2011 Fiscal Year Annual Research Report
非常時のメディアにおける表現の自由について―谷崎潤一郎訳源氏物語を一事例として―
Project/Area Number |
23820056
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西野 厚志 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (00608937)
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Keywords | 日本文学 / 中世文学 / 日本哲学 / 社会言語学 |
Research Abstract |
社会の高度情報化によりメディア規制が重要な問題として浮上している現在、戦後期の検閲資料「占領期雑誌記事情報データベース」のweb上での公開と『占領期雑誌資料大系』(岩波書店)刊行など、文学研究でもメディアにおける検閲の問題が注目されつつある。戦後のGHQによる検閲が速やかに導入された条件として戦前の内務省による検閲の実施があったが、関係資料が残っていないためにその実態はほとんど知られていない。そのような中、日本最大の古典「源氏物語」も戦時下規制の対象となっていたことが近年明らかになってきている。特に、これまで申請者は作家谷崎潤一郎(1886~1965)が手がけ、その後の「源氏ブーム」のさきがけとなった、『潤一郎訳源氏物語』全26巻(1939~1941)、『潤一郎新訳源氏物語』全12巻(1951~1954)、『潤一郎新々訳源氏物語』全11巻(1964~1965)が、戦時下に検閲の憂き目にあい、無数の削除を余儀なくされていたことを明らかにしてきた。そこで本研究では、これまでの成果を踏まえつつ、谷崎潤一郎によって戦中に現代語訳された「源氏物語」をひとつの事例として、現在にも通じる「表現の自由」とそれに伴う「責任」という理念の再検討・再構築を目的とする。本年度は、戦時下版「谷崎源氏」でも争点のひとつとなった性差を撹乱する表現の前史として、谷崎によるヴァイニンガー(世紀末ウィーンの性差別を主張する思想家)1の受容を同時代の他の作家の受容状況と比較しながら考察した。成果は昨年北京で開催された学会で発表し、その後学内紀要に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文学研究でもメディアにおける検閲の問題が注目されつつある現在、「谷崎源氏」をひとつの事例として、現在にも通じる「表現の自由」とそれに伴う「責任」という理念の再検討・再構築を目的としているが、本務校におけるデータベースの充実等による情報教育の進展が目覚しく、教育の補助業務を通して、自らも高度なリテラシーを身に付けることができたため、研究計画は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
深化する「谷崎源氏」研究だが、現在、新資料が出品されている。中公編集者雨宮庸蔵・福山秀賢の後任、木内高音宛谷崎書簡(一九四〇~四一)四四通である。「全て「源氏物語」谷崎潤一郎訳(愛蔵本)発行に関しての校正・中扉の色・ゲラ刷り・見本刷の指示・相談を記した文章」だという(『八木書店優品古書目録』二〇一二・二)。これに全集所収書簡や嶋中雄作宛谷崎書簡(『谷崎先生の書簡』前出)、山田宛谷崎書簡・雨宮書簡(富山市立図書館蔵)、雨宮宛谷崎書簡(『芦屋市谷崎潤一郎記念館資料集二』一九九六)、同山田書簡(細江光「雨宮庸蔵氏所蔵山田孝雄書簡紹介」『芦屋市谷崎潤一郎記念館ニュース』二一、一九九六・一二)を時系列に並べれば、制作の舞台裏が明らかとなろう。本年度は当該資料を購入、分析をする。
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Research Products
(2 results)