、有意義な新規研究を行うためには、解析対象を綿密に検討することが重要であると考えられる。現在、各症例の臨床所見、画像所見、および経過、また病理所見の詳細を検討し、LOH解析やIDH遺伝子変異の有無といったデータとも照らし合わせ、比較的少数例が対象であっても、有意義な新規所見を得ることが期待できるプロジェクトとなるような解析群(例として、小児例、早期再発例、10番染色体のLOHを欠くglioblastoma、など)を選択する方針である。その上で、次世代シークエンサー解析を行う方針としている。また、次世代シークエンス解析は最近、単純な全ゲノム配列の解析以外にも、エキソン配列のみを対象にするなどといったカスタム解析が可能になっているため、このような手法を応用して、より効率的な解析を行うことも併せて検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
記のように対象症例を決定した後に、次世代シークエンサーによる網羅的な解析を行う。ノイズなどを含んだ配列異常が多数見つかると想定されるため、従来型のダイレクトシークエンスによる確認実験を行う。ダイレクトシークエンスの段階では、解析症例数を増やすことがコスト的に可能である。200例以上の解析を行うことが可能なため、複数症例で再現性のある結果が得られたものを抽出することで、偶発的な変異を除外できると考えられる。これらのスクリーニングを経た遺伝子に対して、様々な因子との多変量解析に進む。個々の遺伝子変異やその組み合わせの、予後や臨床像との相関や治療反応性との関連を、統計学的に分析する。候補分子のグリオーマにおける作用を確認するために、in vitroとin vivoの実験系で検証する。各遺伝子を組み込んだベクターもしくはsiRNAを作成して、遺伝子発現を制御する。miRNAに対しては、pre-miRNAやanti-miRNAを作成する。グリオーマ培養細胞で遺伝子(or miRNA)発現を制御し、増殖能や浸潤能の変化を観察する。各操作を行った培養細胞からRNAを抽出して、マイクロアレイで遺伝子発現プロファイルを解析し、影響を受けるシグナル伝達系を同定する。In vivo の実験としては、遺伝子やmiRNAを制御したグリオーマ培養細胞もしくは腫瘍幹細胞を免疫不全マウスの脳内に移植し、腫瘍形態や生存期間の変化を評価する。これらの実験を通じて、真にグリオーマと関連の深い新規遺伝子の発見を目指す方針である。
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