Research Abstract |
当初,卵巣明細胞腺癌における新規癌抑制遺伝子ARID1Aの,遺伝子変異の詳細,臨床病理学的因子との関連,予後,抗癌剤感受性について検討を進めたが,その後の機能解析はクローニングの段階で非常に時間を要し困難であった。そこでARID1Aと並び卵巣明細胞腺癌で遺伝子変異がみられるPIK3CA(phosphoinositide-3-kinase)に着目し研究を進めた。PI3K/AKT系路はチロシンキナーゼ受容体を介した主要なシグナル伝達系の1つで,増殖,生存,浸潤といった細胞機能を調節する。癌においてこの系路はPIK3CA,AKT,PTENなどの癌遺伝子の変異で活性化する。PIK3CA変異は他癌種でも頻繁にみられ,この変異が卵巣明細胞腺癌の予後不良に関与するか調べるため臨床病理学的因子との相関について検討し,その後細胞株を用い機能解析を行った。 卵巣明細胞腺癌でPIK3CA変異は28.6%(16/56)にみられたが,卵巣漿液性腺癌では15例中1例もみられなかった。PIK3CA変異と臨床病理学的因子の検討では,54歳以下で有意に変異を認めたが,それ以外の因子(進行期、残存腫瘍の有無,子宮内膜症の有無など)で有意差は認めなかった。またPIK3CA変異群では,全生存期間が有意に延長した(p=0.0342)。 次に細胞株を用いた検討では,明細胞腺癌細胞株9株中3株,漿液性腺癌細胞株4株中1株にPIK3CA変異を認め,PI3Kの下流標的であるp-AKTとp-mTORの発現がみられた。PIK3CA変異とPI3K/AKT/mTOR系路の阻害剤の感受性に相関はなく、この系路は他のシグナルによっても活性化される可能性が示された。以上の事からPIK3CA変異は,卵巣明細胞腺癌において予後良好の指標となるが,PI3K/AKT/mTOR阻害剤の有効性を判断するバイオマーカーにはなり得ない事が示唆された。
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