2011 Fiscal Year Annual Research Report
植物由来の揮発性物質テルペン類の気液境界相における不均一反応研究
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23810013
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
江波 進一 京都大学, 次世代研究者育成センター, 准教授 (00589385)
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Keywords | 大気化学 / 環境化学 / 界面 / テルペン / 植物 / オゾン / エアロゾル / 質量分析法 |
Research Abstract |
我々の身の回りにおけるすべての環境の中で、もっとも興味深く、本質的な反応は「界面」で起きている。例えば、地球の気候変動に大きな影響を与えている大気エアロゾルは大気中でオゾンやOHラジカルなどの反応性ガスと空気/エアロゾル境界相において不均一界面反応を起こす。その結果、液相や気相中とは全く異なる新規反応によって新しい反応性気体を大気に放出していることが明らかになってきた(Enami et al, J.Phys. Chem. A, 2007,111. 8749)。大気エアロゾルの表面積は地表の総面積の100倍以上であり、その膨大かつ未知の反応場への理解は極めて重要である。気液境界相はその他の媒体とは本質的に異質な、極めてユニークな媒体である。例えば、気液境界相では特定のアニオンが選択的に存在し、そこでの反応速度は液中のそれと比較しての10の5乗倍以上促進される例も報告されている。テルペン類は植物由来の揮発性成分であり膨大な量が放出されている。例えばHumuleneは松の木やオレンジ、タバコ、ヒマワリなどの植物から放出されており、2次生成エアロゾルの発生に重要な寄与をしていると考えられている。その重要性にもかかわらずテルペン類の界面反応に関する研究はこれまでほとんどなかった。そのような反応を直接測定することができる界面反応測定装置がなかったためである。キャビティーリングダウンレーザー分光法(CRDS)とエレクトロスプレー質量分析法(ESMS)を組み合わせたこれまでにない斬新な界面反応測定装置を用いて近年大気化学で重要視されてきたテルペン類の気液境界相における不均一反応を研究する。具体的にはテルペン類の中でも最も反応性の高いHumuleneを含む液体マイクロジェットに気体オゾンを吹き付け、気相、液相、界面にそれぞれ生成する中間体と生成物を検出・同定する。オゾン濃度とHumulene濃度を変化させて、その反応機構を考察する。またESMSの電圧を変化させることでCollision Induced Dissociation (CID)を起こし、その生成物を分析することで界面に生成する中間体・生成物の構造を決定する。これらによってテルペン類が霧などの大気の微小液滴に付着しどのような界面反応を経て変質していくかが解明される。このような研究は前例がなく、本装置を用いて初めて実現される。すでにオゾンを吹き付けるセットアップは完了しており、予備的実験であるレチノイン酸とオゾンの界面反応に関する知見を得ている。また本装置を用いて水の界面でのイオン挙動に関する成果を上げた(Enami et al. J Chem. Phys. 2012 in press)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
すでに本装置を用いて界面におけるイオンの挙動に関する重要な研究成果を上げることができたため(Enami et al. J.Chem. Phys. 2012 in press)。またオゾンを吹き付けるセットアップは完成しており、すでに予備的実験を行っている。以上の結果、上記の研究は今年度中に完成する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
すでにオゾンを吹き付けるセットアップまで進んでおり、後は実際に実験を行うだけになっている。まずは生成物が比較的予想しやすいレチノイン酸とオゾンの界面反応を測定する。レチノイン酸は水・アセトニトリル混合溶媒に溶解させ、マイクロジェットにする。そこに気体のオゾンを吹き付け、生成するエポキシ化合物を検出する。またバルク中のオゾン反応とどのように違うのかを考察する。次に上記と同様にHumuleneとオゾンの界面反応を測定する予定である。
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