2011 Fiscal Year Research-status Report
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23792633
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
吉田 倫子 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30463805)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 母乳 / 乳腺炎 |
Research Abstract |
母乳育児支援に関わる助産師の経験知の中に、母親が乳腺炎を起こす予兆として、乳児が授乳を嫌がる行動を示すという現象がある。過去の我々の調査において、味覚センサ(味認識装置SA-402B インテリジェントセンサーテクノロジー社)を用いて母乳の味を分析したところ、乳腺炎および乳腺炎の前兆の母乳において、実際に母乳の味が変化していることが明らかとなった。中でも旨味の増加が特徴的に認められた。 そこで、旨味成分に関わるアミノ酸に着目し、母乳の旨味とアミノ酸との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。その結果、乳腺炎群の母乳は、対照群と比較して、アミノ酸濃度が上昇傾向にあり、中でも9種類のアミノ酸で有意な差がみとめられた。また、高濃度となったアミノ酸は、殆どが親水性のアミノ酸であった。各アミノ酸と旨味の関係を調べたところ、11種類のアミノ酸と旨味が正の相関関係にあった。しかし、旨味の代表的な成分であるグルタミン酸との相関は認められなかった。グルタミン酸は、それ自体では酸味を生じ、グルタミン酸ナトリウムの状態となって旨味を生ずることから、グルタミン酸の味を考える場合には、対となる陽イオンの影響を欠くことはできない。そこで、グルタミン酸への影響を調べるために、本研究の対照群と乳腺炎群について元素分析(Na、K、Ca、Mg、Zn、Fe、Cu、Mn)を行った。その結果、乳腺炎群において有意にカルシウムの濃度が高くなっていた。カルシウムは苦味を生ずることから、本研究のグルタミン酸への影響が考えられた。 今後は、アミノ酸以外の旨味成分である核酸系のイノシン酸やグアニル酸の濃度、それらの成分と味覚センサの旨味の値との相関の有無を明らかにし、論文としてまとめる予定である。本研究により、母乳の味の変化について、生化学的な検証が可能となれば、それにより、乳腺炎の予知と予防が可能になると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H23年度は当初の予定に沿って、母乳のアミノ酸、糖質、ミネラル、脂肪酸の分析を行い、中でも現在論文の中心的なテーマとして考えているのがアミノ酸についてである。今年度は、先行研究にて味覚センサが捉えた乳腺炎時の母乳の味の特徴的な変化である旨味の増加のメカニズムを、旨味を生ずる代表的な成分であるアミノ酸、中でもグルタミン酸の濃度変化を用いて説明できるのではないかと仮説を立てて行ってきた。しかし、対照群と乳腺炎群において、グルタミン酸で有意な増加が認められたものの、本研究の味覚センサが捉えた旨味の値とグルタミン酸では、相関関係が認められなかったため、旨味成分について更なる分析が必要となった。 アミノ酸以外の旨味の代表的な成分としては核酸系のイノシン酸やグアニル酸が考えられる。中でもカツオなどの魚の旨味とされるイノシン酸は、魚が生きているうちは肉質内に存在しないが、魚が死ぬと筋肉中の酵素が活動を始め、増加すると言われている。このような変化は、乳腺炎時の細胞の炎症性変化とも類似していることが考えられる。以上の理由から新たに母乳の核酸系の分析を実施した。予算的な事情から、核酸分析を専門としている業者への依頼が難しく、研究者が連携している研究機関にて分析技術の試験を重ねての実施であったため、時間を要してしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、H21年度より継続して行っており、H23年度は乳腺炎時の母乳の味の変化の背景にある成分変化を明らかにする(研究1)ために、母乳中の各成分分析を行った。H24年度は成分分析にて明らかとなった成分をターゲットとして、乳腺炎の予知が可能であるかを検証する(研究2)ことを計画している。 今年年度は、次年度に向けて、乳腺炎の予知に用いるターゲットとなる成分を選定する期間であったが、選定が予想以上に難航している。現時点で、乳腺炎時の旨味の増加メカニズムに関する論文を作成するデータが揃ったので早急にまとめ、論文作成したい。また一方で、本研究の対照群と乳腺炎群の属性を比較した時に、乳腺炎群での妊娠中の体重増加が著名であった。先行研究にて、妊婦のBMIと母乳の脂肪酸濃度の関係性について報告があることから、本研究の脂肪酸分析のデータを用いて母乳中の脂肪酸濃度の増加と乳腺炎発症との因果関係を解明できる可能性がある。 成分分析は予定に沿って進めているが、炎症に関連する成分として考えているサイトカインとPGE2の分析がまだ行えていないため、引き続き成分分析も並行して行う予定とする。研究は少し遅れているが、研究1での正確なターゲットの選定が、次の研究の基盤となるため、最後まで確実に行い、ターゲットの選定ができ次第研究に取りかかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究1の成分分析が、H24年5月現在までかかったため、今後支払いが必要である。さらに、炎症関連成分の分析費(サイトカイン、PGE2)が必要となる。 研究2では、研究1で明らかとなったデータをターゲットとして中心的に分析するが、その他の成分についても分析を計画している。よって、アミノ酸分析費、糖分析費、ミネラルの分析費、脂肪酸の分析費、核酸分析費、炎症関連成分の分析費が必要となる。
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