2011 Fiscal Year Research-status Report
日本人網膜色素変性患者における原因遺伝子EYSの寄与と遺伝子変異-病態の関連解析
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23791975
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
細野 克博 浜松医科大学, 医学部, 助教 (60402260)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 網膜色素変性 / 常染色体劣性遺伝 / 遺伝子変異解析 / 遺伝子診断 / EYS |
Research Abstract |
網膜色素変性 (Retinitis Pigmentosa, RP) は、視細胞と網膜色素上皮の機能を原発性、びまん性に障害する遺伝性、進行性の疾患群である。RPの遺伝形式は常染色体優性遺伝 (ad)、常染色体劣性遺伝 (ar)、X連鎖性遺伝の3種類で見られ、これまでに55個の原因遺伝子が同定されている。本疾患に対する有効な治療法の開発のためには遺伝子レベルでの病因解明が必要である。本研究は、(1) 日本の基幹施設から収集したarRP患者を用いて、近年欧州のarRP家系で変異の頻度が高いと報告されている原因遺伝子EYS (Eyes Shut Homolog)のスクリーニングを行い、(2) 日本人RP患者におけるEYS変異の寄与と高頻度に認められる変異のデータを蓄積してデーターベースを構築し、日本人におけるRP患者のEYSの変異と病態の対応関係の基礎データを創出することを目的としている。本年度の研究計画は以下(1)~(5)を計画した。(1)RP患者の診断と検体収集、(2)EYSのゲノム構造解析、(3)検体からのDNA精製と細胞株樹立、(4)変異検出法の検討、(5)変異探索。(1)と(3)については、100人のarRP患者を収集でき、全ての患者の血液よりDNAを抽出精製した。また可能な限りBリンパ芽球様細胞株の樹立を行った。(4)については樹立した患者Bリンパ芽球様細胞株でのEYSの発現検討を試みたが、発現は認められなかった。そのため通常通りゲノムDNAを用いて(5)の変異解析を行った。(2)は次年度の研究計画へ移行した。本研究の解析結果により、欧州と日本のRP患者でEYSに変異が検出される頻度の違いや日本人特有の変異の有無が明らかとなった。これらの情報は我が国のRP患者の遺伝子診断システムの構築と早期診断や遺伝子変異と病態の関連研究に極めて有用な基礎データになると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RP原因遺伝子のスクリーニングは、既に欧米等の施設によって行われているが、我が国のRP患者における変異解析は少数のadRPとarRP患者で行われているのみであった。この状況を打開するために、申請者は研究協力者と共同でarRP、adRP, レーバー先天盲(Leber’s Congenital Amaurosis, LCA)患者の収集を開始した。本年度は収集できた100人のarRP、19人のadRP、28人のLCA患者に対してPCRダイレクトシーケンス法を用いてEYSの変異解析を行い、18人のarRP患者から7種(c.4957_4958insA, c.8868C>A, c.2522_2523insA, Deletion exon 32, c.6557G>A, c.7793G>A, c.8351T>G)の疾患原因変異を同定した。18人中9人は片側アレルの原因変異のみ同定できた。また上記18人の患者以外の8人から6種のミスセンス変異も同定した(c.77G>A, c.2923T>C, c.5404C>T, c.5884A>G, c.8875C>A, c.9272T>C)。今回同定した13種の変異のうちc.6557G>A以外の12種は新規変異であった。18人中12人にc.4957_4958insA、18人中4人にc.8868C>Aの変異を同定した。19人の日本人adRP患者と28人のLCA患者からは上記2種の変異は見つからなかった。これら2種の変異は日本人arRP患者において突出して頻度の高い遺伝子変異である可能性が高い。この結果は2012年にPLoS ONEに掲載された。本年度は、100名の日本人arRP患者を収集し、EYSの変異解析を実行することができた。我が国にこれだけ大規模にRP症例を収集して行う原因遺伝子の変異探索は初めてであり、達成度はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の研究計画は以下(5)~(7)を計画した。(5)変異探索、(6)遺伝子変異と表現型の検討、(7)データベースの構築。申請者は既にEYSの遺伝子解析により18人から疾患原因変異を同定しているが、変異が片側アリルにしか同定されなかった症例が18人中9人存在した(Hosono et al., 2012)。これは、変異が見つからなかった方のアリルに大きな欠失や重複が存在する場合と、未同定のエキソン中に変異が存在する場合など様々な原因が考えられる。そのため片側アレルのみ変異を同定できた9人の患者に対しもう一方の片側アレルの欠失・重複の有無をMLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)解析を行い検証する。また新規エキソンの存在する可能性については本年度の研究計画(2)で挙げたEYSのゲノム構造解析を行う。新規エキソンが同定できた場合は、上記9人に対しそのエキソンについて再度PCRダイレクトシーケンス法で変異解析を行う。(5)については本年度に挙げた研究計画の(1)を引き続き継続し、更に100人のarRP患者を収集し、合計200人を用いて変異探索を行う予定である。新たに収集する100人のarRP患者に対しては以下のスクリーニング方法を実施する。a.1次スクリーニング; c.4957_4958insAとc.8868C>AをPCRダイレクトシーケンス法で変異解析を行う。b.2次スクリーニング;EYS全44エキソンをPCRダイレクトシーケンス法で変異解析を行う。c.aまたはbで変異が片側アリルにのみ同定できた患者はMLPA解析を行う。 (6)と(7)については、本年度の解析でEYSより原因変異を両アレルより同定できた9名について個々の臨床像と変異の関連について詳細な検討を行い、浜松医大のウェブサイトに収録する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、PCRダイレクトシーケンス法を用いてRP原因遺伝子EYSの変異解析を行う。当施設には既に必要な設備は整っているため、主な消耗品は次年度もシーケンシングに用いる試薬である。また「今後の研究の推進方策」で述べた次年度から新に行うMLPA解析で用いる機器も当施設に整っており、解析用の消耗品試薬を購入するだけでよい。平成23年度の成果報告を第116回日本眼科学会(東京)第66回日本臨床眼科学会(京都)、ARVO 2012 Annual Meeting (アメリカ)等で参加発表を行うための旅費として使用する。また次年度の研究成果の報告を眼科の遺伝学雑誌へ論文投稿を予定している。その際の論文投稿費用と印刷費として使用する。また研究消耗品の調達に際し、予定額より安価で購入出来たため149,458円の繰越金が生じた。当該繰越金については次年度の研究消耗品に充てる予定である。
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