2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代言語学の概念形成?エミール・バンヴェニストの草稿研究
Project/Area Number |
23820048
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小野 文 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (00418948)
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Keywords | バンヴェニスト / 草稿研究 / 近代言語学 |
Research Abstract |
平成23年度は、研究調査としてパリ国立図書館・リシュリュー館にて草稿資料を閲覧し、また一部の複写を依頼・実施した(閲覧と複写の際には、フランス国立科学研究センター(CNRS)の草稿研究院(ITEM)のIrene Fenoglio主任研究員、また国立図書館リシュリュー館(草稿部)副主任のAnne-Sophie Delhaye氏の協力を仰いだ)。 本年度、特に取り上げた資料は、Papiers Orientalists書庫ケースn°52に収められている「冒涜語と婉曲語(Blasphemie et euphemie)」の草稿資料である。この資料を取り上げた理由は、草稿がバンヴェニスト言語学、また近代言語学の主要概念の一つである「発話行為」という概念と関連があるということ、またメモ類がほとんど完全な形でまとまって封書に入れられているという理由からによる。草稿の紙片は合計して113葉、全てITEMを通じて複写を申し込み、受理された。 資料読解の結果、「神の名」に関する冒頭語・婉曲語を生み出す「ことばと人間」の関係を、当時の言語学の潮流に逆らって、バンヴェニストが言語学の中心的な主題として扱っていることが判明した。また「発話行為」の概念が「言挙げ」という宗教的・儀式的意味をもった行為と深く結びついていることも理解できた。発話行為、すなわち「言うこと」は、言われたことを存在に結びつけ、その存在を肯定する力となる。そのような意味で、否定文も元々はある存在の肯定とならざるを得ないとバンヴェニストは強調している。「冒涜語」という一見特殊な言語事象を通して、バンヴェニストが「言うこと」一般に関して省察を加えているのを見ることができた。 この「冒涜語と婉曲語」の草稿資料、およびバンヴェニストの草稿一般が持つ性格に関して、フランス語と日本語でそれぞれ論文執筆を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来バンヴェニストの草稿は、碑文文芸アカデミーが著作権を管理しているため閲覧・複写が難しいものであるらしいが、今回、フランス国立科学研究センターの研究チームを通じて一部の草稿を閲覧・複写でき、またその資料に関しては読解も進めることができたので、研究の進展を見ることができた。一方、当初研究計画で予定していた草稿資料のカタログの加筆修正に関しては、草稿の量が予想以上に大量であること、また一度に一つの封書以上の閲覧が許されていないため、断念せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度も草稿資料の調査を続け、新しい資料の発掘とその読解を進めたい。特に今年度は「ことばにおける主体性」に関する草稿資料を探しあてたいと考えている。引き続きフランスの研究チームと協力しながら調査を進める予定である。 また今回、閲覧できた資料のなかに、パフチンやボードレール、サルトル、アルトーなどの文学者の名前が散見できたので、バンヴェニストと文学の関係についても、言語学史的な視点から考察する必要があると考えている。
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