2011 Fiscal Year Research-status Report
口腔扁平上皮癌の浸潤転移阻止を目的としたWntシグナル伝達経路の解析
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23792339
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
米川 敦子 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (70600914)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 口腔癌 / 浸潤 / 転移 / Wntシグナル / beta-catenin |
Research Abstract |
口腔癌の治療において、浸潤と転移を制御することが重要である。Wntシグナル伝達経路は個体の発生過程において様々な役割を担っている。Wntシグナル伝達経路にはbeta-catenin経路、PCP経路、Ca2+経路がある。このWntシグナル伝達経路の中心をなすのがbeta-catenin経路であり、大腸癌を始め多くの癌でこの経路の恒常的な活性化が癌化に寄与すると考えられている。一方、近年、beta-catenin経路の標的遺伝子として、細胞の運動や浸潤に関わる遺伝子が報告されている。本研究の目的は、口腔扁平上皮癌におけるWnt/beta-catenin経路と浸潤や転移との関連性を解析し、口腔癌の浸潤や転移を抑制する新たな分子標的治療薬の開発を目指すものである。実験にはbeta-cateninが細胞膜にのみ局在する口腔扁平上皮癌細胞Ca9-22と、この細胞に変異型beta-cateninを遺伝子導入し、細胞質および核にbeta-cateninが集積するC1、C5を使用した。これまでにC1、C5の細胞生物学的特性を解析したところ、細胞形態が紡錘形となり、E-cadherinの局在に変化がみられ、上皮間葉移行が起こっていることを確認した。C1、C5は遊走能、浸潤能が亢進し、転写因子TCF/Lefの転写活性が増強し、beta-catenin経路の標的遺伝子であるMMP7の遺伝子発現が上昇した。また細胞運動に関与するRac、Cdc42の活性化が起き、細胞骨格の再構成が認められことが明らかになった。H23年度はTCF/Lefの転写活性の亢進が遊走能の亢進を引き起こしたのかを検討するためにC1、C5にドミナントネガティブTCFを遺伝子導入したところ、TCF/Lefの転写活性が抑制され、遊走能も抑制された。さらにC1、C5の細胞形態は丸みを帯び、ストレスファイバーのの伸展が抑制された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H23年度の当初の目的はPCP経路に関与するRacやCdc42の活性化がbeta-catenin経路からシグナルをうけているか否かを検討することであった。そのためにC1、C5にドミナントネガティブTCFを遺伝子導入し、実験を行った。ドミナントネガティブTCFをC1、C5細胞に遺伝子導入するとTCF/Lefの転写活性は抑制され、遊走能の亢進も抑制された。また細胞形態が丸みを帯び、ストレスファイバーの伸展が抑制されたことが明らかとなり、beta-catenin経路の活性により、遊走能の亢進と、細胞形態や細胞骨格の変化が生じることが明らかとなった。現在、ドミナントネガティブTCFを遺伝子導入し、Pull down assyにてRacやCdc42の活性について検討行っているがまだ結果の判明には至っていない状況であり、beta-catenin経路とPCP経路のクロストークが直接的もしくは間接的にあるか否かの結論には至っておらず、やや実験計画は遅行していると考える。またbeta-catenin経路の浸潤・遊走に関連する標的遺伝子の探索では、今まで報告のある標的遺伝子の発現をC1、C5で解析したが親株であるCa9-22と発現量に差がある遺伝子はMMP7以外認めなかった。新規遺伝子については、DNAマイクロアレイを行い、一定量の変化の認められた遺伝子のうち、細胞の運動、遊走に関連する遺伝子の選択までを現在行っている段階であり、その遺伝子の発現量を定量PCRで検定する段階には至っていないため、当初の計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、ドミナントネガティブTCFをC1、C5に遺伝子導入し、pull down assayにてRacやCdc42の活性について検討を行う。RacやCdc42の活性の抑制が認められた場合はbeta-catenin経路の標的遺伝子によって直接的あるいは間接的にRho familyが活性化を受けたことになり、2つのWntシグナル伝達経路におけるクロストークが存在すると考えられる。活性化の抑制が認められない場合は、可能性としてWntおよびレセプターからのDvlを介したシグナルが増強した結果であるとも考えられるため、レセプターであるFrizzeledやLRP5/6の阻害剤を使用し、Wnt、FrizzeledあるいはLRP5/6を介した経路からRho familyが活性化を受けたのかを検討する。これと関連して各Wnt自身の発現をRT-PCRで検討し、発現増強がみられる因子に関しては定量PCRによって詳細に発現量を測定する。さらにその因子のSiRNAを使用して、Rho family分子の活性化や遊走能の変化について検討を行う。beta-catenin経路の浸潤・遊走に関連する新規遺伝子の検索についてはDNAマイクロアレイで解析した結果、一定量以上の変化が見られた遺伝子うち、細胞の運動、遊走に関連する遺伝子を選択し、定量PCRにて発現量を検定する。真に一定量以上の差がみられた遺伝子に関して、蛋白レベルでの発現量の差をWestern blottingによって確認する。またその遺伝子のSiRNAを用いて、遊走能やRho family分子の活性について検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度の交付金のうち、1,100,000円およびH23年度の繰越金のうち300,000円を物品費に使用予定である。主にpull down assayに使用する抗体、ビーズ、試薬やFrizzeled、LRP5/6の阻害剤、標的遺伝子の検索の際に使用するRT-PCRや定量PCRのプライマーや試薬、Western blottingに用いる抗体、SiRNAを購入し、実験を行う予定である。また標的遺伝子の検索に際しては、再度DNAマイクロアレイを行う可能性もあり、その費用も含めて物品費に計上している。またH23年度およびH24年度の研究結果を国内、海外の学会で発表するために旅費として、H24年度の交付金のうち、200,000円とH23年度の繰越金129,435円を使用予定である。その他、論文掲載料、通信費などの費用として200,000円を計上している。
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