2011 Fiscal Year Research-status Report
人工呼吸管理中の肺保護におけるGABA受容体の役割
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23791700
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
杉山 陽子 岐阜大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70444255)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 気道上皮 / ムチン / シグナル伝達 / 鎮静薬 |
Research Abstract |
培養気道上皮細胞のNCI-H292細胞を継代培養して実験に用いた。気道免疫のfirst stepとなる気道粘液(ムチン)産生において、人工呼吸管理中に臨床で通常用いる鎮静薬が何らかの影響を及ぼすかを検討した。トランスフォーミング成長因子α(TGFα)を用いてH292細胞を刺激すると濃度依存性に分泌型ムチンの一種であるMUC5ACの分泌が促進された。代表的鎮静薬であるミダゾラム、デクスメデトミジン、プロポフォール、ケタミンで前処置すると、ミダゾラムのみ濃度依存性にTGFα刺激によるMUC5AC産生を有意に抑制した。プロポフォールの前処置では濃度依存的にMUC5AC産生が増加する傾向にあったが統計学的有意差はなかった。ミダゾラムの作用がベンゾジアゼピン受容体を介したものか検討するために中枢性ベンゾジアゼピン受容体(CBR)拮抗薬であるフルマゼニルで前処置して実験を行ったがミダゾラムによるムチン産生抑制はブロックされなかったためCBRを介さない作用と推察された。一方、末梢性ベンゾジアゼピン受容体(PBR)のリガンドであるPK11195やほかのベンゾジアゼピン系鎮静薬であるジアゼパムでもミダゾラム同様の作用がみられ、ムチン産生抑制にはPBRの関与が示唆された。H292細胞にPBRが発現していることもウェスタンブロット法で証明した。GABA受容体拮抗薬も用いたがGABA受容体の関与は否定的であった。気道上皮におけるムチン産生は細菌や異物などの気道への侵入を防ぐ重要な役割を持っている一方で喘息など慢性呼吸疾患ではムチン過剰産生が病状悪化の主因とされている。鎮静薬によるムチン産生の修飾作用とその機序を解明することは人工呼吸中の肺保護に新たな知見をもたらすと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のごとく得られた研究結果をアメリカ麻酔科学会で発表できた。 さらにミダゾラムはじめベンゾジアゼピン系鎮静薬によるムチン産生抑制の機序を解明するために、TGFα刺激によるムチン産生の代表的細胞内シグナルであるp42/44 MAPキナーゼの活性化やp38キナーゼ、Akt、STAT3の活性化についてウェスタンブロット法を用いて検討したが、いずれもミダゾラムによるシグナル抑制はなく、さらに細胞内カルシウム濃度の上昇も蛍光測定法を用いて測定したがミダゾラムの抑制作用はみられなかった。 末梢性ベンゾジアゼピン受容体は細胞内ミトコンドリア外膜におもに発現していることから、ミトコンドリア機能抑制によるアポトーシスによりムチン産生が抑制されているのか検討するために細胞生存率やカスパーゼ9の活性化も測定したがとくに変化無く、機序解明にいたらなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ミダゾラムによるムチン産生抑制機序を探るため、上記で検討した細胞内シグナルのさらに下流である、MUC5AC産生に関与する転写因子の調節に変化がないかを転写因子ELISA法やリポーターアッセイを用いて検討する。 さらにヒト正常気道上皮細胞を培養して同じような結果が得られるかを確認する。また、TGFαの刺激だけでなく、喘息などアレルギー性呼吸障害患者の気道で上昇しているインターロイキン13や、煙草けむりの抽出液(慢性閉塞性呼吸障害患者の多くが喫煙者であり、そのような症例の人工呼吸中の呼吸合併症が多いため)で刺激したときのムチンの産生に鎮静薬やGABA作動薬が影響するかを検討する。 ラットを麻酔下に気管切開してさまざまな時間で人工呼吸器に接続した後に固定し、MUC5ACをはじめとした気道分泌物や炎症性サイトカインの気道上皮での産生と、鎮静薬やGABA作動薬による影響を検討する。喫煙モデルや喘息モデルでのラットでも同様の研究を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現時点でも使用している細胞培養試薬、および新たに転写因子調節機構解明のためのELISAキット、抗体の購入、ヒト正常気道上皮細胞購入および培養に要する経費に使用する予定。 さらにラット購入費および飼育費用、ラットの固定薬や気管、肺摘出に使用する道具類、免疫染色のための各試薬の購入に使用する。 国際学会および国内学会での発表のための旅費、参加費、研究論文投稿のための費用としても使用の予定。
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Research Products
(1 results)