2011 Fiscal Year Research-status Report
胎盤血管内皮由来iPS細胞の樹立及び疾病モデル(ブタ)に対する治療戦略の創成
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23791863
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Research Institution | National Research Institute for Child Health and Development |
Principal Investigator |
牧野 初音 独立行政法人国立成育医療研究センター, 生殖・細胞医療研究部, 研究員 (90392498)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 胎盤細胞 / 胎盤血管内皮細胞 / 羊膜細胞 / iPS細胞 / 心筋細胞 / 細胞治療 / 再生医療 |
Research Abstract |
"細胞を獲得するために健常部の損傷や疼痛を伴うことがない"、"同一種類の細胞が大量に調整できる"、"患者の個人差をカバーできる複数の細胞株の樹立が見込まれる"、"患者の性別を問わない"、以上の項目を満たす細胞を探索する中、細胞供給源として胎児付属物に着目した。胎児付属物とは胎盤、羊膜、臍帯、臍帯血をさす。本年度新たにヒト胎盤細胞3種類・ヒト羊膜細胞2種類、ヒト胎盤血管内皮細胞6種類の樹立に成功した。 また、将来再生医療の一翼を担う人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立にも着手した。iPS細胞は体細胞に4遺伝子(OCT3/4・SOX2・KLF4・C-MYC)を組み込むことによって得られる細胞で、胚性幹細胞(ES細胞)と同様に未分化性、多分化能性、三胚葉を含む奇形種形成能を持つことが特徴である。iPS細胞樹立に際しても安全性の高い非侵襲的な細胞供給源が望ましいと考え、本研究ではiPS細胞の原料となる体細胞に、上記のヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞を用いて研究を遂行した。その結果、本年度はヒト羊膜細胞から2株、ヒト胎盤血管内皮細胞から2株のiPS細胞を樹立することに成功した。 自家移植・他家移植に向けた基準を定め、安全かつ倫理的に問題のない新しい治療システムの確立目的として、作製した細胞の品質評価を開始した。具体的には一部のヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞に対して網羅的遺伝子発現解析(Affimetrix社GeneChip)、細胞表面抗原解析、細胞形態変化、増殖能の評価を行った。また、一部のiPS細胞に対して、形態観察、アルカリフォスファターゼ陽性確認、細胞表面マーカー(SSEA-3/4, TRA-1-60/81)に対する免疫染色、未分化マーカー(OCT-3/4, SOX2, NANOG)の免疫染色、奇形種の形成(三胚葉分化)検定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書の研究計画・方法の項目において、研究計画は大きく、1)ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の樹立と特性解析、および目的細胞への分化誘導法の標準化、2)ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞に由来するiPS細胞株樹立と特性解析、および目的細胞への分化誘導法の標準化、3)1)と2)得られる細胞のヒトへの移植法の臨床的実現化、以上3つの柱からなる。研究期間の前半は1)と2)に関する研究を主体として推進する計画であり、詳細に言えば、平成23年度に実施する内容は(1)ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の樹立と(2)ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞に由来するiPS細胞株の樹立である。 平成23年度においては胎児付属物(胎盤、羊膜、臍帯)からヒト胎盤細胞は3種類、ヒト羊膜細胞は2株、ヒト胎盤血管内皮細胞は6株の樹立に成功し、またその一部であるヒト羊膜細胞から2株、ヒト胎盤血管内皮細胞から2株のiPS細胞を樹立することに成功した。 患者さまから胎児付属物をご提供いただく場合、これまでは培養細胞への感染のリスクを考慮して、帝王切開後に得られた胎児付属物を希望するようにしていたが、培養環境や試薬を検討し良好な環境を整えることができれば、年間の総検体数、および胎児付属物由来の細胞株数が飛躍的に多くなると考えられる。またそれに付随して、胎児付属物細胞に由来するiPS細胞の親株数も細胞株数も増加することが容易に推測できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト由来前駆細胞や組織幹細胞は自己の細胞を使用できるため倫理的な面からも臨床応用への理解が得られやすく、現段階では、再生医療・細胞移植の最適の対象になっている。前駆細胞や組織幹細胞は我々の体内に無数に存在しているが、現在利用されている細胞はその氷山の一角にすぎない。その理由の1つに、増殖・分化能力の高い細胞の生物医学研究が進められているが、前駆細胞や組織幹細胞の単離、増殖、分化などに関する細胞培養技術が確立されていないことが挙げられる。また、たとえ有用な細胞であっても、獲得するために健常部の損傷や疼痛を伴う場合は安全面や倫理面の問題から、研究目的に細胞を採取することが非常に難しいこともある。 細胞供給源として着目した胎児付属物(胎盤、羊膜、臍帯)由来の細胞は心不全・心筋梗塞の細胞治療のソースとして非常に有用であることがすでに報告されており、骨格筋の領域ではすでに前臨床研究が進められている。これは胎児付属物に成人組織を再生する能力をもつ幹細胞や前駆細胞が存在する可能性を強く示唆するものである。 研究代表者はこれまでに独自に確立したヒト幹細胞培養システムを利用して、ヒト難治性疾患の患者の組織や臓器に由来する約500種の手術検体を用いて、2000種以上もの初代培養細胞の樹立に成功しており、さらに再現性のある安定した細胞培養系も確立している。また上記の細胞を用いて、100種以上のヒトiPS細胞株の樹立にも成功している。 本研究の成果は研究代表者の熟練した技能が不可欠であり、今後も技術向上に向けて取り組むことが胎盤・羊膜・臍帯由来細胞株、および多分化能を持つ胎盤・羊膜・臍帯細胞由来iPS細胞株の自家移植・他家移植に向けた基準作り、作製したすべての細胞の品質評価を円滑に進めること、安全かつ倫理的に問題のない新しい治療システムの確立、すなわち今後の研究の推進につながると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度、本研究で期待される成果を得るためには、標的細胞である胎児付属物に存在している間葉系幹細胞を多くの検体から多量に調整することが重要となる。生体材料から目的の細胞を得るためには、コンタミの防止に最大限の注意を払う必要がある。無菌試験をパスした製品(培地、血清、抗生剤等)の購入、滅菌操作を徹底するためのディスポーサブル製品(トレー、ディッシュ、ピペット、遠心チューブ、グローブ、マスク等)の購入、細胞移植を行うための実験動物の購入、培養作業に従事する研究補助者への謝金が経費の主な内訳となることは、極めて妥当であると考える。 旅費については研究打ち合わせのための都内移動費と本研究遂行期間内に国内外で発表できるような成果を上げるため、学会参加のための旅費を申請する。 研究計画にも記載したように、平成24年度において、胎児付属物より樹立した細胞、およびそれらを用いて樹立したiPS細胞の特性解析を主軸に行うため、網羅的遺伝子発現解析(Affimetrix社GeneChip)、免疫染色や細胞表面抗原解析に用いる抗体、増殖、特定の遺伝子あるいはタンパク質の発現などから多角的な細胞プロファイリング解析、各解析に関する備品購入へ経費が多く発生することは研究を円滑に遂行する上で妥当と考える。
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Research Products
(3 results)
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[Book] 18. Generation of Induced Pluripotent Stem Cells from Human Amnion Cells. In "Human Embryonic and Induced Pluripotent Stem Cells : Lineage-Specific Differentiation Protocols"2012
Author(s)
Toyoda, M., Nagata, S., Makino, H., Akutsu, H., Tada, T., and Umezawa, A.
Total Pages
249-264
Publisher
Springer