2011 Fiscal Year Research-status Report
口腔インプラント治療を受けた介護高齢者の問題点の抽出ならびにリカバリー法の開発
Project/Area Number |
23792224
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
木村 彩 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20584626)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 歯学 / インプラント / 臨床疫学 / 高齢者 / 介護現場 |
Research Abstract |
口腔インプラント治療を受けた高齢者に起こる問題点を抽出するため,過去20年間に当科で口腔インプラント治療を受けた高齢者の診療録調査を行った.口腔インプラント治療を受けた全患者のリストから,現在年齢65歳以上の高齢者を抽出したところ,334名(平均年齢71.9歳,男性128名,女性206名)であった.これらの対象患者のうち,61名(18.3%)の患者は2011年12月31日の時点で1年以上来院しておらず,リコールできていないことが明らかとなった.そして,それらの患者のうち3名は,診療録から認知症を有していることがわかった.また,2名が悪性腫瘍で入院中または自宅療養中であることがわかった.さらに1名がパーキンソン病を発症しており,1名が脳出血後の後遺症を有していた.3名が体調不良を原因に来院できなくなったのちに,連絡がつかなくなっており,3名が死亡していた.すなわち,現在追跡ができない高齢インプラント患者のうち,約21%が何らかの全身状態の変化が原因で追跡できないという結果であった.診療録調査によって,高齢者では認知症や悪性腫瘍,脳血管障害といった全身状態の変化によりリコールに応じられなくなり,その後予後を追跡できなくなる患者が少なくないことが明らかとなった.今後は,加齢に伴い全身疾患を患った患者や要介護の状態になった高齢者の在宅,施設訪問による予後調査を行い,高齢インプラント患者の問題点をさらに明確にし,その対応策に関しても模索していく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当科で口腔インプラント治療を受けた現在年齢65歳以上の高齢患者の全数調査によって,追跡不能患者の約2割が,何らかの全身状態の変化が原因で追跡できないということがわかった.現在,これらの患者の現状を追跡調査し,インプラント体やインプラント義歯の予後を把握するプロトコルのブラッシュアップを行っている.このプロトコルには,現在の全身疾患やADL,認知症の程度,食形態,栄養状態など,全身状態を把握する診査を含める必要があるため,過去の文献から示唆を得るとともに,実際に介護施設で歯科治療にあたっている歯科医師の意見を集約しながら,作成を進めている.申請時の予定では,追跡調査も平成23年度内に行う予定であったが,包含基準に該当する対象数が多く,診療録調査に時間を要したため,今年度は実施できなかった.しかし,ブラッシュアップしたプロトコルを用いた診査は,平成24年度9月頃に実施できる予定であり,計画は概ね達成していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成23年度に抽出した,口腔インプラント治療を受けた追跡不能高齢者を対象に,現在作成中の調査プロトコル(口腔内診査,インプラント体周囲の炎症の診査,X線撮影による骨レベルの診査,全身疾患,ADL,認知機能,摂食嚥下機能,介護環境を含む)を用いて臨床診査を実施する.外来受診が可能な高齢者は外来にて,不可能な高齢者は介護施設,病院,自宅などを訪問し,臨床診査を行う.2.岡山県下の老人介護施設ならびに歯科診療所に研究参加の依頼1で対象とした当科の高齢患者のみでは,インプラント義歯を装着している要介護者の数は十分ではないと予測される.そこで,対象者数を増やして介護現場におけるインプラント義歯装着高齢者の実態を把握するため,岡山老人施設協会所属の介護施設および岡山県下の当科関連歯科診療所に対し,本研究への参加を依頼する.3.研究参加に同意していただいた要介護高齢者に対し,当科の口腔インプラント患者の追跡予後調査によってブラッシュアップされたプロトコルを用いて臨床診査を行う.さらに,口腔衛生管理者へ介護負担度に関するアンケートを実施する.そして,インプラント義歯装着患者と可撤性床義歯装着患者ならびに義歯非装着患者の問題点を抽出し,比較する.さらに,これらの全高齢者を対象に,インプラント体の有無が臨床診査結果や口腔衛生管理者の負担度にどのような影響を与えるかを,多変量解析を用いて明らかにする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の実施計画では,当科で口腔インプラント治療を受けた高齢者のうち,追跡不能患者の訪問による臨床診査を,平成23年度に行う予定であった.しかし,対象者数が多かったために診療録調査に時間を要し,平成24年度に実施することになった.これに伴い,訪問先でインプラント体周囲の骨レベルを確認するために撮影する,ポータブルレントゲン撮影機の購入を,平成24年度に繰り越すこととなった.平成24年度以降は,実際に追跡不能患者の訪問調査を行い,介護現場の記録を行うとともに,訪問先でレントゲン写真を撮る計画であるため,撮影を行うためのハードならびに画像解析ソフトを購入する予定である.また,実際の診査データをインターネットに接続していない,独立したパーソナルコンピューターで管理する必要があるため,パーソナルコンピューターを購入する予定である.多くの施設に訪問しなければならないため,調査研究費(旅費)が必要となる.
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[Journal Article] 施設に入所している要介護高齢者の問題点を抽出するテュートリアル演習の試み.2011
Author(s)
松香芳三, 縄稚久美子, 木村 彩, 完山 学, 水口 一, 三野卓哉, 丸濵功太郎, 前川賢治, 藤澤拓生, 園山 亘, 峯 篤史, 菊谷 武, 窪木拓男.
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Journal Title
老年歯科医学
Volume: 26
Pages: 36-45
Peer Reviewed
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