2011 Fiscal Year Research-status Report
マウス初期舌筋形成における筋芽細胞の局在パターンと分化機構
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23792116
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
藤田 和也 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (70549055)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 歯学 / 病理学 / マウス胎仔 / 舌初期発生 / 舌筋分化 |
Research Abstract |
舌筋は随意筋のなかでも複雑な舌運動を担っており、その発生起源は体幹・四肢の骨格筋とは異なっていることから、舌筋特異的な分化制御の可能性が指摘されている。本研究では、マウス胎仔舌発生過程におけるmRNAおよびmiRNAの発現推移と分子間ネットワークを明らかにすることで、筋芽細胞分化のタイミングを制御する分子メカニズムの解明を目指す。今年度ではまず、胎生10.5日および11.5日のICRマウス胎仔頭部から形成途上にある舌原基組織を分離・採取して遺伝子発現変化を検証した。mRNAマイクロアレイ解析の結果では、5倍以上の発現変動を示す151遺伝子を捉えることができた。Gene-ontology (GO)解析により、その半数以上が神経・筋関連の分子カスケードに属しており、筋分化マスター遺伝子(MyoD, Myf5, Myogenin)および骨格筋の筋芽細胞分化マーカーであるMeox1, Meox2, Msc, Nfixを含む転写因子19種も同定することができた。Cytoscape®による分子ネットワークの検証から、これらの転写因子の多くがマスター遺伝子上流に働くことも明らかになった。さらに、同舌試料のmiRNAマイクロアレイ解析では、2倍以上の発現変動を示す124種のmiRNAを同定した。TargetscanアルゴリズムによるmiRNA標的分子検索により、miR-1/206がMeox1/Meox2、またmiR-27がMscを標的としうることも明らかとなった。骨格筋分化では、これまでにmiR-1/206によるPax7(Nfix発現誘導に働く)の翻訳抑制が知られているが、今回の解析結果から、舌筋発生においては、胎生10.5~11.5日に筋分化関連転写因子mRNA群が一斉に発現開始するとともに、追随するmiRNA分子が筋芽細胞分化のタイミングを多重に制御している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度における到達目標として、マウス舌予定領域の時期特異的な遺伝子発現プロファイルの取得・分析を目指しており、この目標はおおむね達成できている。同一RNA試料からのmRNAおよびmiRNAマイクロアレイ解析により異なる時間軸での遺伝子発現変化について詳細な相互作用解析を実現できた。実験開始当初の課題として、各胎生日齢における微小な組織塊を均質に採取する方法の確立にも取り組んだ。この採取条件については、マウス胎仔試料中の類似組織(下顎突起、口蓋突起など)も併せて検討を重ね、約40胎仔の舌原基組織からマイクロアレイ解析に適する高純度RNAを抽出するプロトコルを確立した。さらに、マイクロダイセクション法により凍結切片試料(8μm厚 x 15切片;約100,000細胞相当)を顕微切断することで特定領域のRNA抽出が可能となった。また、マイクロアレイデータの検証に関して、アレイ解析に供した胎生10.5日と11.5日のRNA試料を用いてリアルタイムPCR定量解析を実施したが、アレイデータから注目した転写因子・miRNA分子の発現については、さらに筋芽細胞の融合、筋管細胞~筋線維の成熟にいたる時間軸(~18.5日齢まで1日毎)でも追跡した。その結果、大半の転写因子群ではE11.5で発現極大を示したのに対し、それらを標的とするmiRNA分子群が時期とともに発現上昇する傾向も確認できた。これらの解析手法により、分子間ネットワークを舌発生全体にわたる時系列で追跡することも達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の計画では、免疫組織化学による筋関連遺伝子のタンパク発現パターンに基づいて舌原基での筋芽細胞局在の時空間マッピングを予定していたが、マイクロアレイ解析により想定よりも多くの制御遺伝子とその制御に働くmiRNA分子を同定できたことから、初年度ではこれらの分子間相互作用を検索することに重点を置いた。次年度では、この成果に基づき免疫標識によるタンパク発現のマッピングを遂行するが、翻訳抑制に働くmiRNAの発現情報を考慮したプロトコル改変が必要であり、目標として免疫標識とFISHを併用した局在マッピング法を確立する。対象分子に関しては、mRNAマイクロアレイデータにおいて高発現していることが判明した筋芽細胞分化マーカー(Meox1, Meox2, Msc, Nfix)を中心として、それらを標的としうるmiR-1/27/206の発現局在も加味し、舌発生期における筋芽細胞分化パターンを同定する。上述の転写因子は、体幹・四肢骨格筋でみられる二種類の筋芽細胞系譜(embryonic myoblast, fetal myoblast)の分化段階に関係しており、舌筋分化と骨格筋分化との間の共通点・相違点を明らかにする。これらの解析によって、舌筋分化に必須と推定された遺伝子・miRNAについては、舌原基の器官培養システムとアンチセンスLNA(locked-nucleic acid)を用いた機能阻害実験を計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度では、本研究計画を遂行するうえで必要な設備・備品は揃っており、消耗品購入費では、実験マウス維持にかかる経費実験動物として、対象のICR系統の妊娠マウス(5千円×10匹/年×1年)と系統交配(遺伝子改変マウスを含む)に要する経費、免疫組織化学に用いる抗体および関連試薬、遺伝子導入用試薬、細胞/器官培養用培地・血清、核酸抽出試薬、リアルタイムPCR用試薬、FISH法関連試薬、Western blot関連試薬、Northern blot用核酸プローブ・ラジオアイソトープ(32P)、組織画像等デジタル画像保存のためのメディアに要する費用などである。旅費について、国際発生生物学会(SDB)および国内では日本分子生物学会・歯科基礎医学会での研究成果発表の経費を計上している(国内50千円×2回/年、海外200千円/年)。得られた研究成果は学術雑誌への論文投稿するにあたり、別刷費(100千円/1本)が必要となる。
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