2011 Fiscal Year Research-status Report
歯周組織の炎症と再生における低酸素環境が遺伝子転写活性へ及ぼす影響
Project/Area Number |
23792478
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
岩田 倫幸 広島大学, 病院, 助教 (30418793)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 低酸素 / 間葉系幹細胞 / 歯周予防学 / 転写活性 / 再生歯学 |
Research Abstract |
歯周組織の酸素濃度は、歯周炎の病態と恒常性維持に深く関わり、細胞機能の制御に関与していることが示唆されている。平成23年度における本研究では、(1)低酸素環境が歯周組織再生に対して重要であること(2)酸素濃度調整によって低酸素誘導性転写因子群が制御されることによる"歯周組織の恒常性を維持した効果的な歯周組織再生"を最終的な目的として、低酸素環境が分化能を中心とした培養細胞の機能に及ぼす影響を、低酸素誘導因子HIF-1αおよび間葉系幹細胞(MSCs)の未分化マーカー転写因子からなる転写因子群の関与という観点から研究を推進した。平成23年度に行なった研究の具体的な内容として、MSCsを用いて、(1)未分化マーカー転写因子に対する低酸素およびHIF-1αの影響 (2)骨分化に対する低酸素およびHIF-1αの影響 (3)低酸素環境下において誘導されうるmicroRNAの網羅的解析を行なった。得られた結果として、(1)HIF-1α誘導条件下および未分化維持条件下において、3種のMSCs未分化マーカー転写因子の発現上昇が12~24時間で認められた。(2)骨分化誘導の前に低酸素培養または未分化維持刺激を行なうことにより、MSCs骨分化に対する促進効果が認められた。(3)MSCsをHIF-1α誘導条件下および未分化維持条件下で12~24時間培養すると、377種のmicroRNAのうち、すべての誘導因子刺激において上昇を示したmicroRNAは40種であり、減少を示したのは12種であった。以上の結果により、MSCsの分化制御には低酸素で誘導される転写因子およびmicroRNAが関与していることが明らかとなった。このことにより、MSCs分化に対して重要な役割を果たす因子の同定が可能となり、最終的には、酸素濃度調整を中心とした低酸素誘導性転写因子群の制御による効果的な歯周組織再生を行なうことにつながることが期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に行なった実験において、1.未分化マーカー転写因子に対する低酸素およびHIF-1αの影響:間葉系幹細胞(MSCs)を低酸素誘導因子HIF-1α誘導因子または未分化維持刺激存在下で培養し、0~72時間でのMSCs未分化マーカー転写因子(ETV1, SOX11, FOXP1,GATA6, SIM2, ETV5, HMGA2, PRDM16, KLF12)の発現に対する評価を行なったところ、GATA6, ETV5, SIM2の発現上昇が12~24時間で認められた。2.骨分化に対する低酸素およびHIF-1αの影響:MSCsを低酸素環境下で培養により骨関連遺伝子の発現レベルおよび石灰化に対する影響の評価を行なったところ、骨分化誘導前に低酸素培養を行なうことにより、石灰化の著明な促進は認めないが、骨関連遺伝子Runx2, Osterix, Osteopontinの促進が認められた。また、骨分化誘導前にNogginまたはトリコスタチンA刺激を行なうことにより同様な結果が得られた。3.低酸素環境下において誘導されうるmicroRNAの網羅的解析:MSCsをHIF-1α誘導条件下で0~72時間培養し、低酸素環境下で誘導されるmicroRNAをmiRNA arrayを用いて網羅的に解析した結果、377種のmicroRNAのうち、すべての誘導因子刺激において上昇を示したmicroRNAは40種であり減少を示したmicroRNAは12種であった。という結果が得られている。これらの結果は、交付申請時の平成23年度研究実施計画をほぼ満たしており、また平成24年度研究実施計画の一部に及んでいるため、現在までの達成度はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.炎症性サイトカイン発現に対する低酸素およびHIF-1αの影響:MSCs,HPL cellsおよび歯肉線維芽細胞(HGF)を低酸素環境下で培養することにより炎症性サイトカインの発現レベルを検討する。HIF-1α誘導因子は(1)低酸素, (2)塩化コバルトを用い、炎症性サイトカインとして、(1)IL-1β (2)IL-8, (3)TNF-α (4)セルロプラスミンの検討を行なう。 2.低酸素誘導未分化関連転写因子の細胞機能に対する影響:HIF-1αおよびこれまでの実験で発現上昇が確認された低酸素誘導性未分化マーカー転写因子(GATA6, ETV5, SIM2)の発現をsiRNAによって抑制し、MSCsおよびHPL cellsでの炎症性サイトカインの発現、細胞増殖および骨分化について検討する。3.低酸素環境下における細胞機能制御に関与するmicroRNAの同定:MSCsにおいて低酸素により誘導されたmicroRNAの中から、遺伝子ライブラリーを用いて低酸素誘導性未分化マーカー転写因子に関連するmicroRNAを選択する。更に、これらの発現が、siRNAによる転写因子の発現制御により影響を受けることを確認するために、HIF-1α誘導環境下で培養した上でmicroRNAの発現解析を行なう。また、HPL cellsおよびHGFを用いても同様な実験を行なう予定である。4.microRNA発現調整による細胞機能に対する影響および歯周組織での炎症制御に対する影響:MSCsおよびHPL cellsにおいて、上記実験で選択したmicroRNAの発現調整を行ない、細胞増殖および骨分化に対する影響を検討する。また、HPL cells, HGFおよびMSCsにおいて、細胞へのmicroRNAトランスフェクションによりmicroRNAの発現調整を行ない、炎症誘導因子存在下での炎症性サイトカインの発現に対する影響を検討する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費の使用計画として、MSCs,HPL cellsおよびHGFにおける炎症性サイトカイン発現に対する低酸素およびHIF-1αの影響を確認する目的として、炎症性サイトカイン((1)IL-1β (2)IL-8 (3)TNF-α(4)セルロプラスミン)のmRNA発現をリアルタイムPCR法およびタンパク発現をELISA法を用いて解析を行なう予定であるが、そのために必要な試薬、具体的にはリアルタイムPCR用のプローブおよび酵素などを購入する必要がある。また、低酸素誘導未分化関連転写因子の細胞機能に対する影響を確認する目的として、遺伝子抑制のためのsiRNA、細胞導入に対する条件検討用siRNAおよび細胞導入に必要な試薬も購入する必要がある。siRNAの抑制効果に対しては、リアルタイムPCR法およびウエスタンブロッティング法を用いてタンパクレベルおよびmRNAレベルで検討する予定であるので、必要な試薬を購入する必要がある。低酸素環境下における細胞機能制御に関与するmicroRNAを遺伝子ライブラリーを用いて同定した後に、そのmicroRNA発現調整による細胞機能ならびに歯周組織での炎症制御に対する影響を調べる目的で細胞へのmicroRNA導入を行なう予定であるが、導入のためのmicroRNA合成、条件検討用microRNAならびに細胞導入に用いる試薬を購入する必要がある。細胞への導入効率に関しては、リアルタイムPCR法で検討する予定であるので、miRNA assayを含む必要な試薬を購入する必要がある。 なお、上記実験に用いる細胞(MSCs,HPL cellsおよびHGF)の購入ならびに細胞培養と骨分化誘導に必要な試薬・器具は適宜購入が必要である。更に、本実験に関して十分な成果・結果が得られた場合には、前年度に得られた結果と併せて研究成果を学会発表または論文投稿で発表していく予定である。
|