2011 Fiscal Year Research-status Report
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23791742
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
巣山 貴仁 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60400925)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 腎細胞癌 / 新規バイオマーカー |
Research Abstract |
腎癌新規バイオマーカー探索として、Cancer-Testis Antigen(CTA)に着目し研究を開始した。腎癌細胞株を用いる予定であったが、正常腎細胞株が入手し難く、腎癌の臨床検体を用いてCTAのマイクロアレイを実施した。幾つかのCTAの癌部での上昇を認めたが、検体による差が大きく、特に正常腎細胞間でのCTA発現差が大きく、比較がやや難しい状況であった。その過程で、腎癌腫瘍部組織で安定して発現が上昇している分子が同定され、今回は腎癌新規バイオマーカーの探索であることから、CTAではないもののその分子について検討を行う方向にシフトした。その分子はCXCR3という膜タンパクであり、複数のケモカインのレセプターとなり、いくつかの癌ではその機能が腫瘍の進展に重要であることが示されている。当科で採取した腎癌の臨床検体を用いた検討で、CXCR3およびそのリガンドが、腎癌腫瘍部において発現が上昇していることが示された。また、転移を有する症例においてはCXCR3の発現が更に高い傾向が見られた。また、腎癌において重要であるHypoxia Inducible Factor 1αの発現とも相関がみられ、腫瘍の進行について重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、この分子、およびそのリガンドについて、臨床的には、原発巣、転移巣での発現の違い、また腎癌治療中のリガンドの発現の変化が病勢を反映するかについて検討を行っている。また、In vitroでCXCR3が腎癌細胞株で発現指していることを確認し、そのリガンドを作用させることによる癌細胞の増殖能、浸潤能の変化について検討を行い、リガンドが癌細胞の増殖を促進し、遊走能を増強することが示された。しかしながら腎細胞がん細胞株での発現はそれほど高くはないため、CXCR3をover expressionさせた系でさらに機能の解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進行がやや遅れた理由については、海外の機関にてマイクロアレイを施行したが、その際の検体の輸送に考えていた以上の時間がとられたこと、また、臨床検体から採取されたRNAの質が均一ではなく、輸送の過程でやや変性したものが含まれるなどして、マイクロアレイを開始するまでに何度も検体のやり取りをする必要が生じ、想定していたよりも時間を要した点が挙げられる。また、予想外であったのは、正常腎においてCTAの発現の個体差が大きかったことである、CTAは正常組織では発現していないという前提であったが、実際に調べてみると正常組織でも多くのCTAが発現していた。マイクロアレイでの評価は正常腎を対照とした相対評価となるため、いくつかのCTAを検討対象の候補に挙げたものの、やはり症例間での発現の差が大きく、評価検討に難しさを伴っていた。その結果を受け、CTAではないものの、正常腎部で発現が低く、癌部で発現が上昇しているCXCR3に着目することに方向転換した。このCXCR3についてはほとんどの臨床検体で癌/正常部を比較すると腫瘍部で発現が有意に上昇しており、またそのリガンドも同様であり、新規バイオマーカーという点では非常に有用であると考えられた。この機能解析については比較的順調に進んでいる。想定外の結果としては、正常部と比較すれば、発現の程度が大きいが、絶対値としてはそれほど発現量が多いわけではなく、通常の細胞株の状態では機能評価が十分に行えない可能性があることである。当初は機能解析についてはsiRNAによるノックダウンを考えていたが、逆にover expressionの系が検討には適しているようである。今後、In vitro、In vivoでの機能解析、特に細胞増殖と、転移能について検討を行う予定である。臨床検体を用いた発現検討、各種臨床情報との相関関係の検討などは比較的順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
腎細胞癌の新規バイオマーカーとしてCXCR3、およびそのリガンドの発現についてをメインに研究を進める予定である。理由としてはCTAが腎正常部でも発現していることが分かったため、最適なバイオマーカーとしての機能を期待するのは難しい可能性のあること、また、症例ごとの発現の違いが大きすぎ、腎癌のバイオマーカーとしては普遍性の面で問題のある可能性が残ると判断した。しかし、いくつかのCTAを組み合わせることでその問題はクリアーできる可能性もあり、また、いくつかのCTAは文献検索上機能について腫瘍の進行について重要である可能もあり、今後全く検討を行わないとするには惜しいとも判断している。ひとまず、今後はより腫瘍マーカーとして有望であろうCXCR3について検討を行うこととした。腎癌細胞株でCXCR3の過剰発現株を作成し、その機能解析を行う予定である。In vitroではもちろん、In vivoでも検討を行う予定で、書類の準備など進行中である。一方で臨床的な検討も重要であると考えており、腎癌原発巣でのCXCR3の発現をより症例数を増やし検討するとともに、転移巣でのCXCR3の発現について、とくに肺転移の手術検体を用いて検討する予定である。また発現の程度と臨床情報について統計学的解析を行う予定であるが、その際に用いる統計ソフトを1セット購入予定である。また、平成23年度にELISA法にて患者血清からCXCR3のリガンドを測定できることを確かめている。また手術検体を用いて、CXCR3の発現とリガンドの発現が強く相関することを確認しており、腎癌治療中の患者血清をもちいて、CXCR3のリガンドの発現が有用な腫瘍マーカー、あるいは病勢を反映するものになりうるか否かの検討を始めているが、これを継続し、さらに症例数を増やしていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度に統計ソフトを購入予定であったが、諸般の事情で購入しなかった。今年度からは分子の発現と臨床情報との相関を検討する必要があり、多変量解析が必要になってくるため、統計ソフトを購入する。8万円程度のものの購入を予定している。申請当初は国際学会での発表をこの年度に予定していたが、やや方向修正したため、国際発表に十分な段階まで研究が進んでいないため、今年度中は国際学会への参加は現時点では難しいと考えている。国内の学会での発表はいくつか考えており、研究の進行の程度により、冬以降の学会発表を計画している。また、論文校正のための予算も申請していたが、同様の理由で、今年度の論文化はやや難しいと考えている。もちろん効率的な実験を行い、可及的速やかに論文発表も行いたいと考えているが、早くまとめることよりも内容の充実を図りたいと考えている。結果として海外旅費、謝礼に充てる予定であった部分を消耗品費に充てる予定である。具体的にはIn vitroでの細胞株の維持にかかる費用、Over expressionにかかる費用、分子の機能解析(増殖能、遊走能、浸潤能)、および細胞シグナル伝達解析で使用する消耗品の費用、臨床検体からRNAを抽出し、Real time PCRを行うための消耗品の費用、免疫染色にかかる費用、患者血清を用いたELISAにかかる費用などを考えている。またIn vivoの実験を開始する予定であり、マウスの飼育、維持にかかる費用、などが必要となると考えている。
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