2011 Fiscal Year Research-status Report
粉末による細菌の凝集システム構築とレーザー照射に起因した殺菌機序解明に関する研究
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23792169
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
古本 達明 金沢大学, 機械工学系, 講師 (60432134)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Nd:YAGレーザー / レーザー誘起衝撃応力 / 一次元弾性応力波理論 / 二酸化チタン粉末 |
Research Abstract |
レーザー照射と酸化チタン粉末懸濁液を併用することで,懸濁液内部の細菌が減少することが報告されている.本研究では,微細粉末が有する表面エネルギーに着目し,粉末種類や濃度などの諸条件と細菌凝集性との関係を調べ,粉末に対するレーザー光の吸収・透過特性,熱特性なども考慮し,レーザー照射に起因した殺菌効果発現のメカニズム解明に向けて取り組んだ. 粉末を含有した懸濁液にレーザー照射すると,粉末にレーザー光が吸収・加熱され,粉末の蒸散あるいは粉末周辺の溶媒の加熱・蒸散で相変化が生じて衝撃応力が発生する.このレーザー誘起衝撃応力を一次元弾性応力波理論に基づく測定法で測定した.これまで,歯質表面に生じる衝撃応力を測定しており,懸濁液を封入する容器素材や形状を改良して高精度化を図った.また,酸化チタン粉末に加えてジルコニア粉末,二酸化ケイ素粉末,二酸化マンガン粉末を用いてレーザー条件と誘起衝撃応力との関係を明らかとした.実験には波長が1064nmのパルスNd:YAGレーザーを用い,使用した粉末の平均粒径は1μmである. 実験の結果,使用した全ての粉末でレーザー照射に起因して誘起衝撃応力が生じることが明らかとなった.生じた誘起衝撃応力は,ピーク出力が大きくなるにつれて大きくなり,懸濁液中の濃度が大きくなるほど大きくなった.同一濃度で比較すると,二酸化マンガン粉末を用いた時の誘起衝撃応力が最も大きく,二酸化チタン粉末,ジルコニア粉末,二酸化ケイ素粉末の順に小さくなった.実験終了後の導光ファイバー先端を観察した結果,先端の損傷程度からも同様の傾向が得られた.その他,粉末粒径の違いによる誘起衝撃応力の変化を調べた結果,粉末粒径が小さいほど大きな誘起衝撃応力が生じることがわかった.得られた誘起衝撃応力について,熱伝導率や比熱などの熱物性値との関連を調べたが,これらとの相関は認められなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に示した平成23年度の実施内容について,予定通りの実験を行うことができた.得られた誘起衝撃応力について,熱伝導率や比熱などの熱物性値との関連を調べたが,これらとの相関は認められなかった.そこで,レーザー吸収率や透過率などの光物性値との相関についてさらに調べる必要があると考えている. また,申請書では懸濁液内部でNd:YAGレーザーを照射したときの誘起衝撃応力を測定することが主目的であったが,レーザー波長の違いによる誘起衝撃応力を比較するため,Er:YAGレーザーを照射したときに生じる誘起衝撃応力の測定も行った.しかしながら,Er:YAGレーザー照射時の誘起衝撃応力を測定することができなかった.それぞれのレーザー波長の違いに起因して,懸濁液に対するレーザー吸収機構が異なるためであると考えており,現在,測定方法について再検討を行っている.また,レーザー照射時のファイバー先端の様子について,高速度ビデオカメラを用いた可視化に向けて準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の成果から,懸濁液中にレーザー照射したときに誘起衝撃応力が生じることが明らかとなった.レーザー照射と酸化チタン粉末懸濁液を併用することで,懸濁液内部に物理的作用が生じていることを示唆する結果である.今年度は,レーザー照射に起因して生じる物理的作用についてさらに検討するため,波長の異なるEr:YAGレーザーを用いて,歯質表面および懸濁液内部で生じる誘起衝撃応力を測定する. また,レーザー照射時に生じる熱作用が殺菌効果発現に及ぼす影響を調べるため,レーザー照射時に歯質表面で生じる温度についてファイバー導光型赤外線輻射温度計を用いて測定する.各懸濁液を歯質表面に塗布・乾燥させた後,歯質表面にレーザー照射したときの温度を計測する.計測は,赤外線導光ファイバーと3種類の赤外線検出素子を組み合わせた輻射温度計を用いる.Nd:YAGレーザー,CO2レーザー,Er:YAGレーザー照射時の温度をそれぞれ測定する.導光ファイバーは,透過波長範囲の異なる複数のカルコゲナイドファイバーを用いる.得られた結果より,粉末種類とレーザーの組み合わせから生じる温度を比較すると共に,各粉末の熱特性を明らかとする.用いる試料は,研究協力者である歯科医から提供されたヒト抜去歯である.効率的に歯質表面の温度計測を行うため,マイクロソーで切り出した試料に表面研削を行い,厚さ数mmの平面試料を作製する. さらに,微細粉末の表面エネルギーに起因した細菌凝集力を調べるため,酸化チタン粉末,ジルコニア粉末,二酸化ケイ素粉末,二酸化マンガン粉末を用いて,粉末種類,粒径,形状,濃度などを変化させたときの細菌凝集能を調べる.実験は,試験管に懸濁液と細菌を入れて撹拌した後に沈殿させ,その菌浮遊液を遠心分離して沈殿物と上澄み液に分ける.その後,それぞれの様子を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察して評価する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
各種レーザー,レーザー周辺機器,衝撃応力測定装置に係る計測機器一式,温度測定に係る計測機器一式,光学顕微鏡,電子顕微鏡,3次元粗さ計など,ほとんどの設備は研究室内に保有している.しかしながら,研究で使用する細菌の管理および細菌を用いた実験は,研究協力者である歯科医師と行っている.研究協力者である歯科医師が秋田県開業医,また,レーザーメーカーが山梨県所在であるため,細菌を使用した実験や装置カスタマイズの打ち合わせを行うため,定期的に各地に赴く必要がある.また,本研究内容に関する各機関の競争が激しく,得られた成果について速やかに学会発表や論文投稿するための諸経費が必要となる.したがって,全体経費に占める旅費の割合が多くなっている. また,本年度の実験に必要な遠心分離器や攪拌機を新たに購入する必要がある.これらの設備備品は,明細作成にあたり事前に取扱業者から見積を取っているため全て妥当な金額である.その他,レーザー照射実験を行うためのレーザー伝送用ファイバー,接触端子,電子顕微鏡観察を行うためのフィラメントやカーボンテープ,細菌実験を行うためのガラス器具などの消耗品が必要となる. 昨年度の交付金の内で13410円が未使用であるが,滞りなく実験が遂行されたため消耗品に係る支出を抑制することができたためである.残額については,今年度購入を予定しているレーザー照射実験や電子顕微鏡観察を行うために必要な消耗品の購入に充てる.
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Research Products
(6 results)