2011 Fiscal Year Research-status Report
"ケロイド体質"を考えるーFibrocyteとケロイド病態との関連性の探求ー
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23792051
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
長尾 宗朝 岩手医科大学, 医学部, 助教 (00364349)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ケロイド / 創傷治癒 / 線維化 |
Research Abstract |
"ケロイド体質"という言葉があるように、ケロイド病変は、多発・再発し、拡大していく傾向がある。われわれは、ケロイドの成因には、局所のみならず全身的な影響もあると考え、循環血液中の線維芽細胞前駆細胞、つまりcirculating fibrocytes (以下、CFs)の性質解析を行ってきた。その結果、ケロイド多発患者において、CFsの性質異常を認めていることをつきとめた。 本研究の目的は、そのような循環細胞であるCFsの性質異常が、実際にどこまでケロイドの成因に関わっているかを検討することにある。 そこで今回、CFsを用いた動物実験系を考案した。これらを明らかにすることで、現在行われているような、ケロイドに対する局所的治療のみならず発展的に、新たな体質治療への可能性などを見出す。これまでに我々は、ケロイドの多発・再発を伴った患者から末梢血を採取し、分離・培養を行って得られたCFsの各種サイトカインの発現などを、健常人と比較検討した。その結果、TGF-β1をはじめ、α-SMAなどの発現亢進を認め、その異常は、これまでに多施設でも報告されてきた局所におけるケロイド由来組織線維芽細胞の性質異常に類似した。また、前述のように過去の報告からも、ケロイドの局所にもCFsが動員されていることがわかっており、以上の結果を踏まえ、我々は、これらの性質異常が、ケロイド成因の重要な因子となっている可能性を考ている。 実験の具体的手法としては、免疫不全マウスを用いてヒトケロイド局所細胞ならびにヒトCFsの移植実験を行い、その解析を予定している。移植したマウスの局所において循環細胞の局在と割合がどのようになっているのかを組織学的に検討する。次に、細胞局在に変化があれば、そのメカニズムにつき、分子生物学的手法を用いて遺伝子レベルでの解析・検討することを計画した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実験計画は、臨床におけるケロイド患者からケロイド組織および末梢血を採取し、それぞれ組織培養および末梢血からCFsの分離・培養を行う。それらを免疫不全マウスにおいて、背部では培養した線維芽細胞の移植を行い、血液中へはラベリングした培養CFsの移植を行う。そうして移植後の局所における組織の変化につき観察を行う。 サンプルとして必要となる検体であるが、説明・同意のもとにケロイド体質患者から1サンプル20mlずつ採血を行ったが、これまでに順調に10検体採取できている。それらの得られた末梢血から末梢血単核球(PBMC)を分離処理し、凍結保存を行って共同研究施設である北海道大学分子病理へ輸送し保存している。しかし、組織サンプルは、なかなか手術切除適応となる患者が確保できず、現在、2検体に留まっている状況である。組織サンプルをいかに確保するかも、実験の成果を左右する大きな要素と考えている。 北海道大学においては、免疫不全マウスへの尾静脈からの細胞注入の予備実験を行っていたが、手技が安定していないのが現状である。そのために購入した血管可視化装置を用いて、尾静脈を投影し穿刺することで精度を高めている状況である。当初の計画では、健常人由来細胞の移植と切片採取まで行く予定であったが、やや遅れているといった状況である。しかし、計画の遂行のために欠かせないケロイド患者からの血液サンプルは順調に確保できているため、今後、移植手技をさらに高めること、患者からの組織サンプルも確保していくことで、研究を進めていくことが可能になると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ケロイド、高度肥厚性瘢痕の患者さんの手術件数も、当施設で年間約40例を越えており、継続して、ケロイド患者からの血液ならびに組織サンプルの確保に努める。また、同時に実験マウスにおける細胞移植(皮下注入、尾静脈注射)の手技を高めていき、サンプルが出そろった時点で、すぐに本実験にとりかかれるように準備をしていく。基本的に、昨年からの研究計画をそのまま遂行していく予定である。 しばらくはコントロールとなる健常人由来線維芽細胞と健常人由来CFsの移植実験によるデータの蓄積も行っておく。さらに具体的目標として、8月ぐらいまでであと3例のケロイド組織サンプルを採取し、9月あたりから、実際にケロイド患者由来サンプルを用いた移植実験を開始して、免疫不全マウス背部からの組織切片採取や遺伝子発現の差異、循環細胞と局所細胞の割合等のデータを蓄積していくことで考えている。 また、2012年は9月(国際創傷治癒学会;横浜)、10月に(日本形成外科学会基礎学術集会;福島)、11月(瘢痕ケロイド治療研究会;横浜)と、主に創傷治癒、ケロイド関連の学会が開催される予定であり、引き続き情報収集ならびに成果報告を順次行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
高額器材に関しては、昨年度購入も終え、必要な物品も概ねそろったため、今年度は新たな高額機器、大型機器の購入予定は計画していない。そのため昨年度に引き続き、消耗品として、血液分離用器材、試薬、細胞保存用液体窒素等の諸経費がかかる見込みである。また、昨年度と異なる点は、動物実験に関わる諸経費が上乗せされることで予定している。 また、昨年度に引き続き情報収集や研究打ち合わせの他、成果報告を順次行っていく予定であり、国内外含めた旅費に3割近い予算を予定している。また、その他の経費として、学会参加費、共同研究施設である北海道大学分子病理学講座へのサンプル輸送費、論文投稿料などが、経費として見込まれ、それらは昨年度よりも上乗せされて必要となる見込みである。 それぞれの諸経費が昨年度より多くかかる見込みであり、高額機器の購入予定はないものの合計として今年度も同等からそれ以上の予算使用を計画している。
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