2012 Fiscal Year Research-status Report
胎盤血管内皮由来iPS細胞の樹立及び疾病モデル(ブタ)に対する治療戦略の創成
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23791863
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牧野 初音 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 研究員 (90392498)
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Keywords | 胎盤細胞 / 胎盤血管内皮細胞 / 心筋分化 / 心筋細胞 / 細胞治療 / 心疾患 / 心筋梗塞 / 再生医療 |
Research Abstract |
幹細胞は多岐に渡る可能性を有し、再生医療や細胞移植の最適な対象として期待されている。その中でも間葉系幹細胞は再生医療という治療戦略の重要な一翼を担う。現在、骨格筋芽細胞、骨髄細胞、内皮前駆細胞による細胞移植が臨床試験中であるが、臨床的に十分な数の心筋細胞と血管の両者を再生する方法は確立されていない。このような背景の中、先行研究において、組織量が豊富でかつ非侵襲的に得られるヒトの胎盤および羊膜に由来する細胞株の樹立に成功し、それらの心筋細胞や血管細胞への高い分化能を持つ可能性を示してきた。 本年度は昨年度樹立したヒト胎盤血管内皮細胞を含むヒト胎盤細胞の特性解析を行った。新規胎盤細胞株および継代を重ねた細胞株の網羅的発現遺伝子プロファイリング解析ならびに免疫染色、および細胞表面抗原解析を行った結果、由来組織や継代数によって細胞の性質が異なることがあきらかになった。 本研究の最終目標はヒトの冠動脈疾患、虚血、肺高血圧、脳血管疾患、先天性心疾患患者の予防と治療であることから、その病態回復を効果的にサポートする細胞が必要と考え、網羅的発現遺伝子プロファイリング解析と細胞表面抗原解析結果を精査した。階層的クラスター分析を行った結果、胎盤血管内皮細胞を特徴付ける遺伝子として内皮細胞を規定する分子として知られているPECAM1と血管発達に寄与する内皮細胞由来分泌因子であるEGF様因子EGFFL7が導かれた。また、胎盤絨毛膜板細胞を特徴付ける遺伝子として心臓血管の恒常性の維持に主要な役割を担うNPPB(BNP)が導かれた。これまでの結果を熟慮したうえで心筋梗塞の病態回復において効果がより期待できるヒト胎盤細胞を選定し研究協力者から供与を受けた。 マウス心筋への細胞移植による生着、機能発揮、組織構築能に関する検討を行う次年度以降の研究を円滑に進めるための基礎データが得られたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は大きく、1)ヒト胎盤細胞、ヒト羊膜細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の樹立と特性解析、および目的細胞への分化誘導法の標準化、2)1)で得られた細胞のヒトへの移植法の臨床的実現化、以上の2つの柱からなる。 研究期間の前半は1)に関する研究を主体として推進する計画であり、詳細に言えば、平成24年度に実施する内容は主としてヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞の特性解析である。 それらの一部について網羅的発現遺伝子プロファイリング解析(Affimetrix社GeneChipによる解析)ならびに抗体を用いた免疫染色、および細胞表面抗原解析を行った結果、由来組織や継代数によって細胞の性質が異なることが明らかとなった。 本研究の最終目標はヒトの虚血性心疾患患者や先天性心疾患患者の治療であることから、その病態回復を効果的にサポートする細胞が必要と考え、網羅的発現遺伝子プロファイリング解析と細胞表面抗原解析結果を精査した。階層的クラスター分析を行った結果、胎盤血管内皮細胞を特徴付ける遺伝子として内皮細胞を規定する分子として知られているPECAM1と血管発達に寄与する内皮細胞由来分泌因子であるEGF様因子EGFFL7が導かれた。また、胎盤絨毛膜板細胞を特徴付ける遺伝子として心臓血管の恒常性の維持に主要な役割を担うNPPB(BNP)が導かれた。精査の結果から判断し心筋梗塞の病態回復において効果がより期待できると予想されたヒト胎盤細胞を研究協力機関である独立行政法人国立成育医療研究センター生殖・細胞医療研究部より供与を受けた。 一部のヒト胎盤細胞については、平成24年度内にすでに野生型マウス心筋への移植実験を試み始めており、適切な細胞懸濁液、レシピエントマウスへの負担が少ない移植細胞数、細胞密度、術式等が決定しつつあることから、現在までの達成度はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は網羅的発現遺伝子プロファイリング解析と細胞表面抗原解析によって精査されたヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞を用いた目的細胞への分化誘導法(in vitro, in vivo)の標準化を行う。その際、樹立した細胞に蛍光遺伝子を導入することによって移植した細胞の生体内での挙動の把握につなげる。 細胞培養系における心筋への分化誘導法を決定するとともに、その方法に基づいて作製した細胞のin vivoにおける分化能を評価することを目的として、ヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞、分化させたヒト胎盤細胞、そして分化させたヒト胎盤血管内皮細胞を野生型マウス、および免疫不全マウスの心臓に移植することにより、移植した細胞の生着、機能発現、組織構築能の検討と腫瘍化能の評価を行う。 また心疾患モデルマウスを作製しその心臓の疾患部位に移植することにより、移植した細胞が病態に及ぼす治療効果を評価する。評価方法として、分子生物学的には分化マーカーを用いたリアルタイムPCRと免疫染色(in vitro)、生理学的には心電図検査(ECG)(in vivo)、左室圧測定(in vivo)、組織学的には移植片の免疫染色(fibrosis areaの測定など)を考えている。さまざまな評価方法によって得られた結果を取りまとめることにより、生体内におけるヒト胎盤細胞由来の心筋細胞を多角的に評価する。 モデル動物への投与ルートと移植細胞数の検討も行う。生体内における機能評価を目的として、将来的には下肢虚血モデルマウス作製と細胞移植、および、心筋梗塞モデルラット作製と細胞移植を行う。また、ヒトに対する臨床応用を目指すために、イヌ、ブタといった大動物における具体的な細胞移植方法を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はマウス心筋への移植細胞の生着、機能発揮、組織構築能に関する検討を重点においた研究を進める。移植細胞の調整については前年同様の工程を必要となるため、細胞培養の際はコンタミ防止に最大限の注意を払う必要がある。無菌試験をパスした製品(培地、血清、抗生剤等)の購入、滅菌操作を徹底するためのディスポーサブル製品(トレー、ディッシュ、ピペット、遠心チューブ、グローブ、マスク等)の購入が必須となる。培養作業に従事する研究補助者への謝金が経費の主な内訳となることは、極めて妥当であると考える。 成体マウス、新生仔マウス、疾患モデルマウスといった複数種のマウスへの細胞移植が中心となるため、実験動物の購入費がかさむことが容易に予想できる。また上記の疾患モデルマウス作製時にはあらたに多くの器具を新規に購入する必要が生じる。さらに、生体内における移植細胞の機能評価を目的として心電図検査(ECG)と左室圧測定(in vivo)を計画しており、その場合は受託、あるいはこの解析にかかわる物品についても新規購入しなければならない。 旅費については研究打ち合わせのための都内移動費と本研究遂行期間内に国内外で発表できるような成果を上げるため、学会参加のための旅費を申請する。 ヒト胎盤細胞、ヒト胎盤血管内皮細胞、継代を重ねた細胞株の免疫染色や細胞表面抗原解析に用いる抗体、細胞移植後のマウス組織標本の免疫染色に用いる抗体、試薬の購入など、備品購入経費が多く発生することは研究を円滑に遂行する上で妥当と考える。
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Research Products
(1 results)