2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23791742
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
巣山 貴仁 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60400925)
|
Keywords | 腎細胞癌 / 新規バイオマーカー |
Research Abstract |
腎細胞癌新規バイオマーカーの探索として、成人では癌部と精巣のみに発現している癌精巣抗体(Cancer-Testis Antigen、CTA)に着目して検討を開始した。CTAのマイクロアレイを行うものの、癌部、腎正常部での多様性が強く、良い候補遺伝子を見つけるのに難渋した。その中で、精巣で発現しており、精細胞の分化に重要とされているCXCR3の発現が腎細胞癌で上昇していることに着目した。CXCR3は免疫細胞などでも発現しているが、腎臓においては正常部での発現が極めて低い一方で、腫瘍部では発現が増強しており、CTAの定義を満たしており、新規バイオマーカーの候補として有望であると考えられた。 まず、臨床検体、腎癌細胞株を用いて、CXCR3の発現を検討したところ、手術時に転移を有する症例においてCXCR3の発現が有意に上昇していることが示された。CXCR3が癌細胞の浸潤、転移に関係していることが考えられたため、細胞株を用いて機能解析実験を行った。CXCR3を発現している腎癌細胞株にそのリガンドであるCXCL10を作用させることで、細胞の遊走能、浸潤能が増強することが確認された。その現象はCXCR3の中和抗体を用いることで抑制された。また、腎癌細胞株にCXCL10を作用させることで、細胞の移動に関係しているRhoAの発現が上昇すること、浸潤に関係しているMMP9の発現も増強することが確認された。 次にCXCR3の発現を調整する因子の検討に移った。CXCR3は淡明細胞癌に特徴的なことから、VHLの変異と低酸素状態が重要であると推論し、低酸素下での検討を行った。 低酸素状態を模した、塩化コバルトを用いた検討で、VHL蛋白の発現のない腎癌細胞において、CXCR3の発現が増強するが、正常VHL蛋白を発現している腎癌細胞株では発現は誘導されないことが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
腎細胞癌の新規バイオマーカーとなりうるCTAを見つけたこと、またその機能が明らかになってきている点では研究は順調に進んでいると判断している。当初はCTAアレイの結果から候補CTAを選び出し、絞り込む予定であり、その過程で腎癌に特徴的なCTA発現Signatureを検討する予定であった。その方向では実験は進まなかったが、1分子でより強力なマーカーとなり、機能を有するCTAを見つけることができたのは大きな成果であった。また、CXCR3が腎癌で発現が上昇しており、さらに、重要な機能を有していることが明らかになったことは、本研究、および、腎癌の新規バイオマーカー探索にとり、非常に重要であると考えている。 実験の経過でCXCR3のノックダウンがうまくいかないという難局はあったが、これに関しては中和抗体を用いることで解決をすることができた。それにより、in vitroでの実験は予定していた通り進行し、CXCR3の腎細胞癌における役割の一部が明らかになりつつある。また、当初は解明が困難である可能性を予想していた、CXCR3の発現を調整する因子についての検討を始められた点も大きいと考えている。低酸素状態が、どのように癌に作用し、その遊走、浸潤能を増強させるかの一端が示せたと考えている。 しかし一方で、CXCR3を腎細胞癌で強発現させる実験にはきわめて難渋している。細胞株を変えたり、様々な条件を試したりしているが、CXCR3を腎癌細胞株に安定的に導入した安定発現株が作成できていない。これがないと、in vivoの実験ができないが、残りの研究期間内では達成は困難である可能性が高い。 また、昨年計画していた、転移巣におけるCXCR3の発現に関しては、パラフィンブロックを用いて免疫染色を行ったが、どれも発現が強く、発現量の定量が難しい。今回の研究では転移巣での発現については示すのは難しい可能性がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度予定していた、機能解析に関しては概ね終了したと考えている。最後の詰めとして、細胞免疫染色を行う予定である。細胞骨格に関係した分子をin vitroで染色し、その変化について、顕微鏡下に観察を行う予定である。また、腎癌細胞株にCXCL10を作用させたものとそうでないものに関して、マイクロアレイを行い、どのような遺伝子の発現が動いているか検討を行っているところであり、そこで挙がった有望な遺伝子に関しては機能解析を追加すること予定している。 また、低酸素状態がCXCR3の発現を誘導する件に関してはさらに検討を行う予定である。 これに関しては低酸素状態で誘導されるHIF1αが重要であると考えており、HIF1αをノックダウンした状態で、塩化コバルト処理をし、CXCR3の発現がどうなるのか検討を行う予定である。 昨年度予定していたヒトの血清を用いた検討であるが、こちらもある程度の症例数について測定し、検討を行っている。治療効果、あるいは生体内における癌の状態をモニターするマーカーとなる可能性はあると考えているが、そのためにはさらに多くの症例で検討することが必要であり、症例数を集めるなどの時間的な制約があることから、今研究期間中に十分な症例が集まるか否か、微妙な情勢である。こちらに関しては、将来にわたって、引き続き検討を行う必要があるかもしれない。 強発現株の作成がうまくいかないことから、マウスを用いたin vivoの検討は今研究期間中は保留とし、その代わりにヒトの手術検体を用いてmRNA、蛋白の発現を解析することにより、生体内で起きている現象を解明する方針に変更することを考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度では国内学会での発表を行ったが、平成25年度は国際学会での発表を考えている。そのための予算を計上する。また、現時点で論文作成にも取り掛かりつつある。論文校正のためにも予算を使用する予定である。論文は、細胞株を用いた実験と、血清を用いた検討とを分けることを考えており、期間内に十分な血清サンプルを集めることができれば、論文を2報作成する。そのための英文校正費が必要となる。結果として海外旅費、謝礼に充てる費用がある程度大きくなる予定である。 細胞株を用いた、CXCR3の機能解析に費やす費用は平成25年度は少なくなる予定であるが、まだ全ての検討が終了したわけではないため、こちらにもある程度の費用が掛かる。免疫染色のための抗体や、PCR、細胞培養の消耗品、試薬類の費用を考えている。In vivoの実験を行うことが困難となったため、マウスの飼育、維持にかかる費用が不要となった。その分を、ヒトの手術検体を用いた、免疫染色などに充てる予定である。更には、CXCR3の低酸素状態における発現状態の検討に費用を割く予定である。そのために必要な、消耗品・試薬の費用、ノックダウンにかかる費用、抗体の費用などが必要である。 患者血清を用いた検討ではELISA kitを購入する費用が必要になる。
|
Research Products
(1 results)