2011 Fiscal Year Research-status Report
病原性リポ蛋白質制御酵素を標的とした新たな齲蝕細菌感染症治療・予防法の開発
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23792113
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
有本 隆文 昭和大学, 歯学部, 講師 (60407393)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | Streptococcus mutans / リポ蛋白質 / 耐酸性 / 二成分制御系 |
Research Abstract |
Streptococcus mutansは外部環境変化に適応するために、二成分制御系と呼ばれる遺伝子制御機構を持つことが、示唆されている。CiaRHは耐酸性に関わるTCSで、CiaHが感知した環境pH変化はCiaRを介して伝達され、耐酸性関連蛋白質の遺伝子発現調節が起こるとされているが詳細は不明である。一方、S. mutansでは27種の推定リポ蛋白質の存在が示唆されているがそれらの機能の多くは未解明である。本研究では、耐酸性に関わるリポ蛋白質(OpcC)を同定し、CiaRH制御系との関係をを調べるために、S. mutans 109c株(WT)のlgt,lspA,opcC,ciaH,ciaR 欠損株を作製した。耐酸性はpH 3.0に30分暴露後の生存率で評価した。酸刺激時のopcC欠損株の生存率は、WTと比較して大きく低下したが、opcC復帰変異株で回復した。lgtとlspA欠損時でも同様の耐酸性低下が認められたことから、OpcCが耐酸性に寄与し機能発現にLgtとLspAが必須であることが明らかとなった。Western blotによりLgtがOpcCの局在性に寄与していることが明らかになった。次に、酸刺激時におけるopcC遺伝子発現とCiaRHとの関係を検討した。pH 3.0 刺激時のWTのopcC遺伝子の転写レベルはpH 7.0 刺激時のそれと比較して約2.3倍上昇した。しかし、ciaH欠損株ではこの上昇は見られなかった。ciaR欠損株はWTと同様の発現上昇を示した。以上の結果から、opcCの遺伝子発現は酸刺激により上昇し、その制御にCiaHが重要な役割を果たすことが示唆された。以上の結果、S. mutansはCiaHを介して外部の酸性環境を感知した後、CiaRではない未知のレスポンスレギュレーターを介してOpcC前駆体の遺伝子発現を上方調節し、機能していると考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回応募した研究計画では、Streptococcus mutansを研究対象に、それが有する齲蝕病原性(酸産生能、不溶性グルカン合成能、耐酸性能)における細菌リポタンパク質の関与を調べ、個別リポタンパク質を同定することを目的とした。そのために、細菌リポタンパク質を細胞膜に固定する役割を持つprolipoprotein diacylglyceryl transferase (Lgt)酵素の欠損株を作製し、野生株との齲蝕原性能の変化を調べるという計画を立案した。そして、実験結果から、S. mutansには、耐酸性に関わるリポ蛋白質が少なくとも1種類は存在し、それがOpcCであることを突き止めた。そして、このOpcCはLgt酵素によって細菌細胞膜に固定されていることもWestern blot法によって確認された。以上のことから鑑みて、現在のところ当初の研究計画どおり、概ね順調に推移していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の遂行により、新たに、細菌の外来環境感知システムである二成分制御系(Two-component system:TCS)との関係も明らかとなった。S. mutansの耐酸性に関与するTCSは現在のところ、3種類(ComDE, LiaRS, CiaRH)報告されており、中でもCiaRHの関与が信憑性が高いと思われる。TCSは外来環境の変化を察知するセンサー部分とその変化を細胞内部に伝達する役割を担っているレスポンスレギュレーターから成り、CiaRH systemでは、CiaHとCiaRがそれぞれの役割を果たしている。そこで、今後の研究遂行について、新たな齲蝕病原性関連リポタンパク質の探査はもとより、このCiaRHと今回同定されたリポタンパク質OpcCとの関係解明も研究興味の対象と考えたい。そして、TCSによる酸性環境の察知から、OpcC発現による耐酸性能の獲得にいたる細菌細胞内メカニズムを解明したいと考える。以上、今後の研究の推進方策として、新たな齲蝕病原性関与リポ蛋白質の探査ならびにそれらとTCSの関係解明の二本柱を計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度同様、引き続き、S. mutansの継代を行っていく必要があることから、培地・試薬・プラスチック容器等の費用が考えられる。今年度も昨年度同様齲蝕病原性に関わるリポタンパク質の同定を計画していること、また、新たに判明したTCSと齲蝕病原性との関係も明らかにしたいと計画していることから、各個別リポタンパク質欠損株、ならびに各TCS欠損株作製用のプライマーをデザイン購入予定である。当研究室におけるS. mutansの遺伝子欠損株作製法は、従来のvectorを用いた方法よりも簡便かつ確実なvectorless PCR techniqueによるものであるが、相当頻度のPCRを行う必要があり、そのための試薬も大量に要する。これに加えて、細菌リポタンパク質の発現変化を調べるために、死亡表層画分を抽出し、これを二次元電気泳動展開に供したいと考えることから、それに関する費用も計上する必要がある。
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