2012 Fiscal Year Research-status Report
線維柱帯の圧感受性を規定する細胞骨格および細胞接着の変化に関わる因子の網羅的研究
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23791994
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
井上 俊洋 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (00317025)
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Keywords | 緑内障 / 酸化ストレス / 線維柱帯 / 細胞骨格 |
Research Abstract |
圧感受性と細胞骨格の関与を調べるため、われわれは緑内障患者眼の房水と線維柱帯で増加している酸化ストレスと細胞死に着目し、ROCK阻害薬が線維柱帯細胞において酸化ストレスに与える影響について検討した。カニクイザル培養線維柱帯細胞をROCK阻害薬(Y-27632、25μM)で30分処理したあとmRNAを回収し、マイクロアレイを用いて12613遺伝子を網羅的に解析し、発現に変化のあった遺伝子を同定した。さらにGene ontology analysisを用いて遺伝子の機能毎にカテゴリー化して統計学的に解析を行ったところ、抗酸化機能関連の5つの遺伝子の発現が上昇していることがわかった(P = 0.014)。さらに酸化ストレスによる細胞死においてROCK阻害薬が与える影響を検討するため、カニクイザル線維柱帯細胞を無血清培地で一晩処理し、25μMのY-27632で30分前処理を行ったところ、WST-8 assayによるシグナルは、600μMの濃度の過酸化水素刺激下でY-27632前処理を行った細胞の方がコントロールと比較して有意に高値であった。これらの結果から、ROCK阻害薬は細胞内における抗酸化作用物質の発現を誘導し、酸化ストレスによる細胞死を抑制する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
われわれのこれまでの研究によってアクチン細胞骨格を脱重合させるROCK阻害剤が細胞内カルシウム濃度変化を修飾し、シュレム管内皮の透過性に影響をあたえることで眼圧を変化させていることが示唆されていた。一方で、細胞内カルシウム濃度は細胞死に関連していることが他の細胞を用いた実験で報告されている。平成24年度の計画としては、緑内障患者で観察されている線維柱帯細胞の細胞死と、緑内障患者において異常を来している可能性のある線維柱帯の圧感受性制御を結びつけるべく、ROCK阻害剤と線維柱体細胞の細胞死の関係を明らかにすることであった。今回の検討の結果、線維柱帯細胞においてROCK阻害剤が抗酸化物質を誘導して酸化ストレスによる細胞死を抑制すること明らかになったことから、上述の平成24年度の目的であるROCK阻害剤と細胞死の関連が明らかとなり、本研究課題は当初の計画通りに順調に進行していると考えている。緑内障患者眼の房水および線維柱帯における酸化ストレス反応は増加していると考えられていることから、本研究課題の進展によって緑内障病態の解明に寄与することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
アクチン細胞骨格を脱重合させるROCK阻害剤が酸化ストレスによる線維柱帯細胞の細胞死を抑制させることが示唆された。圧感受性が破綻していると考えられる緑内障患者においては、細胞死により線維柱体細胞の数が減少していること、および緑内障患者の房水および線維柱帯には酸化ストレスが増加していること示唆されていることから、これらの変化が圧感受性のメカニズムと関連している可能性がある。したがって、本研究課題の最終年度である次年度は、酸化ストレスが房水流出率に与える影響をまず確認する。既報によると酸化ストレスは一定時間の房水流出率を変化させないことが報告されているが、分単位で房水流出率をモニターした報告はない。したがってわれわれはまず摘出眼に酸化ストレス惹起薬剤を灌流し、われわれが作成した分単位でモニターが可能な房水流出率測定器を用いて測定する。このとき、一定の範囲で灌流圧を変化させることによって房水流出量は圧に比例して増加し、房水流出率は一定となる。これが線維柱帯およびシュレム管の圧感受性による反応と考えられているが、酸化ストレスで処理することによってこの圧感受性が影響を受ける可能性がある。さらに酸化ストレスの影響がROCK阻害剤で解消できるかどうかを観察するとともに、組織学的な手法で線維柱帯組織を観察することで圧感受性のメカニズムを解明し、これまでの本研究課題の締めくくりとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計画を実行するための手技はex vivoの実験が主となる。基本的な器具は申請者の施設に備わっているため、研究費は物品費が中心となる予定である。具体的には摘出眼、酸化ストレス惹起薬剤、灌流液などの購入費用となる。また組織学的な実験も行うため、抗体、固定液などの費用も必要である。さらには、次年度は本研究計画の最終年度となるため、必要な情報を収集するとともに、得られた成果を発表するために学会に参加するための旅費と、論文作成のための英文校正費用、投稿料を計上する。
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Research Products
(20 results)