2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23791977
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上野 真治 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80528670)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | TRPM1 / 腫瘍関連網膜症 |
Research Abstract |
我々は、腫瘍関連網膜症が疑われる患者5人から血清を採取した。まず、その患者血清をマウスの硝子体内に投与し、マウス網膜の機能を変化させるのかを検討した。5人の血清の中の4人の患者血清は、血清投与後から1週間まで経過を観察したが網膜電図に変化をきたすことはなかったが、血清投与後にマウス網膜電図が患者と同様の波形に変化した血清を1つ検出した。この患者は肺の小細胞癌の患者で、on型双極細胞の機能障害に伴う夜盲の症状を訴えていた。我々がすでに、TRPM1というon型双極細胞に膜タンパクであり陽イオンチャンネルに対する自己抗体があることを報告している。そこで我々はマウス網膜機能を変化させて患者血清に注目しその機序を検討した。まず始めに投与後から、網膜電図がどのように変化し、この変化が永続的なものか一過性のものかを検討した。マウス6匹の片眼に正常者の血清を投与しもう片眼に患者の血清を投与すると、患者血清はマウス硝子体内投与後、3時間というごく初期から患者と同様の陰性型ERGの波形を示した。またこの波形は投与後6か月まで変化なく、この血清による網膜電図の変化は一過性のものではなく永続的な変化であることが推測された。次に我々は組織学的な光顕、電顕レベルで検討を行った。組織は血清投与後、5時間、3日、1か月、3か月で検討した。5時間後の組織ではon型双極細胞が存在する内顆粒層に核の濃染を多数認めた。電顕レベルでは核の濃染はアポトーシスによるものであった。またon型双極細胞と視細胞のシナプス間に入り込むon型双極細胞の樹状突起の変性が認められた。3時間後にはマクロファージがアポトーシスを起こした細胞を貪食している所見が見られた。3か月後の光顕では網膜組織に構造的な異常は一見認められなかったが、内顆粒層の厚みが薄くなっていた。これはon型双極細胞が変性し貪食されたことにより薄くなったと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回の研究の目的としては、新たな診断法の確立と病態解明の2つあげている。まず新たな診断法の確立ということで、今回、患者の血清をマウスに投与し網膜電図で解析するという新しい方法を検討した。5人の血清をマウス硝子体内に投与したが網膜電図で変化を認めたものは1検体のみであった。今回用いた方法は、血清に網膜機能を変化させる効力があるという証拠を直接証明することができ、腫瘍関連網膜症における自己個体の存在の診断には非常に有用である。ただ、感度が高くなく腫瘍関連網膜症全てを診断できるわけでないこともわかった。今後さらなる改良を行い感度を上げていく方法を模索している。病態解明に関しては、非常に重要な結果を得られた。今まで腫瘍関連網膜症は視細胞や双極細胞のアポトーシスという予想はされていたが直接証明したものはほとんどなかった。今回の1症例で我々は網膜双極細胞に対する自己抗体がすでに存在が証明されていた患者であったが、患者血清投与後、網膜のon型双極細胞の非常に早期に変性が確認された。この所見は患者の急激な夜盲や回復しない視機能など、症状や所見がマウスと非常に酷似しており、患者においてもマウス同様の変化が生じていることが予想された。今まで網膜双極細胞が変性するという所見を誰も報告したことがなく、今回の発見は世界初の報告ということで現在英文論文に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、5症例中1症例にしか診断に有用でなかった血清のマウス硝子体内への投与という方法の改善を考えている。感度が低い原因として自己抗体の抗原が膜タンパクでなく細胞内のタンパクである可能性があるため、抗体を細胞膜を透過させるような薬剤と混ぜて投与することを考えている。自己抗体による網膜の双極細胞変性に関しては、本年度はそのメカニズムを詳細に検討する予定である。まず今回、急激な双極細胞変性を生じたことから、そのメカニズムとして補体の関与を考えている。補体を失活させた血清の網膜に対する機能や、免疫組織染色を用いて補体の存在を確認する予定である。また、この抗体の抗原であるTRPM1のノックアウトマウスを入手しこれらのマウスに対する作用を検討する予定である。患者の所見との比較ということで、患者の経過を追うために血清を保管しているがこれらの血清中の抗体をウエスタンブロットで確認していくことにより、患者の体内からどれほどの期間で抗体が消失していくかも検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マウス購入で20万円、抗体などの試薬で30万円、国際学会を含めた学会参加のため95万円、論文の校閲、投稿料で25万円を計画している。
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Research Products
(1 results)