2011 Fiscal Year Annual Research Report
陸九淵『象山先生文集』の新資料:北京大学図書館所蔵本から近世東アジアをとらえ直す
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23820045
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中嶋 諒 学習院大学, 東洋文化研究所, PD共同研究員 (80614726)
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Keywords | 中国哲学 / 思想史 |
Research Abstract |
研究代表者は、2011年12月24日より29日に至るまで中国北京に赴き、北京大学図書館古籍特蔵室に所蔵される陸九淵の文集『象山先生文集』(以下、北京大学図書館本)の調査を行った。この北京大学図書館本は従来全く研究がなされてこなかったが、内題下部に「(陸九淵)九世孫陸時寿重刊」と記されており、これまで現存最古のものとされてきた陸和(陸九淵十世の孫)の手による中国国家図書館所蔵本(以下、国家図書館本)よりもさらに時代を遡るものであった。まずはこの書の存在を明らかにしたこと自体が、昨年度における大きな実績となろう。 また北京大学図書館本の調査にあたっては、その許可を得た上で、デジタルカメラによる撮影を試みた。そして帰国後、昨年度末に至るまで、この撮影データと国家図書館本を始めとする『象山先生文集』諸本との校勘作業を行った。結果として、陸九淵の思想自体を見直さなければならないような大きな差違は、残念ながら発見できなかったが、細かな異同が随所に見られ、そこから北京大学図書館本の成立過程や、『象山先生文集』諸本との関わりを明らかにすることはできそうである。これは従来ほとんどなされてこなかった陸九淵の文集資料の書誌的側面からの研究となる。本年度も引き続き考察していく予定であるが、近々大きな成果があげられると確信している。 さらに研究代表者は、併せて陸九淵の思想研究も行った。とりわけその『春秋』解釈について検討し、その成果は後掲の雑誌論文、及び学会発表をもって公のものとした。陸九淵は一般に、著述に積極的でなかったとされてきたが、晩年には『春秋』の注釈書を著す意志があり、また断片的にではあるが『春秋』に対する見解を述べている。これらでは以上のことに着目し、従来の著述を拒む陸九淵像の見直しを図るべきことを提案したものであり、必ずや陸九淵の研究史において無視できないものとなるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北京大学図書館本の調査、及び撮影データの入手が、滞りなくできたため。北京大学図書館本と『象山先生文集』諸本とに大きな差違が見られなかったことは誤算であったが、細かな異同が予想以上に多く見られ、これらを精密に分析することでその成立過程や諸本との関連などが明らかにできると予測されるため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き北京大学図書館本の考察につとめ、その成立過程や「象山先生文集』諸本との関連を明らかにすることを目指す。なおその際には、昨年度以上に陸九淵の関連資料の調査を行いたい。具体的には、中国上海の上海図書館、復旦大学図書館での資料調査を考えているが、現在刊行中の各種目録類を見る限り、日本国内においても未調査の資料は多くあると予測されることから、国内の図書館、文庫等の調査も予定している。
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