2011 Fiscal Year Research-status Report
線維柱帯の圧感受性を規定する細胞骨格および細胞接着の変化に関わる因子の網羅的研究
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23791994
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
井上 俊洋 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (00317025)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 緑内障 / 房水 / 圧感受性 / 線維柱体 / シュレム管内皮 |
Research Abstract |
われわれはまず線維柱体細胞の2次元培養に対して静水圧をかけるシステムを確立した。気密性容器を作成依頼し、内腔に開口したチューブをボトルに接続した。このボトルと容器に高低差を設けることで静水圧をかけ、別の開口部からルートを取って圧をモニターした。この装置を用いてコントロール条件は大気圧で培養し、加圧条件はこれに10 mmHgごと圧を上昇させて培養し、時間経過に伴う細胞骨格の変化を確認した。加圧によって細胞形態は変化を示したが、蛍光ファロイジンを用いた染色ではアクチン細胞骨格に変化をみとめなかった。さらにこの結果を確認するため、リン酸化MLCに対するウエスタンブロッティングを行った。リン酸化MLCはアクチン細胞骨格の重合化を制御するため、アクチン重合を評価するにあたってマーカーとして用いられることが多い。われわれの実験系においてもリン酸化MLCは圧変化に反応せず、アクチン重合の程度を反映していると考えられた。これらの結果から、線維柱体細胞において重合化アクチンが圧感受性を規定する因子であるというわれわれの仮説は本実験系では直接証明することが困難であることが明らかとなった。そこでわれわれは血管内皮細胞で圧依存的に変化することが報告されている細胞内カルシウム濃度に着目した。細胞内カルシウム濃度を増加させる薬剤としてA23187、細胞外カルシウムのキレート剤としてEGTAを用いて実験を行った。細胞はサルのシュレム管内皮細胞を用い、単層培養の透過性を電気抵抗を計測することで評価した。その結果、細胞内カルシウム濃度の増減によって電気抵抗も同様に増減することが分かった。またアクチン脱重合を促す薬剤は細胞内カルシウム濃度の増加を抑制する作用があることも判明した。シュレム管内皮の透過性は眼圧と直結するため、細胞骨格および細胞内カルシウム濃度が圧感受性に関わっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の実験計画に従って準備した実験系を用いて検証したが、われわれの仮説を直接証明することは結果として困難であった。このため、当初予定していたタンパク質の網羅的解析や細胞接着因子の同定にすすむことが出来ず、実験計画の修正を余儀なくされた。したがって、当初の予定と異なった実験をすすめる結果となったが、予期していなかった新たな知見を得ることができたため、研究の継続によって十分に有意義な成果が期待できると考えている。このことから、総体的には本研究の達成度について、おおむね順調に進展している、と評価した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
アクチン細胞骨格を脱重合させるROCK阻害剤が細胞内カルシウム濃度変化を修飾し、シュレム管内皮の透過性に影響をあたえることで眼圧を変化させていることが示唆された。一方で、細胞内カルシウム濃度は細胞死に関連していることが他の細胞を用いた実験で報告されている。圧感受性が破綻していると考えられる緑内障患者においては、細胞死により線維柱体細胞の数が減少していることが分かっているが、この圧感受性と細胞死の相関は不明である。本研究計画の初年度にわれわれが証明したことを合わせて考えると、ROCK阻害剤はこの両者を結びつける知見を得るのに有用である可能性がある。そこでわれわれはまず線維柱体細胞の細胞死に着目することで本研究の最終目標である圧感受性を規定する因子の同定に結びつけることを考えている。緑内障患者の房水流出路においては酸化ストレスが増加していることがこれまでの報告から示唆されている。このため、線維柱体細胞に細胞死を誘導する手段としては過酸化水素処理を用いる予定である。酸化ストレスに伴う線維柱体細胞内シグナルを詳細に検討した後、ROCK阻害剤のこれらのシグナルに対する影響を検証する。さらに細胞内カルシウム濃度も合わせてモニターすることで、圧感受性のメカニズムに迫りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画を実行するための手技は細胞生物学的実験が主となる。基本的な器具は申請者の施設に備わっているため、研究費は物品費が中心となる予定である。具体的には培養皿類、培地類、抗体、試薬類などとなる。また必要な情報を収集することと得られた成果を発表するために学会に参加するための旅費と、論文作成のための謝金を計上する予定である。
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Research Products
(3 results)