2011 Fiscal Year Research-status Report
卵巣癌におけるモルフォゲンシグナルのシステム生物学的解析による治療開発
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23791834
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉岡 弓子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10402918)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 卵巣癌 / 細胞増殖調節 / シグナル阻害 / 治療ターゲット / システム生物学解析 / 国際情報交流 / イギリス |
Research Abstract |
ウェブ上で一般公開されているマイクロアレイデータセットGSE3149を用いて漿液性卵巣癌の組織片におけるBMPシグナリングの細胞内伝達物質であるSMAD5の発現を検討したところ、SMAD高発現のグループは低発現のグループと比較して有意に予後が不良であった。2002年から2008年に京都大学付属病院にて初回治療をおこなった36人の漿液性卵巣癌患者の標本を用いて、BMPシグナル活性化の細胞内指標であるリン酸化SMAD5の免疫組織染色を行った。リン酸化SMAD5高発現のグループは低発現のグループと比較して、全生存率、無病生存率ともに有意に予後が不良であった。漿液性卵巣癌細胞株におけるBMPおよびそのレセプターの発現をmRNAにて検討したところ、いずれの細胞株も発現していた。漿液性卵巣癌細胞株にリコンビナントBMP2たんぱくを添加すると、SMAD5のリン酸化が亢進し核内へ移行することが確認された。このSMAD5のリン酸化はBMPシグナリング阻害剤であるDorsomorphinにより抑制された。またBMPたんぱく添加によりBMPシグナリングを活性化した卵巣癌細胞株では細胞増殖が促進され、SMAD5のsiRNAによるノックダウンおよびDorsomorphinにより増殖が抑制された。BMPによる増殖亢進はG1/S期移行の亢進によるものであった。免疫不全マウスに漿液性卵巣癌細胞株を皮下投与して腫瘍を形成させ、BMPあるいはDorsomorphinを投与し腫瘍の増大を観察したところ、BMPは腫瘍増大を促進させ、Dorsomorphinは抑制した。またこの腫瘍を摘出して免疫染色を行ったところ、Dorsomorphi投与群ではリン酸化SMAD5が高発現し、また増殖活性を示すKI67の発現も亢進していた。以上よりBMPシグナリングは卵巣癌の予後に関与しており治療ターゲットとなりうることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
卵巣癌細胞株におけるBMP,BMPレセプターの発現について検討し確認した。卵巣癌細胞株のBMPシグナリングによる増殖能の変化を検討し確認した。BMPによる上皮間葉移行については、現在その発現形の変化について実験中である。BMPによる腫瘍内、腫瘍近傍の免疫細胞に与える影響については、マイクロアレイデータセットを用いて解析した。その結果、BMPシグナリングの細胞内伝達物質であるSMAD5と免疫細胞の表面マーカーとに明らかな相関を認めなかったため、以降の実験については現在検討中である。計画書提出当時は予定してなかったが、卵巣癌患者の臨床検体におけるリン酸化SMAD5の発現が予後に影響することを免疫組織染色にて示した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度で得られた実験結果より数理モデルを構築し、卵巣癌におけるBMPシグナルの機能制御を解析する。これにより卵巣癌の進展、浸潤、転移の鍵となる分子を予測する。予測された分子をレトロウイルスによる強制発現細胞、抗体、阻害剤、siRNA、ノックアウトマウス等を用いて亢進あるいは抑制し、卵巣癌に対する機能を解析する。同様に卵巣癌組織内の腫瘍浸潤免疫細胞について数理モデルを構築し、抗腫瘍免疫に働くシグナルを予測する。Epithelial-Mesenchymal Transition (EMT;上皮間葉移行) は上皮細胞が間葉系様細胞に形態変化する現象であり、癌細胞の浸潤、転移との関連が示唆されているが、BMPはその誘導因子の一つと言われている。BMP添加あるいはシグナル阻害によりEMTに与える影響を検討する。また、癌の浸潤部位の周囲にリンパ球が集合する様子は臨床検体にてよく見られる像であるが、EMTを起こした癌細胞に対する免疫細胞の作用を検討する。具体的にはEMT癌細胞の周囲に集まるリンパ球のphenotype(細胞障害性細胞なのか、免疫抑制系のリンパ球か)、EMT癌細胞によるリンパ球のphenotypeの変化、腫瘍が産生するBMPのリンパ球への作用について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
BMPは癌細胞のEMTにどのような影響をもたらすのか、卵巣癌細胞株にリコンビナントBMP蛋白を添加して培養し、その形態の変化、表面マーカーの変化、EMTに特異的とされる分子の解析をタイムラプス観察、リアルタイムPCR、免疫染色を用いたフローサイトメトリーにより解析する。さらに、EMTを起こした癌細胞と免疫細胞の関係を検討するためin vitroでの共培養をおこない、癌細胞および免疫細胞双方の形態の変化、表面マーカーの変化をタイムラプス観察、リアルタイムPCR、フローサイトメトリーにより解析する。In vitroでの結果を踏まえてマウスに卵巣癌細胞株を移植し、BMPを投与し、腫瘍の進展、浸潤、転移と腫瘍内の微小環境における免疫細胞の分布、種類、機能、活性についてフローサイトメトリー、免疫組織染色を用いて検討する。研究費を上記の実験を行うために抗体等試薬、免疫染色関連消耗品、各種キット、培養液、実験動物の購入に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)