2011 Fiscal Year Research-status Report
妊娠高血圧症候群および多胎妊娠時に併発する高尿酸血症の発症メカニズム解明
Project/Area Number |
23791852
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
木村 徹 杏林大学, 医学部, 助教 (30433725)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 尿酸 / 高尿酸血症 / 妊娠 / 妊娠高血圧症候群 / 多胎妊娠 |
Research Abstract |
妊娠高血圧症候群 (PIH)は、主として妊娠後期に見られる高血圧とタンパク尿を主とする疾患群の総称であるが、その発症時の多くに高尿酸血症を併発することが知られている。またPIHのような病的状態ではないが、多胎妊娠時においても母体血清尿酸値が上昇することが報告されている。そこで、妊娠高血圧症候群時や多胎妊娠時に併発する高尿酸血症発症のメカニズムの解明、および高尿酸血症がもたらす胎盤や胎児への影響を調べることを目的とし検討を行った。杏林大学医学部付属病院において帝王切開を受ける患者から、インフォームドコンセントを取得の上、母体血・臍帯血を採取した。その血清尿酸値の測定を行った。これまで報告されているとおり、母体血中尿酸値は正常妊娠と比較して双胎妊娠およびPIHにおいて有意に上昇していた。また、臍帯血中尿酸値も比較した結果、双胎妊娠およびPIHにおいて有意に上昇していた。母体血清尿酸値と臍帯血清尿酸値を比較した結果、両者の血清尿酸値に大きな差は見られなかった。また、臍帯動脈血と臍帯静脈血を別々に採取し、その尿酸値を比較したところ、尿酸濃度に有意な差が見られなかった。以上の結果から、腎機能障害のない双胎妊娠において尿酸値が高値なことより、胎盤での尿酸もしくはその前駆体産生が母体の高尿酸に関与していることが推測される。 これに対し、PIHの急性増悪期において胎盤での尿酸もしくはその前駆体産生が亢進しているかどうかは不明である。また、臍帯動脈・静脈間の血清尿酸値に有意な差は認められず、胎児が大きな尿酸産生源ではないことが考えられる。さらに母体・臍帯間の血清尿酸値に有意な差は認められず、胎盤において母体・胎児間の尿酸輸送が積極的に行われていることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、(1) 血清中の尿酸、クレアチニン、プリン体、尿酸中間代謝体濃度の測定、(2) RT-PCRによる尿酸輸送体の検出、(3) 定量PCRによる尿酸輸送体mRNAの定量、までを行う予定であったが、完了しているのは(1)のみである。(2)、(3)に関しては、プライマーの作製やPCRの条件検討は行っているものの、解析に関してはあまり進んでいない。これは、臨床検体である血液と胎盤の採取に時間がかかっていること、および解析する尿酸トランスポーターの種類が多いため、PCRのプライマーや条件検討に時間をかけているからである。ただ、これと並行して、次年度に計画しているウエスタンブロットや蛍光免疫染色に使用する抗体の検討はすでに始めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、母体・胎児間の尿酸輸送が積極的に行われていることが示唆された。そこで今後はその尿酸輸送に焦点を当て検討を行っていく。(1)尿酸輸送体の検出 現在、尿酸輸送能を持つと報告されている輸送体としてGLUT9, NPT1, NPT4, OAT1, OAT3, OAT4, URAT1, OAT10, BCRP, MRP4の10種類が知られている。そこで、それぞれの輸送体の特異的プライマーを作製し、RT-PCR法によってどの輸送体のmRNAが胎盤に発現しているのか検討を行う。mRNAの発現が確認された尿酸トランスポーターに関して、定量PCR法を用いて比較定量を行う。また、ウエスタンブロット法によりタンパク質の比較定量も行う。さらにそれら尿酸トランスポーターの発現部位を同定するたため、蛍光免疫染色を用いた胎盤組織切片の染色を行う。(2)モデル細胞を用いた尿酸輸送の検討 胎盤由来の培養細胞として、ヒト絨毛がん細胞のBeWo細胞がある。そこで、この培養細胞をモデルとして、放射ラベルされた尿酸を用いてその輸送能の検討を行う。まず、胎盤組織において発現が確認された尿酸トランスポーターに関して、BeWo細胞での発現を確認する。必要に応じて尿酸トランスポーターの過剰発現やノックダウンにより、胎盤組織の発現条件に近づける。その後、放射ラベルされた尿酸の細胞内への取り込み、細胞外への尿酸排泄、およびトランスウェルを用いて尿酸の細胞上下間の輸送を測定する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究に必要となる、PCR、共焦点レーザー顕微鏡、細胞培養用インキュベーターなどの機器類は、すでに当研究室に設置されている。taqman PCRは、本学共同利用施設の機器が使用可能である。よって、研究経費で大きな割合を占めるものは、RNA調製, タンパク質調製, スライド標本作製, 細胞培養などに必要な一般試薬や、PCR酵素およびプライマーなどの分子生物学試薬、染色用の抗体および試薬、細胞培養などに必要なディスポ製品、スライドやメスシリンダーなどのガラス製品、放射ラベルされた尿酸などの消耗品となる。タンパク質検出にウエスタンブロッティング装置が必要不可欠であるため、購入を予定している。また、年3回の国内、年1回の国外への研究資料収集および研究成果発表を計画している。
|
Research Products
(1 results)