2011 Fiscal Year Annual Research Report
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23820013
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西脇 麻衣子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 研究員 (60613867)
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Keywords | 存在構文 / 修飾的属格 / 古高ドイツ語 / 情報構造 |
Research Abstract |
平成23年度6は定性表現に関する研究に重点を置いた。研究の成果は次の2点にまとめられる。 (1)ドイツ語の存在構文「es gibt+対格名詞句」では対格名詞句が不定のものを表すことが圧倒的に多いが、定のものを表す使用例も散見される。8月にミュンヘン大学で行われたワークショップでの口頭発表では、対格名詞句が定性、特に前方照応的な定性を表し得るのは、この存在構文の中高ドイツ語期に始まる文法化がさらに進んだからであるとのテーゼを立てた。 口頭発表後は、オンライン・コーパスの調査を含む一次文献の分析を通じて、上記のテーゼを統計的に裏付けるとともに、論文として発表した(ドイツ文法理論研究会機関誌「エネルゲイア」37号に掲載予定)。 (2)現代ドイツ語では主要部名詞の前に置かれる修飾の属格は定冠詞と相互排他的である。これは、主要部前置の属格が定冠詞と同じようなはたらきをもっていることを示唆している。現代ドイツ語の主要部前置の属格が専ら固有名詞と代名詞に限られるのに対し、古高ドイツ語では修飾的属格は主要部の前に置かれる方が一般的である。定冠詞の定着がまだ完了していなかったとされる古高ドイツ語期では、主要部前置の属格は定性を表す機能をもっていたのだろうか。 『オトフリートの福音書』(9世紀後半)の一部を分析した結果、主要部前置の属格が定性表現に関与しているという明らかな根拠は見い出せず、属格の位置の違いは定性・不定性の違いというよりもむしろ、属格部分と主要部名詞から成る複合名詞句の情報構造の違いとして捉えられるのではないかという結論を得た。主要部前置の場合、属格部分の意味から見た主要部名詞の意味が焦点化されるのに対して、主要部後置の場合、複合名詞句の中で後置された属格部分の意味に焦点が当たっているとする仮説を論文としてまとめた(投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に研究実施計画として記載した3点のうち、ドイツ語の定冠詞の研究はやや遅れているものの、上記の「研究実績の概要」でも述べた他の2点については、論文として研究成果をかたちにすることができたため、研究はほぼ計画通りに進んでいると自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
定性表現に関する研究の一環として、文の主語の定性と話法の助動詞の解釈(認識的モダリティ表現か否か)との関わりについて、「ドイツ語のモダリティ」研究会議で口頭発表する(5月、於ミュンヘン大学)。発表内容は論文としてまとめ、この会議の論集に投稿する予定である。
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