2012 Fiscal Year Research-status Report
循環不全モデルにおける脳幹前庭神経細胞の発火特性変化の解明
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23791874
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
高安 幸弘 群馬大学, 医学部, 講師 (70375533)
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Keywords | 虚血 / 前庭神経 / パッチクランプ |
Research Abstract |
前庭神経核を含む脳幹のスライス切片をラットを用いて作成し、パッチクランプ法にて前庭神経核および小脳皮質の神経細胞より膜電位変化を記録した。虚血条件として、低酸素低グルコース (OGD)細胞外液の還流を行った。前庭神経核の神経細胞では、10分程度のOGD還流で発火頻度の低下が観察された。この現象は、前庭神経核神経細胞における抑制性入力の上昇で生じうる。従って、前庭神経核に対する重抑制性入力である前庭小脳プルキンエ細胞からのGABA作動性入力に注目し、前庭小脳領域で実験を進めた。ラット小脳虫部のスライス切片を作成し、前庭小脳領域のプルキンエ細胞を-70mVに膜電位固定し、自発性興奮性シナプス後電流(sEPSC)を記録した。sEPSCは短時間のOGD刺激により顕著な増加を示し、細胞外液を生理的な外液に変更すると、ほぼベースラインの状態に回復した。このことから、ODG外液還流によりsEPSCは顕著に増加するが、これは一過性で可逆性の変化であることが分かった。次に、このOGD刺激による反応が、前庭小脳特異的であるのか、あるいは小脳全体の共通した現象であるのかを調べるため、前庭小脳以外の小脳領域で同様の実験を行った。前庭小脳以外のプルキンエ細胞におけるsEPSCは、OGD刺激で若干の頻度の上昇を認めたが、前庭小脳領域の反応に比べ有意に小さかった。 次に、sEPSCの増加はプルキンエ細胞の興奮性シナプス前神経細胞の顆粒細胞の自発発火の増加に起因すると考えられたため、そのメカニズムを解明するために前庭小脳顆粒細胞に注目し、パッチクランプ記録を行った。このとき、顆粒細胞における興奮性介在ニューロンであるunipolar brush cellに関しても同様に電気記録を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
椎骨脳底動脈循環不全による眼振を含めた中枢性めまい症状の発生から自然経過での改善に関する病態生理を明らかにすることが本研究の主題である。実験計画では、ラットの脳幹前庭神経細胞において、虚血刺激として低酸素低グルコース (Oxygen-Glucose Deprivation; OGD) 細胞外液の還流を行い、これにより生じる一過性の発火特性変化を明らかにし、次にこれが発生するメカニズムを解析する方針である。これまでの実験で、虚血刺激により前庭神経核神経細胞における自発発火の停止が確認された。さらに、前庭神経核における抑制性制御系として、前庭小脳に注目し、前庭小脳から前庭神経核への抑制性出力細胞であるプルキンエ細胞における一過性虚血における変化をとらえることに主眼を置いた。前庭小脳プルキンエ細胞では、ODG刺激により自発性興奮性シナプス後電流の顕著な増加が確認できた。さらに、その原因となりプルキンエ細胞の興奮性シナプス前細胞である小脳顆粒細胞より電気記録行い、OGD刺激による一過性の自発発火の増加を確認した。OGD刺激による前庭小脳の興奮性の増加は、プルキンエ細胞の興奮増加を介して、その軸索出力であるGABA作動性の抑制性出力の増加となって、前庭神経核における抑制性の増加に寄与する重要なメカニズムとして解釈できる。以上より、今年度の実験計画目標である、前庭神経核神経細胞における一過性虚血時の発火特性の変化のメカニズムの主要部分を小脳領域において明らかにすることが出来ており、目標は十分に達成できていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
無酸素無グルコース(Oxygen-Glucose Deprivation; OGD)細胞外液還流による一過性虚血刺激実験では、前庭小脳プルキンエ細胞における自発性興奮性シナプス後電流の増加が観察された。この現象は前庭小脳領域のプルキンエ細胞に優位に観察される現象であった。従って、次に、前庭小脳プルキンエ細胞の興奮性シナプス前細胞である顆粒細胞における自発発火に注目し、発火特性の変化やそのメカニズムを解明する。 具体的な今後の研究の推進の方策として、本年度明らかになった前庭小脳顆粒細胞の自発発火増加に関して、顆粒細胞の興奮性介在ニューロンであるunipolar brush cellよりパッチクランプ記録を行い興奮性の変化を観察する。Unipolar brush cellはスライス標本上、その細胞体の形態や膜電位特性から同一の顆粒細胞層にある他の神経細胞と区別できる。その特性を確認し、OGD刺激による変化を観察する。OGD刺激による興奮性変化としては、グルタミン酸トランスポーターの機能不全より生じる細胞外グルタミン酸貯留に注目する。グルタミン酸はAMPA型およびNMDA型のイオンチャネル型グルタミン酸受容体を介して神経細胞に興奮性膜電位変化をもたらす。従って、グルタミン酸受容体ブロッカーなどを用いた薬理学的検討を行う予定である。 小脳や海馬など神経細胞が密集する中枢領域は一般に虚血性変化に弱いと想定される。循環不全による障害、すなわちOGD刺激に対する反応もより高度であることが見込まれる。一過性虚血に対して中枢性前庭障害が生じるメカニズムとして、脳幹の前庭神経核神経細胞自身ではなく、むしろその興奮性を制御する小脳領域における虚血脆弱性が証明できれば、これまでと全く異なった病態メカニズムを提示できると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度にパッチクランプ実験用の精度の高い電流増幅器を備品として購入したため、実験記録は滞りなく可能になった。従って、今後も同様のシステムで実験遂行を予定しているため、本年度は、実験の継続に必要な動物や薬品などの実験消耗品の購入に主に研究費を使用する予定である。実験動物も、これまで同様にラットを使用する予定である。 また、最新の研究結果をまとめ、国際学会に参加、発表行うことで専門的な意見を聞き、今後の研究の発展に役立てる予定である。神経科学系の最も大規模な国際学会は毎年アメリカで開催される北米神経科学会であり、そこでは毎年2万人以上の研究者が全世界から集まり専門分野に関して研究結果を議論する。従って、昨年度に議論した内容を1年間の実験で明らかにし、本年度も北米神経科学会に参加、発表予定である。北米神経科学は5日間の会期であり、会場までの交通費および学会期間中のアメリカ滞在費など、国際学会参加に伴う旅費として本年度の研究費の一部を使用予定である。
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