2011 Fiscal Year Annual Research Report
中世イロハ引き日本語辞書の漢字字体認識及び注記構造に関する研究
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23820063
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
村井 宏栄 名古屋学院大学, 商学部, 講師 (40610770)
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Keywords | イロハ引き辞書 / 「作」注記 / 異体字 / 異表記 / 『色葉字類抄』 / 『下学集』 / 『筋用集』 |
Research Abstract |
本研究では、規範の表れやすい辞書をモデルとし、中世イロハ引き日本語辞書を対象として字体認識を明らかにするとともに、それに伴う注記構造を分析することで辞書構造の解明を目指している。ある二つの文字について、視覚に映る物理的な形を「字形」といい、文字の骨組みを「字体」という。両者の違いは明確でなく、分析方法の未整備が障壁となっている。ワード・プロセッサーによって各人が容易に同一字形を実現しうる現代とは異なり、規範の実態が不明である日本中世にあって字体認識をいかに求めうるのか、解明が求められている。この研究目標の下、23年度は日本最古のイロハ引き辞書『色葉字類抄』(12c)を対象に調査を行った。その結果、『色葉字類抄』の「作」注記は基本的には字体注記であるが、まま異表記を示す指標となっていること、「作」注記の形式の中では特に「又作」が多く見出され、『大漢和辞典』との照合の結果、「又作」においては見出し字・注記字間に必ずしも関係性が認められず、異字体を包含した異表記の表示と見なしうるなど「亦作」との性質の違いが存すること、改編に際して見出し字を注記字化している形跡が認められ、注記構造の解明は異本との比較によっても追求すべきであることが分かった。この内容の一部については23年度末に雑誌論文として投稿を行い、現在査読結果を待っているところである。本年度の成果の公開としては、「三巻本『色葉字類抄』における「作」注記について」と題して学会発表という形で行った(『日本語学会2011年度春季大会予稿集』、『日本語の研究』7-4に予稿及び要旨をそれぞれ収録)。また、続く課題の設定として現在、『下学集』(15c)・古本『節用集』(15c)についても異体字・異表記の調査を行っている。各文献間の対照や各文献内における注記システムの解明、文学作品等写本・版本における字体出現との比較については、24年度の課題として残っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は当初の予定通り『色葉字類抄』の「作」注記についての分析を行い、雑誌論文1本を投稿した(現在査読中)。23年度の研究成果について24年度に別の1本も公開を予定しており、研究経過と成果公開について時間的なずれはあるものの、ほぼ順調と言える。なお、表計算ソフトへのデータ入力についてもほぼ予定通り進行しているが、漢字字体のスキャナによるデータ収集が予定通りは進んでおらず、24年度の課題と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は『下学集』『節用集』等中世成立の辞書における注記の収集を中心に行う。また当該字が文学作品等において実際に用いられた字体を辞書記述と比較することで、辞書という文献上の特色といかに異なるのか分析を加える。当初の予定では『色葉字類抄』・『下学集』・古本『節用集』について「作」注記を中心とした異字体・異表記の注記箇所のデータ収集を進める予定であったが、異本間の差が大きく、またデータも膨大となることなどから、『今昔文字鏡』を用いたデータ入力を中心とすることへと計画を変更していく。ただし論旨として問題となる事柄についてはこの限りではなく、今までと同様スキャナ等による画像の保存と収集を続ける。
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Research Products
(2 results)